第10話 お掃除旅団認定で精神力を消費する

「なあ、聞いたか? 周辺の賊どもが大量に捕まったってよ!」

「ああ! それに、事案じあん盗賊のデュヘもな。若い娘を茂みに連れ込み、色気のあるポーズをさせて楽しむ。うらやま……ごほん。不届きな奴さ!」


 でゅへ!? あいつの名前だったの!? 


 事案盗賊ってなに!? どっちの意味!? 


 確かに盗賊は事案だけど!?


「賞金首もかなり含まれていたらしい。倒した冒険達は一獲千金いっかくせんきんだろうな!」

「そう言えば、冒険者達の名称は『お掃除そうじ旅団りょだん』とか」


 目的の貴族の領地内に入った途端。


 人々が口々に噂話をしている。


「ソージ君!? 意気消沈いきしょうちんしなくてもね!? 悪い人達を捕まえたご褒美ほうびですよ!? 金貨100枚の報酬なんて、ふ、普通です!?」


 賊どもを駆逐くちくした後に。


 騒ぎを察知した騎士団やら、冒険者やら、集まって来た。


 賊どもは、騎士団によって連行。


 その中には、手配書に合致する人物が大量に存在していた。


 思わぬ形で金貨を得る羽目になり。


 ギルドの依頼を忘れそうになる。


 本末転倒だよ!? メインは荷馬車を届けて金貨5枚を皆で分け合って。


 よくやったよな! 


 初の依頼、お疲れちゃんですわ! 


 ソージ君、やりましたね! 


 みたいな展開を期待していたのに。


「あへ、わたくしは、とんだ道化どうけですわ。気安く話しかけて御免なさい……グズティーナと呼んでいいよ。あ、なぐみ者として必要としくださるの? お優しい方ですわね。おほほ」

『ダブルピースサインがあれば完璧じゃった! 85点!』


 虚ろな瞳でアヘ顔、や、やめてよー!? 


 心、らないで!? 


 実力差に絶望しないで!? 


 もはや、別キャラだよ!? 格闘ゲームの裏キャラ!?


「ソー坊は変わってるね。力を誇示こじしたく無いのかい?」

「力を持つ者はその影響力を常に考えなければならない。力を持っていても良い事ないですよ、メジスト姉さん。……トラブルは好まないので」


 注目を浴びることに、メリットもある。


 しかし、それをとしないやからの悪意。


 嫉妬が。面倒だ。


『引きこもり精神は、異世界に来ても簡単に変わらんか。他人と意思疎通するだけでも進歩したと言うべきじゃな。うむうむ』

「ソージは謙虚けんきょだな。そこが好きなのか、あたしは? あはっ!」


 こ、告白!? いたずら娘め!? 


 でも、うれしいですー! チョロい男なんですー! 


 八重歯やえばが可愛いー!


「皆さま方。あそこが、依頼のありました、貴族さまのおやかたです」


 辺境な土地にお城の様なたたずまい。


 ついに、目的地に着いた。






「これはこれは。遠路えんろはるばるご苦労。私がここの当主、アレクシスだ」

「ご丁寧に、ありがとうございます。初心者冒険者のソージです」

「魔法騎士のサーヤと申します」

「同じく、くず、な、なぐさ、クリスティーナですわ!?」


 おい!? 自分の存在に疑問符をつけるな!? 


 クリスティーナだろが!? 


 迷子センター係の人連れて来て!


「……冒険者のアイです」

「野蛮なメジストだよ!」


 アイさんとメジスト姉さん!? 


 貴族には態度が固いの!? 


 嫌な事、昔されたのかな? 


 けんか腰だよ!? 


 権力者には、忖度さんたく精神! 大事だから!


「ソージ君、そんなに慌てなくても大丈夫だ。貴族には本質を見抜く事ができない連中が多い。冒険者達を理由もなく馬鹿にする奴もだ。反感を買うのも仕方ないさ。全く、他の貴族どもめ! 今度、暗殺部隊でも送ろうかな?」


 貴族らしからぬ思考回路に。


 好感を持つ。


 ジョークのセンスも秀逸だ。


「あはっ! じゃあ、あたしがその暗殺部隊の一員にしてくれるかい?」

「アイ一人じゃあ、不安だからね。あたしも加えてもらえるかい?」

「頼もしいではないか! わははは! 殲滅せんめつさせてやる! 力こそ正義! イエス!」


 前言撤回。


 このご当主様は、まともな貴族ではないのかもしれない。


「あなた、冗談は程々ほどほどになさって? 遠方から物資を運んで来てくだっさたのよ? いつまで立ち話を?」

「うむ。そうであったな。流石、気配り上手の我が妻、ソフィア! さすソフィ!」


 アレクシスさんの奥さんだろうか? 


