第4話 お疲れちゃんですわー! に精神力を消費する

「……どうも。ご心配とご迷惑をおかけした、ダメ人間のソージです」

「ご主人様!? 良かった。むぎゅーしちゃいます」


 ベッドから体を起こすと同時に。


 カナさん成分を補給した。


 はい、幸せのむぎゅーですね。


「旦那様は駄目人間では、ございません。窮地の女騎士を救ったのですから」

「……あれからどの位の時間が?」


 ゲームオーバー後のリスポーン地点。


 メイドさんに押し倒された部屋に、再び舞い戻るとは。


「ちょうど、昼食の時間です。先程、酒場の人達が差し入れに。ハーブティーもありますが、いかがでしょうか?」


 そこはかとなく、ハーブの香りが部屋を漂っている。


 それだけで、消耗しすぎた精神を癒してくれそうだ。


「……はい、いただきます」

「どうぞ、旦那様」


 ふー、温かくいい香り。


 体の隅々すみずみまで染み渡る~。生き返る~。


「こんな軟弱者に助けられるなんて……屈辱ですわ!」


 きゃんきゃんと指差してわめいている女騎士。


 心底嫌そうな表情で、こちらを睨みつけている。


「クリスティーナさん? 助けてもらっておいて、それは無いですよ? 無いですよ? あっ、うっかり【火の玉よ! クリスティーナを燃やせ! ファイヤーボール!】」


 同僚の態度に注意をするのは。


 おさげ髪の真面目な人物。


 名前は、確かサーヤさん?


「ちょっと!? うっかりでファイヤーボールを放つなんて。クレイジーですわ!? 私の名前を指定してますわよ!? ぎゃー!?」


 クリスティーナ嬢、炎上(笑)


 あれ? 勢いよく燃えてますけど!?


 死んだんじゃね!? 


 サーヤさん、キレると恐ろしいよお!?


「あん、まだ、敏感ですの、激しくしないで……」

「スライム君? クリスティーナ嬢とサーヤさんの体にくっついてるの?」


 炎上したかと思われたクリスティーナ嬢から出現。


 特性を生かし、炎を吸収した。


「ええ。その、媚薬成分が体に残ってしまい、大変だったところに……このスライムが分裂して私とクリスティーナさんの体に。どうやら、媚薬成分を中和してくれているらしいのです。……はん、ゆっくり動いてぇ!?」


 色んな意味で、グッジョブ! スライム君!


 ……媚薬成分で大変だったの!?


 ……ごめんなさい、想像してしまいました。


 不純な男さ、俺も。


「またこのスライムに体を浸食されるのも不名誉ですわ!! た、たしかに!? あのまま、火照りが収まらないのは困りましたけれども!?」


 もごもごと口ごもる。


 相当恥ずかしかったのだろう。


 もとい、エロかったのだろう。


「謎の商人は? どうなった?」

「他の魔法騎士団員に連行されましたわ。わたくしの手柄が! がるるる!」


 野獣の眼光!? モンスターかよ!? 


 クリスティーナ獣!?


「正確には、ソージさんのお手柄です。……この度のご助力に感謝を。貴方がいなければ私達はどうなっていたか」

「いやいや、サーヤさんの判断は適切でしたし。このスライム君が異質な存在だっただけですから。そんな気落ちしないで下さい」


 サーヤさんは人間的にも好感がもてるな。


 ときめいちゃうかも!?


 おさげ髪、チャーミングですね!


「……ソージさんは優しいですね」

「チョロいですわよ! サーヤ! こんな冴えない奴が好みなんですの? 殿方のセンスを疑いますわ! これだから、村出身の娘は」


 俺の事を馬鹿にしながら。


 得意げにサーヤさんの人格を否定する。


 どうやら、おしおきをせねばならないようだな!


 クリスティーナ嬢!


「スライム君? どうやらクリスティーナ嬢の脇の下と胸に汗が……じっくり、優しく、吸い取ってあげてね」

「へ!? なんですの!? わ、脇!? やん!? そんなところ、らめですわ!? 胸にも!? ムニュムニュ吸わないでぇー!?」


 ご苦労様です、スライム君。


 僕たち、ずっと友達だよ!


「旦那様も寝汗をかかれたでしょうから、わたくしが体をきますわ」

「お姉さま、わたしがやります」

「貴女は、旦那様に抱擁して頂いたでしょ? 今度はわたくしが役に立つ番です」


 リナさんが強く物事を主張するとは。


 いつも役に立っていますよ、リナさん。ありがたやー。


「では、わたしはご主人さまの服を脱がします。失礼しますね、ご主人さま」

「自分で出来るよ、カナさん!? 上半身だけでいいからね!? リナさん!?」


 あっという間に上半身裸に。


 鍛えられた肉体などしていないので。


 自慢すらできない体をさらすのは抵抗が。


「旦那様、まずは、お背中をかせていただきます」

「ふぁ、ふぁい!? よろしく、です」


 情けない声が出てしまった。


 緊張する。


 女性に体をかれるなんて、経験した事ないし!?


「ふふ、旦那様、緊張なさっているのですか? 大丈夫です、……優しくきますので」


 耳元でささやかないで!? 


 心臓が爆発しそう!? 


