第6話




「うーん、おはようございます! いい朝ですねー」


発言とは裏腹に、イマイチ優れた様子でない幽霊さんが伸びをしている。


どうしてだろうか。


「きっと寝起きだからですよ、気にしないでください」


そう言われても納得のできるものではない。

それに顔色で言うならば29日の方が幾分もマシであった。


そもそも、こうなると考えなかったわけではないが、まさか本当にこうなるとは驚きを隠せない。


「幽霊さん、どうして……」


「もー! しつこいですよー! ハロウィンを楽しんで終えて成仏しちゃうんですから」


悲痛な顔をしている幽霊さんに説得力など全くもって無いも同然だった。


「それにしても、部屋の様子は変わっていませんね、感心感心」


当たり前だろう。ハロウィン仕様の部屋にするはずがない。それだけは、絶対にない。


「おや、そこまで幽霊さんとの約束を守ってくれるとは嬉しいですね」


そう言うと、幽霊さんはやはり少し辛そうに笑った。


違うんだ! そうじゃないんだ!


言うべきは簡単な言葉であるのに、思考ばかりが止まらない。


「……やりますよ、準備。そのために買い物もしたじゃないですか」


待ってくれ、そんなに辛そうな顔でハロウィンの準備を進めなくていいんだ。


もう、いいんだ。


「本当にどうしちゃったんですか、ハロウィンを楽しませてくれようとしてたの、知ってますよ。心が読めるんですから。それなのにどうして今更」


そうだ、今更なんだ。どうしてこの幽霊は中途半端にしか心が読めないのだろう。


どうか僕のこの叫びを聞き取ってほしい。


もう、やらなくていいんだって。



「私が、幽霊さんが、躊躇っているからですか! 確かに成仏するのは惜しいです! とってもとっても惜しいです! だからもうハロウィンはやめだって言うんですか! でも! 私は! 」


「私は、ハロウィンを、今年のハロウィンを、貴方と楽しみたいのに」


そこまで言うと、幽霊さんは涙交じりの目で僕を睨みつけた。


非常に言い出しにくい事だが、このままではいけない。幽霊さんはきっちり言ってくれたのだ。


だから、僕も言おう。



「幽霊さん」


「はい」





「今日は、11月1日です」




「へ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る