ただいま、愛しのメイドさん

第13話 とにかくメイドさんを味わいたい!! で精神力を消費する

 アレクシスさんのやかたから、我が屋敷に帰還する頃には。


 日が暮れ始めていた。


 アイさんと、メジスト姉さんは、酒場で祝勝会? 


 してから、屋敷に戻るらしい。


「お帰りなさい! ご主人さま!」

「お帰りなさいませ。旦那様」

「ああああ! お外、怖かったよー! カナふぁん、リナふぁん、ジュライム君!」


 何十年も待たせていた愛しい人との再会。


 そのくらいの嗚咽おえつである。


「カナさん! むぎゅーが不足して、気が狂いそうう!」

『すでに、気が狂ってるじゃろうが。この、むぎゅーバーサーカーめ!』

「はい! ご主人さま。いつでもどうぞ! えへへへ!」


 両手を広げつつ。


 屈託くったくのない笑顔で待ち構えるカナさん。


 この時をどれほど渇望かつぼうしていたか!


「ただいま! カナさん! むぎゅーからの一回転!」


 抱擁を味わいつつも。


 カナさんを楽しませることを忘れない。


 親が子供をあやすみたいになってるけど。


「……旦那様、夕食になさいますか? それとも、休息して――」

「リナさん、リナさん、リナさんを所望しょもうする!」


 とにかく、リナさん。


 とりあえず、リナさん。


 なんでも、リナさん!


「わたくしですか? いかがいたしましょうか? 旦那様?」

「じゃあ、リナさんからむぎゅーしてくださいい! お願いしますうう!」


 はっきり言って、リナさんに構ってもらえば。


 おんだ。


「では、失礼いたしますわ。……無事に帰宅なされて、喜ばしいです。旦那様」

「うんうん。……リナさんの耳に、ただいまの、接吻せっぷんを」


 これだよ、これ。


 俺は、今、帰ってきたー! 


 ちゅつ、ちゅつ。


 耳がピクピクしてるー。


 いじめたい、リナさんのお耳。


「だ、だんなさま!? わたくしの、耳に!? ああん!?」


 ハーフエルフであるリナさんの耳は。


 エルフと遜色そんしょくないと思う。


 だからと言って、キスする理由はないですけど。


 でも、リナさんを感じたいんだっ! 


 腕の中で、体を震わせているリナさんが、愛おしい!

 

「いつまで茶番を続ける気ですの。わたくし、クリスティーナの帰還ですのよ! メイド失格ですわね!」


 おい、茶番だと!? 


 この儀式の重要性が分からない奴め!


 ……まあいい、クリスティーナ。


 お前は生贄いけにえなる運命だ。後悔先に立たず。


「別に、クリスのメイドじゃないし! こう言って欲しいの? えーと、ど疲れちゃんでした? あっ、サーヤちゃん! やっほー、お帰り! 疲れてない?」

「カナちゃん、ただいま帰りました! う~ん、ちょっとかな? あ、スライムさん、帰って来ましたよー!」


 和気あいあいでいいですねー。


 ……ぼっちなの? クリスティーナ? 


 大丈夫? 修学旅行の班決めぐらいの案件? 余っちゃうよ?


「あ、あからさまの塩対応ですの!?……な、なんです? スライム? ね、ねぎらってくださるの?……おーほほほ! モンスターにもわたくしの偉大さを理解させるとは。お疲れちゃんですわー!」


 スライム君。


 君の方が偉大な人格者であると確信しているからね。






「アレクシスさんに頼んで。パンと、ビスケット、ワインと、ぶどうジュースをいただきました。スライム君には、やかた周辺で採掘された魔石をプレゼントです」

「パンとビスケットにジュース!? おみやげ! おみやげ! 嬉しいです!」


 そうか、そうか。準備したかいがあったよ。


 はしゃいで、お耳が立っていますね。

 

 さ、触りたいかも!? 


 が、がまんです。


 健気に喜んでいるのですよ。自重じちょうせねば。


「わたくし共の為にわざわざ。カナ、旦那様にお礼を忘れないの!」


 喜んでくれるだけで、満足です。


 スライム君も、謝礼は結構ですので。


「……で、こちらが報酬外の金貨。盗賊どもをやっつけた懸賞金……うううう。すんすん」


 大袋にどっさりと金貨が詰まっている。


 中身を確認するだけで、まぶしくなりそうだ。


「こ、こんな金貨の量、見たことないです!? あわわわ!? ブ、ブルジョワ!?」

「だ、だんなさま!? もしや、あの『お掃除旅団そうじりょだん』は」


 があああ!? そのネーミングめてぇー! 


