第9話 盗賊達の襲撃で精神力を消費する

「順調な時こそ用心せよ。なぜなら、その状態がずっと続く訳ではないのだから」


 気を抜かずに、冷静に。


 クールなイメージ。


 常に、最悪を想定しとけ、俺。


『緊張するな、お主。大丈夫じゃ、わらわも一緒じゃ』

「ソージ……さん、誰かの格言ですか?」


 再びサーヤさんと同じ馬にご一緒させていただきます。


 まあ、馬に乗る時にサーヤさんが羞恥心しゅうちしんに耐えかねて錯乱さくらん状態だったけど。


「……いや、何となく思いついただけ。ただの独り言。それより、サーヤさん、下半身は大丈夫? 痛くない?」

「い、言わせないで、ください!?……せっかく、忘れ去ろうと努めているんですから。だ、だいじょうぶ、です。……うー、顔からファイヤーボールが出そう」


 そんな態度されちゃうと。


 もっと、ちょっかいを出したくなっちゃうよー。


 我慢、我慢。


 女子との距離感を間違えると悲惨だからね。


『社交儀礼で接してたのに。何、勘違いしてるの? 告白、おつ

「ぎゃああ!? 俺の豆腐とうふメンタルぐわぁー!?」

「そ、ソージさん!? やっぱり精神に負担を!? も、も、もっと体を預けても、いいですからね?」


 お言葉に甘えさせてもらいます。


 サーヤさんの体に密着。


 ふう、落ち着いた。


「あらら? 見せつけちゃってますわよ! おっと、また肝心な所でお邪魔してしまいましたわー! 末永くお疲れちゃんですわねー!」

「クリスティーナ。分かってる、後でな。うん。後で。必ず」


 ソロソロ、リミットガ、チカイゾ? 


 ソンナニ、カマッテホシイノカ? 


 クリスティーナサン!


「荷馬車の商人さん、ストップ! ソージ達も!」

「どうしました? な、なにか、いましたかな?」


 先頭を走っていたアイさんが指示を出す。


 異常事態を確認しようとする荷馬車の商人は。


 緊張のあまり、声がうわずった。


「あたしはソー坊達を援護するよ!」

「な、何ですの!? 敵襲ですの!?」

「落ち着いて、クリスティーナさん!」

「あはっ! 隠れてないで出てきなよ? あたしが全員、相手にしてやるからさ!」


 アイさんが嬉しそうに大声で前方に呼びかける。


 ぞろぞろと、何処からともなく現れたのは。


 言うまでもなく盗賊達であった。


 各々おのおの、服装が異世界ファンタジーに登場する。


 お決まりの盗賊姿をしているのだから、丸わかりであるが。


「元気がいい、ネエちゃんだな! いいぞ、荷馬車と女にありつけるとは! ツイてるぜ!」

「か、かしら! オ、オレは後ろにいる人妻みたいなエロい女を!」

「オレは、髪がネジってる金髪女だぜ! 気が強い女をとすのがいいんだよ!」

「オイラは、薄い赤毛のおさげちゃん! あんなこと、こんなこと仕込む楽しみが。でゅへ!」


 口々に、下劣な品評会を絶賛開催中の賊達。


 捕らぬたぬき皮算用かわざんようとはこの事だろう。


「クリスティーナの胸は、すでに、みほぐし済みだ! 当店のマッサージの予約も入っているのだ! げへへへ!」

「どっちが賊か分かりませんわ!? そ、それに、予約もしていませんわよ!?」


 胸を両手で隠すクリスティーナ。


 予約のキャンセルは受け付けておりません。


「さあ、大人しく荷馬車を明け渡すんだよ! そうすれば、命だけは助けてやる! だが、俺たちも久しぶりの女だあ! 体がもてばいいがあ!?」

「があ!? か、かしら!?」


 があ!? の頭はセリフを言い終わる前に。


 自らの異変を口にした。


 子分達も、一体何事かと必死に状況を確認する。


「さっさとしてくんない? 退屈! 好みじゃないんだよ、ヤル事だけを考える男。恥ずかしさをちつつ、申し訳なさそうなソージの態度を見習え!」

「ちょ!? アイさん!? 僕が悪いんです!? 見透みすかさないで!?」


 一瞬の出来事。


 アイさんの大剣の仕業しわざだと認識するのに。


 時間を必要とした。


「こ、このアマ、調子にぐわ!?」

「ポニーテールちゃん! もらっだあ!?」

「激しくなぎぎ払って!? ありがとうございます!?」


 次々と賊がアイさんを襲うが。


 接近する前に倒される。


 予想外の出来事に、おののく略奪者達。


 あの重さの大剣を自在に振り回すとは。


 うん!? 言動のおかしい賊がいたな!? ご褒美なの!?


「ク、クソ! この女は後回しだ! 荷馬車の中身を奪え!」


 かなわないとみて、賊は方針転換。


 奴らの目的は、アイさんを排除する事では無い。


 実に、悪賢い選択だろう。


「おりょ? ど、どこ行くのさ!? まだ、満足してないのにー!……メジスト姉さん、そっち行っちゃた。ソージ? 行く、行く、いっちゃった。……あはっ、想像したでしょ? 男の子!」

「べ、べつに、してねーし!? 敵が来るだけでしょ!?」


 深い意味は特にないんだ!? 


 アイさんの妄言さ!? 


 エロい意味なんて!?