 ふー、ふー。はー。呼吸を整えて。


 温かい布切れで丁寧に背中をかれる。


 なんだろう、こそばゆい様な。


 でも、決して嫌ではないです。


 リナさんの真心まごころが伝わってくる感じ。


「どうでしょうか? 旦那様? ご不快ではありませんか?」

「うん。リナさん。問題ないです」

「では、次は正面を」

「え!? 正面!? 自分でけるよ!? リナさん!?」


 素早い動きで回り込まれてしまった。


 逃げられない。


 正面にリナさんが。

 

 金髪サラサラ長い。


 右目下のほくろがセクシー。


 まじまじ観察をするのは不謹慎なのだけど。


「わたくしの顔に何かついていますか? 旦那様?」

「いや、とても綺麗だなと思って」

「ご、ご冗談を!? で、では、かせて頂きます」


 手から腕へとかれる。


 そして、首元にさしかかった。


 柔らかく、温かい感触。


 チュッと音がした!?


「ふぇ!? リナさん!?」

「わたくしも、旦那様の真似をしてみたのですが……少しでも緊張がほぐれればと思い……わたくしは何を!? あ、頭を冷やしてきますので、カナ!? 続きはお願いします!? 皆様方の昼食の準備を!?」


 口元を手で押さえながら。


 部屋を走り去っていくリナさん。


 首元にキスされたよ。


 キスされた、キスされた。リナさんに!?


『エトセトラ復活! エコモード解除じゃあー! お主の回復に付き合わされる身にもなってほしいの。そもそも、人助けなどをホイホイするから』

「ご主人さま、わたしもお姉さまに負けないくらい! お世話しますからね!」


 この後の出来事は、まったく覚えていない。


 魂が抜けたようだったと、後にエトセトラから聞かされたのだった。





「サーヤさんとクリスティーナ嬢は、魔法騎士になったばかりなんだ。ふーん」

「だからと言って、侮ってもらっては困りますわ!……何ですの!? し、仕方ありませんね、ほら、水分ですわ」

「魔法騎士と言っても、主力の騎士団が他に存在していますので。団長のイノセント様を信奉する女騎士の集まりみたいなものです。スライムさん、お疲れ様でしたね」


 解毒作業が終わったスライム君にねぎらいを伝える二人。


 ……人の言葉まで理解して、学習してる!? 


 スペック高いな。スライム君。


「主な任務は街の巡回やギルドの依頼ですね。緊急的に問題が起これば、集合して事にあたる事にもなりますが。他に仕事を掛け持ちしている方もいます」

『ボランティア活動的なものか。就職に有利らしいぞ、大学時代に打ち込んでましたアピール!』


 就職の話題はヤメテ。


 俺に、ダメージが来るからね、ホント。


「貴方は何者ですの? あの商人の黒幕ではなくて? ハーフエルフのメイドを雇ってるみたいですし。そうですわ! 魔法騎士団に連行して手柄にしましょう! お疲れちゃんですわ! おーほほほ!」


 きさまこそ、なにさまだ。


 ゆるさぬぁーい!


 あとで、かくごするんだな、ぐふふふ。


『完全に黒幕じゃよ、その思考』

「ハーフエルフに何か問題があるの? リナさん、カナさん?」


 リナさんとカナさんの表情が明らかに曇った。


 二人とも体の動きが銅像みたいに停止しまう。


「……旦那様? ご存知では? ハーフエルフは不幸を呼び寄せるとか。存在自体が呪われてるとか」

「むしろ、二人のむぎゅーは幸福です。クリスティーナ嬢が呪われてそう。エロ担当の呪いwwww」

「むぎゃー! そういった噂や偏見がまだ残っていますの! その事で、何かしらの被害をこうむるハーフエルやその関係者がいるのも事実ですわよ?」

「あっそ」


 特別な感想は、無い。


 だだ言えるのは、このことぐらいさ。


「リナさん、カナさん、おいで。むぎゅーしたくなったからさ、してくれる?」

「……ふぁい、ご主人さま。むぎゅーじまず!」

「……も、もちろんですわ、旦那様」


 二人とも泣かないで。よしよし。


 ちょっと、クリスティーナ、泣かさないでよ!


 先生に言うからね?


 ……おまえ、オボエテオケヨ、コノウラミ。


「ソージさん、素敵な方ですよね。クリスティーナさんも見習った方が良いのでは?」

「考え方が甘すぎで気持ち悪いですわよ。ま、まあ、愚かしいのを見ていて楽しいですわね。愉悦ゆえつ愉悦ゆえつ!」

「それでは、ソージさんを私達のパーティーに入れても?」

「ご満悦~! 構わなくてよ、おーほほ?……いま、何か不吉な事をおっしゃりになられました?」


 高笑いを続けていたクリスティーナ。


 急にしらふに戻り、質問を質問で返した。


「よく分からないけど、是非ともお願いできますか? クリスティーナ嬢を肉体的にも、精神的にも、したいので。うん、シタイノデ。コレカラヨロシク。トクニ、クリスティーナサン! ツネニ、ミテイルゾ。ヨルニハ、キヲツケロ!」

「ひいいい!? 犯されますわ!? サーヤ!?」

「知りませんよ。ソージさんを怒らせたらどうなるか」

 

 

 

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