第6話 拠点の準備に精神力を消費する

「ベッド、でかいな~。下級貴族といえど、貴族は貴族か。多くの女性と一夜を楽しむ事が出来る仕様なのかな?」


 自室に入り。第一声が、設置されていたベッドの大きさについて。


 どう考えても。


 一人、二人、三人用では無い。


『奴は貴族の中でも最下級の貴族。いい気になるなよ! 小僧!……貴族のたしなみの一つじゃろう』


 魔王の様な言い回しをするな。


 貴族をほろぼしに行くの!?


 地位が高ければ当然か。


 一夫多妻。後継者問題で大変そう。争っちゃいますね。


「これで寝床は確保できた。酒場のマスターに感謝、感謝」


 その場で丁寧に合掌。


 人脈は力だと、あらためて認識する。


「失礼しますよ、ソージさん?」


 部屋の扉を軽くノックしてから。


 サーヤさんが様子を伺いにやって来た。


「うわー! ベッドが大きいですね。一人だと持て余しそうです。……た、他意は無いですよ!?」

「サーヤさんのおませさん。言い訳しなくて良いのに。真面目まじめさんだね」


 顔を少し赤らめて、目線があっちこっちに。


 学校に居たなー、学級委員長キャラ。

 

 決して、悪い意味ではない。


 宿題とか教えてもらったけ。懐かしい。


「ご主人さま、お部屋はどんな感じですか? あ、サーヤちゃんも? そうそう、このお屋敷、魔石風呂があるんだよ! 炎の魔石を使用して沸かすらしいよ! ちょっと、来て!」


 ウキウキ気分がにじみ出ているカナさんが自室に登場。


 新しいおもちゃを与えた、子供の様な反応を見せつける。


「カナ、ち、ちゃん、落ち着いて!?」


 強引に連れ去られてしまったサーヤちゃん。


 サーヤさんの方はちゃんづけに慣れていなそうだな。


 本来のカナさんはこんな感じなのか。


 そもそも、いつの間に交流を深めたのだろう? 


 ちゃんづけしているし。


「旦那様? 何か不都合な事は、ありませんか? 欠陥部分などは?」

「特に問題無しですよ、リナさん。ただ、このベッドがね。ご覧の通りでさ」

「はい?」


 微笑ほほえみながら、問題を確認できない素振り?


 こ、小悪魔さんなのかな!?


「えーと!? リナさんの部屋は狭くない?」


 真意を確認するのも野暮やぼなので。


 当たり障りのない質問をする臆病者だ。


「個室が与えられるだけでも十分すぎるほどの待遇ですのに。不満などありません。ただ、就寝時に旦那様のおそばに居られないのが、ちょっと……なんでもありません」


 ちょっと、何ですか!? 


 気になる発言ですよ、リナさん!?






「げっ!? も、もう謝罪は結構ですわ! 近づいたら、反撃の魔法を唱えますわよ!」


 屋敷の一階、玄関ホールの入り口にて。


 クリスティーナ嬢に遭遇。


 謝罪を受け入れてもらったようだ。ぐへへへ!


 ……げっ!? とは何かな、クリスティーナサン!


「クリスティーナ嬢、何してんの? 愚民に教えてくださいますか?」

「いちいち嫌味な方ですわね! 屋敷の安全性を確認していたのですわ! 襲撃者対策!」


 語気を強めながら理由を話す。


 なるほど、防犯対策ね。


 お疲れちゃんです!


「で? 普通はどうするんだ? 案としては?」

「貴族でしたら、専門の冒険者や傭兵ようへいを雇うでしょうね。だだし、費用もそれなりですわ。また、屋敷内をウロチョロされて、精神衛生上よろしくなくてよ」


 金銭的にも大変か。


 自分たちで防衛するしかないのかな? 


 寝ずの番とか。


「魔法で結界とか出来ないの?」

「上級者の魔法使いでしたら、可能ですわ。わたくしとサーヤのレベルでは、自分の守りの強化魔法が、やっとですわね。現実的には、罠の設置、侵入された時の警報、見張り等ですわ」


 エトセさん? 屋敷全体に結界を張りたいのですが。


 俺の精神力、大丈夫?