 ソフィアさんか。


 おっとりした雰囲気だ。包容力がありそうな女性。


「変な略称りゃくしょうをつけないでください! アレクシス! お客様の前で!」

「愛してるのだから、よいではないか? 今晩は、楽しみだな! ハッスル!」


 ソフィアさんがプライベートな会話を人前でされて困惑気味だ。


 これが愛!? くうー、見せつけちゃって、リア充貴族め! 


 今晩なにするんですかね?


 げへへへ!……あれ? デジャヴ!?


「……ソージ君に似てますね」

「ソージだね」

「ソー坊だね」

「ご主人様ですわね」


 類は友を呼ぶのかな!? 俺も、薄々感じ取ってたよ。指摘しなくても。ハニー達のいけずう!……クリスティーナ、お前は、戻ってこいよ!




「簡単な昼食を用意させてもらった。遠慮せずに食べなさい」

「はい、いただきます」


 昼食にしては豪華な食事だ。


 鶏肉の丸焼き、ふわふわのパン。


 ライスにスープにサラダ、フルーツ、赤ワイン。


 酒場での朝食に比べると、あきらかに豪華だ。


 カナさんとリナさん、スライム君にも食べさせてあげたかったな。


 お土産買っていこうかな? 


「サーヤ様、赤ワインですわよ? 愛のまさぐり記念日にどうぞ、一口ひとくち

「そ、そんな、記念日ありません!? いい加減、普段のクリスティーナさんに戻って!? か、勝手にグラスを!?……一口ひとくちだけですからね! 酔わない程度ですよ? まだ、任務中ですし!」

「酔っても、俺の能力で元の状態に戻してあげるから。心配せずにね? 一応」


 飲酒運転ダメゼッタイ! 


 この世界にそのような法律はなさそうだけど。


 心がけは大切だから。予防線を張っておこう。


「とにかく、肉類。 にくにく!」

「あたしは野菜類も。アイ、肉ばっかり食べるんじゃないよ?」

にぎやかで喜ばしいですね。……あらら? 先程、盗賊団が大量に捕まったと噂になっていましてよ? もしや、皆さまが?」


 ソフィアさんが鎌をかけるとは思いたくもないが。


 おっとりした口調で、噂の真相を尋ねて来た。


「みなさまとゆふか、うーまあ、ふぉんなところかな? あたしは、今日は、露払つゆはらいみたいな活躍しか出来なくてさ。欲求不満なんだ、ねえ? ソージ?」


 アイさん、食べ物をもぐもぐしながらの会話は、マナーが悪いですよ。


 欲求は、なるべく解消しましょう。


 生活を豊かにしてくれます。


「アイがそれを言うのかい? あたしだって、おほほ娘のカバーぐらいしかしてないねえ、ソー坊?」


 メジスト姉さんは、ちゃんと至らない私達をフォローしてくれましたね。


 精神的支柱に感謝です。


「わ、私は、ソージ君に助けてもらってるばかりでした。鍛錬に励み、精進を。ね、ソージ君?」


 ご謙遜けんそんを。


 あの、盗賊デュへを倒したのは貴女です、サーヤさん。


 周辺地域にご住まいの女性達は。


 さぞ安心した事でしょうね。


「賊のモブを初級魔法で撃破して、時代の寵児ちょうじ気取っていましたわね。さぞ、哀れに思われたでしょう? おほほ。ソージ様?」

「なんで、みんな、俺に会話を振るのよ!? みんな頑張った、グッジョブ! で良いじゃん!」


 仲間たちが遠回しに話題を振って来るのに耐えかねて。


 駄々をこねる。


「ほう! 噂のパーティーだったとは! 周辺の住民に変わり感謝するぞ、ソージ君! あれほどの規模の盗賊どもを仕留めるとはな! もてなしをする私も名誉であるぞ! わははは!」

「皆さん、ソージさんの実力を認めているのね! 自慢をしない所も親しみやすいですわ! エクセレント!」


 もはや、皮肉にしか聞こえないよ!? 


 いつもの俺に戻れる日は来るのかな!?


 

 

 

 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る