「アイには困ったもんだね。賊を自由にさせてどうするんだい?……おほほ娘、サーヤ、ソー坊、来るよ!」

「だ、誰が、おほほ娘ですの!?……返り討ちにして差し上げますわ!」

「油断禁物ですね。ソージさん、荷物を守りますよ!」


 いよいよ本格的に戦闘態勢に入る。


 各自、個別に撃破する事に集中した。


 駆け出し冒険者の俺達に。


 アドバイスをしてくれたメジスト姉さんの言いつけ通りにな。


「けしからん肉体だな! 胸を揉ませろ! ネジ娘!」

「【放つ電撃! 痙攣けいれんさせよ! サンダーショックですわ!】」


 クリスティーナの容赦ない電撃魔法が。


 不埒ふらちな賊の一人を直撃した。


「がはっ!? む、むねを……もめず……むねん」


 やられセリフそれでいいのか!? 


 思春期の男子学生なの!?


「へえ、魔法を使えるとはね。驚いたよ、ネジネジ娘。でも、背後が危なっかしいねえ!」

「静かに回り込んでいたのに!? バトルアックスだけは、やめ!? ぐぁはー!?」


 クリスティーナ背後を狙っていた賊が。


 メジスト姉さんの一振りによってぎ払われた。


「クリスティーナ、クリスティーナですわ! サポートお疲れちゃん! 今は、わたくしの時代が到来中とうらいですわね! らいだけに!」


 ダジャレを披露するほど、調子に乗っていやがる。


 メジスト姉さん、そいつもついでにやっちゃてくれないかな?


「でゅへ! おさげちゃん、こっちの茂みで休憩しようよ! あんなこと、こんなこと、教えてあげる、でゅへへ!」


 ぽっちゃりとした不審者が。


 サーヤを目掛けて猪突猛進ちょとつもうしん


 発言内容に、身に覚えがあると感じたのは疑問である。


 【スキル発動 行動停止 指定した者の動きを停止させる】


「でゅへ!? う、動けない!?」

「あれ!? わ、わたし、も、もう、その体験してます!?【火の玉よ! でゅへを燃やせ! ファイヤーボール!】

「脂肪が燃焼しちゃう!? スリムになっちゃう!? でゅへー!?」


 火傷と急激な体温上昇により。


 でゅへは失神した。


 え豚が大変燃えた、でゅへへへ。


 歌をんでしまったぜ。


「能力を使って援護してくれたのですか? ソージさん?」

「サーヤさんにちょっかいを出すのは、俺だけで充分でしょ? でゅへ!」

「も、燃やしますよ!? ソージ……君。……ありがとう……です」


 君!? この場合どうなんだ!? 


 さんよりランクダウンしたのかな?


 ……自分の行いが招いた結果だ……甘んじて受け入れよう。


『いや、そうとも限らんぞ? 気を許せる仲になったとも考えられる。ともあれ、無事で何より』

「おお! 駆け出し連中にしては、やるじゃん! しかも、ソージ? 何か力を隠してんなあ? 教えないと、いたずらしちゃうかもな。うん、教えてもやっちゃうか?あはっ!」

「こ、こいつら、強いぞ!?」

「増援を呼べ、狼煙のろしを上げろ!」





「いいタイミングだぜ!『賊によるぞくぞく会合』の帰りに狼煙のろしを見かけるとは!」


 狼煙のろしを発見した周辺の賊達がはせ参じて来た。


 数は、ざっと50人以上いるだろうか。


「あはっ! あははは! 少しは楽しめそうだよ!」

「ソー坊たちは下がってな。アイとあたしで片づける!」

「た、多勢たぜい無勢ぶぜいではなくて? 不埒者ふらちもの生贄いけにえにして、逃げた方が!?」

「ソージ君、どうしたら」


 いや、アイさんとメジスト姉さんからすさまじい闘気とうきを感じる。


 10分ぐらいで賊の皆さんを壊滅させるだろうな。


 久しぶりに強者のオーラを感じたぜ。


 でも、まあ、俺、あんまり活躍してないし。


 パーティーのメンバーを不安にさせるのはね。


 精神力も余ってる。やるか。


 【スキル発動 魔法使用可能 精神力を消費して任意の魔法が使える】


「【雷よ! 川の流れの様に放電せよ! サンダーショックリヴァー!】」


 多数の賊達に対して。


 電撃による広範囲魔法を唱えた。


 誰かさんの上位互換魔法だ。


『……スゲーのが出たぞ! お主!』

「で、電撃!? ぎゃああ!?」

「あべべべべべ!?」

「肩こり腰痛に効くといいな!? ぎょぎょぎょ!?」

「ななななな!? 広範囲魔法で、電撃上位魔法ですの!? 」


 目の前で繰り広げられる光景に愕然がくぜんとするクリスティーナ。


 ……すいません。調子に乗っていたのは、俺でしたね。


「ソ、ソージ君、やればできる人です!? じ、実力者には敬語ですよね!? ソージ様!?」


 サーヤさんもキャラ崩壊するほどに。


 ショッキングだったのだろう。


 へりくだって、メイドさんみたいな口調になってしまった。


「うわっ!? さ、殺気!?」


 思わず身を引いてしまった!?


 ……アイさんとメジスト姉さんから!?


「おもしろいよ、ソージ! まさか、本気で戦えそうな存在だったとはね! あはっ、あはっ、あははは!」

「ソー坊、いいよ、たぎって来ちゃうじゃないか! うふふふ!」


 ヤベぇ!? この二人を相手にするのは自殺行為だぞ!?


 ……撤退したい。


「……これだけ殺気をはなっても、ソージはソージなんだね。安心した」

「それだけの力を持っていて。こんな殺気を当てられたら、私達は殺されても文句は言えないよ。でも、ソー坊は殺気すら出さなかった。つまり、むやみやたらに人を傷付けない男って訳さ。試すような真似をして悪かったね、ソー坊」


 いや、アイさんとメジスト姉さんが強すぎて。


 畏縮いしゅくしただけだよ!?


 買いかぶりだからね!?

 

 

 

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