『まてまてまて!? 早まるな! 昏睡状態になりたいのか? ボケ野郎が! 補充をしてから行動せよ! 殺すぞワレぇ!』


 全力で怒られた。


 精神力の補充? 欲望の充足だったか?


『ふん。ラッキースケベでも補充可能じゃ! エロい事が一番手っ取り早い。何かしら女子おなご共にやってもらえばよかろう?』


 そ、そんな事、面と向かって言えねーよ!? 


 むぎゅーを要求するぐらいだし!?


『知らんわ! セクハラをやっておきながら。なんじゃ、そのチキン振りは? コンビニでサイドメニューを頼むように、お願いしろよwwチキン一つお願いしますwwww』

「うがぁ、エトセトラ! やんのか、テメー!」

『ほら、来いよ! ソージを掃除してやんよ!』

「な、なんですの!? 大声を出して!?」

「ど、どうしました!? ソージさん!?」

「ご主人さま!? ご機嫌が!?」

「旦那様!? 気に障る事が!?」


 俺の怒声によって、皆を集合させてしまった。


 ふーふー、血圧が上昇したぜ。





「いきなり取り乱して、ごめんなさい。それで、能力で屋敷に結界を張る事は可能ですけど」

「嘘ですわよね!? あ、貴方に!? 冗談は、お止しになられて!」

「クリスティーナさん、話しは最後まで聞きませんか? 能力を使用するのに代償が必要で、悩まれたと? また、内なる声と相談し、ケンカをしてしまった」

「……おおむね、その通りです」


 サーヤさんが優しくさとす様に、話を促す。


 もはや、俺はクラスの問題児みたいな扱いに!?


 しょんぼり。反省文提出かな。


「ご主人さま? 少し疲れているですか? むぎゅーしますか?」

「旦那様の為なら、何でもいたしますわ!」


 うん? 今、何でもって言ったよね?


 この定番のセリフを言われても。


 命令できない運命なんだな。


 よよよよ。悲しい。


「よくもまあ、ベラベラと虚言を。呆れますわね!」

「うっかり、剣の素振りです!」

「あぶな!? さ、サーヤ!? こ、殺す気ですの!?」


 サーヤさんの剣がクリスティーナ嬢をかすめた。


 ふへへへ、ざまあ!


「能力の使用に関しての代償とは、意識不明におちいることですか? それを防ぐには?」

「欲望を満たすことですね。例えばですよ!? 男性特有の、その、異性に触れたりですとか!?」


 しどろもどろ、俺。 


 何の公開処刑!? 


 サーヤさんの純粋な性格が。


 今は苦しいです。ぐあああ!


「ご、ごめんなさい。言わせにくい事を。そ、そうですか」

「本当ですの? 信じがたいですわね。変態的行動を正当化するための方便ではなくて?」

「旦那様がでたらめな作り話をしているとでも? クリスティーナ?」


 リナさんがとても冷たい声で問い詰める。


 ちょっと、嗜虐性しぎゃくせいを刺激され。


 ゾクゾクしますわ。


「あらあら。愚者に雇われてるメイドも大変ですわね。自分自身も騙されるとも知らずに、庇うなんて。ハーフエルフは優しくされると誰でも仕えますの? おーほほほほ!」

「スラちゃん! クリスにマッサージしてあげて!」


 暴言に耐えかねたカナさんが。


 スライム君に命令する。


 えっ!? 操れるの!?


「おーほほほ!?……こ、この感触は!? あん、お止しになってー!?」


 ノルマ達成、お疲れちゃんですわ。


 スライム君も、ありがとう!


「ソージさんが無理に能力を使わなくても大丈夫ですよ! それぞれ出来る事をしましょう。相談してもらえて、嬉しいです」


 サーヤさん、まじ天使。


 フォローしてくれるんだね。


「旦那様、わたくしもカナも常に忠誠を。れ言には惑わせられませんから。不安になられませんように」


 リナさん、カナさん。


 こんな、俺に仕えてくれて。


 あれ? おかしいな? 


 視界が水分でぼやけるぞ?


「く、くたばれですわ! 結界を張れるなんて嘘をつく、詐欺師は! 悔しかったら、張ってみなさいよ! そらそら!」


 マッサージ中のクリスティーナサンが挑発してきましたよ? 