 僕、壊れちゃう! 


 張り裂けちゃう!


「アレクシスさんのやかたに向かう道中に盗賊が。アイさんとメジストさんの協力で、げ、撃退できた。で、ですよ? ね、ソージ君? みんなで頑張ったぞー!? イエーイ!? ビクトリー!? ダブルピース!?」

「サーヤちゃん、実際は?」

「ごめんなさい。ソージ君が数多あまたの賊を一人で。電撃魔法で瞬殺でしたね……はい」


 サーヤも言い訳できないんだね。


 でも……心意気は伝わったよ。


 柄にもないキャラを演じさせたね。すまぬ。


 あ、ダブルピースはとても良かったです!


「そうでしたか。街の人々が、遠方で大量に盗賊団が捕縛、連行されて来たと騒ぎになっていましたが。旦那様のご活躍は誇らしいですわ。メイド冥利みょうりきるとはこの事ですね。ふふふふ」


 いつくしむ様に言われるとですね。


 て、照れちゃいますよ。


 意味ありげな、視線も!? 


 か、勘違いかな!?


 時折ときおり見せる、妖艶さはなんでしょう!?


「わーい! やりました、ご主人さま! 悪い人間を成敗ですね!……妙に静かだね、クリス。ははん、ご主人さまに圧倒されたんでしょ。どんまいですわー! こんな感じ?」

「わ、わたくしは、いたって平常心ですわよ! ソージがわたくしのしもべとして、代わりに賊を蹴散けちらしただけのこと。それだけですわ。ぐぬぬぬ。 ぜ、全然、驚きません。ぎぎぎぎぎ。そうだと、言いなさいよ! ソージ! ふぬう!」


 自分で話しをっておいて、逆切れするとは。


 そうしないと精神を保てないのね、ふぬう!


 ……憤怒ふんぬを表しているのか!?


「金貨を皆に分配しようと思うけど……クリスティーナは、いらないみたいだね。お嬢様だし。しもべのほどこしじゃあ、面目が立たないもんね?」

「ソージ様のお力に只々ただただ驚愕きょうがくと尊敬の念をいだきましたわ。カナさんとリナさん、スライムさんにも見せたかったですわ。凛々しく、勇敢ゆうかんな姿を。……ソージ様、むぎゅーはいかかですの?」


 ……手のひら返し。


 守銭奴クリスティーナだよ! 


 ビッチ認定するぞ!


「清々しい程の、ゲスティーナですね。旦那様、放置して構いませんわ!」

「クリス最低。ご主人さまとむぎゅーする権利無し! ぽんこつ!」


 散々な言われようだな。


 ……友人いるのかな? 浮いてる存在なの? 


 保護者目線になってきた。


「……とは言え、パーティーのメンバーだから、相応の分け前をしないとね。サーヤも」

「断ったら、また暗い顔されるのは嫌ですしね。ソージ君が、それで納得するなら、異論はありませんよ? それから、今日は、その、あ、ありがとうです。何がと言われても、その、無事に依頼をこなせた事とか!?」


 きわどい下半身の患部をいやしたり。


 短パンを引きずり落としたことですね。


 これからも、まかせろ、サーヤ! でゅへへ!


『絶対、おさげ娘はそうは思っとらんじゃろうが!? 盗賊との戦闘中の事じゃ!』

「サーヤちゃん。今日一日で、ご主人さまと親しくなったね。その理由、詳しく知りたいです! 参考に! ぜひぜひ!」

「……確かに。呼び方も互いに変更なさったみたいですわね。旦那様についての心境の変化を分析するのもメイドの任務。調査に協力を、サーヤ様!」


 メイド達の質問攻めに苦心している。


 姉妹の圧に押され気味だ。


 サーヤ、がんば!


 ……俺からは、説明できないよね。


 セクハラ行為を自分の口からね、しゃべれないもん。


「ソージ様、具体的な金貨の枚数は? わたくしの敏感すぎる体を、いじってもよろしいですわよ~? 今なら、ボーナスタイムですわー! 感じすぎちゃって、おかしくなっちゃいますわ~! そ、そのかわり、金貨の枚数を他の人より、アップ、アップ! よろしくちゃんですわね! おーほほほ!」


 てめえは、てめえで、何を言ってんだ? 


 ご両親が聞いたら泣いちゃうぞ!


 逆に誘われると、そんな気になんないだよなあ。


「放置プレイですの!? それはそれで、良いですわー! 金貨ゲットですわー! お疲れちゃん、ソージ様!」

 

 


 

 



 

 

 

 

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