第7話


「え、じゅ、11月、ですか? 」


「はい、ですのでハロウィンは終わりました」


「と言うことは、もしかして」


「そうです、綺麗に寝過ごしたわけです」




「ええええええええええええええ!!!! 」




そうである、11月1日。

完全にハロウィンは過ぎ去った。


今更準備をするのはおかしいし、なにより僕はどうしてハロウィンを過ぎたのに幽霊さんが姿を現したのか不思議でしょうがなかった。


それなのに幽霊さんはその事を読み取ってくれず誤解を重ねていったわけだ。


「で、どうして姿が消えてないんですか」


「どうしてって、今日がハロウィンだと思っていたからに決まっているじゃないですか! 幽霊さんは気持ちによって姿を現しているんですから勘違いしていたらこうなりますよ! 」


すると、もしや日付に気がつかなければ成仏できたと言う事なのか。


しまった、やらかした。戦犯だ。


ハロウィンが過ぎてしまった事を理解した幽霊さんはその姿を消そうとしている。


「あわわわわわわ、き、消えてきちゃいました! いやですぅ! こんな中途半端なのはいやですぅ! 来年どんな顔をして出てくればいいんですか! 」


「そんな事僕に言われても困りますよ! それに気持ちが重要ならガッツでなんとかならないんですか! 」


「なるわけないでしょ! イベントに対する執着心みたいなものですよ! 悪く言えば怨念によって姿を現しているのであってですね! あぁ、もう時間がががががか」


前はつま先が透けている程度であったが、着実に透明化は進行し、今は膝から下は完全に見えなくなっている。


だが糸口はつかめた。ようは執着心だ。なにかを成し遂げたいと思ったり、なにかを猛烈に求めればまだ消えずに済むわけだ。


「言っておきますが、貴方に執着とかは無理ですし嫌ですからね! まだそこまで、じゃなくて、呪いのようなものを人にかけるわけには」


「問題ありません、明日は《死者の日》です!ほら、幽霊なら楽しみでしょう! 」


「そんなわけないでしょー! なんですか死者の日って、知りませんよ! もっとなにかないんですか! 前にも言いましたが遠いのは無理ですよ! 来年のハロウィンとか」


このやり取りの間にも進行は増して、さらに厄介なことにスピードも上がっている。


ついで言うとこの土壇場で案は一つだけ思いついたがものすごく言いたくない。キザ過ぎて絶対に言いたくない。


「ちょっと、何か思いついたのなら言ってくださいよ! このまま幽霊さん消えちゃいますよ! 来年までこのふんわりした別れを引きずるつもりですか! 」


下半身を終え、やがて胴体も透けてきた。


仕方がない、言うしかない。


これでダメなら来年はかぼちゃは買わん!!


「一週間です! 今日で一週間! 」


「なにがですか! 」


ちくしょう鈍い幽霊め! みなまで言わす気か!


「だから、今日で出会って一週間だって言ってるんですよ! 一週間記念で派手に遊びましょうよ! 」


一拍。慌てふためいていた幽霊さんが固まる。


それに合わせて、透明化も止まり、やがて動き出したのは幽霊さんだけだった。


「……なんですかそれ、勘違いしないでくださいって言ったはずなのに」


「それで、楽しみですか、楽しみじゃないんですか? 」


もちろん、そっぽを向いて唇を尖らせる幽霊さんを見れば一目瞭然だがあえて聞く。


どうでもいいと言われたら恥ずかしてくて僕が成仏してしまうところであったのだ。それくらいいいだろう。


「……まぁ、ハロウィンの代打くらいにはなりますかね」


言うや否や、幽霊さんはずずいと顔を近づけてくると、僕に一つの課題を出した。


「でも、今日が終わればまた消えてしまいます。だから、毎日なにか楽しい事を提案してください。今日は○○の日ですよーって」


毎日となると厳しいが、それでも幽霊さんとのこの落ち着きのない生活が続くと思うと、やっぱりそれは愉快で、一も二もなく引き受けるのであった。


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