 どうする~?


『金髪ドリル娘の挑発じゃ。無視、無視。心穏やかにじゃぞ?』


 エトセトラさん、心配ご無用。


 悟りの境地を拙僧は目指しております。南無~。


「上等だあ! 代償はクリスティーナサン! キミニ、キメタヨ?」

「ふえ!? やらしい手つきで、どうなさするつもりですの!?」

「マッサージしてあげるから。スライム君、交代です」


 クリスティーナサンの胸を鷲掴み。


 優しく、もみほぐす。


 もみもみ。


「む、胸を揉まないで、らめですわ!? わたくし、人に触られるのは初めてなんですから!?」

「はーい。痛くありませんか? 若々しく、弾力もあり、とても柔らかいですね。貴女を愛してくれる殿方は幸せ者ですね。クリスティーナサン!」


 おお! 精神力が溜まってきた気がするぞ! 


 今なら、スキルを発動できそうだ。


 【スキル発動 セーフティーゾーン 拠点と認識した建物に物理、魔法、あらゆる攻撃を跳ね返す。また、悪意のある存在の侵入も防ぐ】


「サーヤさん、屋敷に結界を張ることができました! 体の異常も無いです!」

「ほ、本当ですか!? やりましたね、ソージさん! クリスティーナさんも……」

「はあ、はあ、ふぉんとうに、やりましたの? た、たしかめないと、いけませんわね」





「まずは、物理攻撃ですわ。胸を勝手に触りましたね! この変態!」


 屋敷出入口玄関に向かって、剣を大きく振りかぶり攻撃する。


 が、見えない壁のようなものに攻撃を弾かれる。


 個人的意見が混じっているが。


 今はそっとしておこう。


「きゃっ!? そ、そんな、フルパワーで殺そうとしたのに!?」


 一刀を防がれ、後方に倒れるクリスティーナ嬢。


 殺そうじゃなくて、壊そうだからな。


 M字開脚でふとももが強調されてますわよ!


 いやん、健康的!


「旦那様は嘘つきでないと、あれほど言いましたのに」

「ご主人さま、すごいです」

「ソージさん、バッチリですね!」


 無事に防衛対策ができて、感無量です。


 ……約一名は納得してませんけど。


「わたくしを本気にさせるとは。いい度胸ですわね、優男やさおとこ!【電撃よ! 貫くやりとなれ! サンダーランスですわ!】」


 うおおお! すげー! スパークしてるよ! 電撃の槍か!


 これが、クリスティーナの最大電撃魔法なのか?


「貫きなさい!」


 電撃の槍を投擲とうてきさせる。


 が、またもやはばまれ、そして――


「そんな馬鹿な!? わたくしのサンダーランスを、反射させ!?」


 茫然自失ぼうぜんじしつのクリスティーナ嬢に、そのまま魔法が。


 【スキル発動 魔法吸収 魔法を吸収し、力とする】


「ぬおー!? バチバチしてる! すさまじい威力!」

「あ、あなた、何をして!?」

「いや、ほっといたらクリスティーナ嬢に直撃するだろう? なおかつ、吸収して精神力の足しに。うわ、まだビリビリしてるよ。クリスティーナ嬢、魔力強いじゃん!」


 全身に活力がみなぎってくる。


 それだけ強力な魔法だという証拠だろう。


「クリスティーナさん、無茶しすぎですよ! ソージさんが魔法を防がなかったら、死んでいたかもしれないですよ!」


 サーヤさんも怒り心当状態になっている。


 ひえっ!?ごめんなさい!?


「旦那様も心配いたしましたわ! 危ない事は控えてくださいませ!」

「お姉さま、落ち着いて……」

「リナさん、ゴメン……」


 こちらも、リナさんに多大なる心配を。


 面目ない。安易な行動でした。


「わたくしの、魔法を、吸収した!?」


 クリスティーナ嬢? どうしたんだ?


 ……ともあれ、これで拠点の守りは実証できたな。


『時として、お主は突飛な行動をする。こちらも焦ったわい。自重せよ』

 


 

 



 

 


 

 

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