第5話
29日
あれからしばらく凹んでいた幽霊さんであったが、ようやくらしさを取り戻したようで、今日はうるさく跳ね回っている。
昨日なんか起き抜けからどこか余所余所しく、こちらの顔を覗いては何やらブツブツと呟いていた。
「おっ肉!おっ肉!」
ちなみに今日の晩御飯に肉はない。コロッケがメインだ。
「ええええええ!!!肉も魚も……ない。コロッケなんて芋じゃないないですか炭水化物じゃないですか、好きですけど」
「そんなに肉ばかり食べていたら太りますよ」
「コロッケだって太りますー!」
まぁコロッケも好きだそうなので問題ないだろう。苦手だったらメンチカツにするつもりであったが。
「……なんていうか、最初はあれだけ嫌がっていたくせに何だかんだで、その、あれですよね」
多分甘いとか優しいとか言いたいのだろうが、なぜそこで言い淀んだのだろう。
それはともかく
「幽霊さんが怖くなかったから邪険にする事もないかなって思っただけで、普通ですよ」
「普通、ですか。そうですか、なるほど」
淡白にそう呟くと幽霊さんはしばらくそこら辺をぐるぐる飛んでいた。
何か考えている時によくやっているが、今回は何が気になるのだろう。気になる。
やがて落ち着くと幽霊さんは一言。
「まぁいいでしょう」
そう言うとあとはいつも通り自由にくつろぎ始めたのであった。
二人で晩御飯を食べていると、何の脈絡もなく幽霊さんが宣言をした。
「私、しばらく寝ます」
不意の発言であったため、理解するのに一拍必要だった。
「寝るって、今からですか」
「流石にご飯を食べたあとですけど、もうハロウィンは近いでしょう? ワクワクで寝過ごすといけないので、予め寝ておいて、31日に起きる算段です」
たしか幽霊さんの睡眠は面倒で、うまく起きるのにはコツがいると言っていた。確かに起きるのに失敗したままハロウィンを終えるのはシャレにならないのだろう。
「なるほど、いいんじゃないですか? 細かい準備は終わらせておきますので」
「準備も含めてハロウィンじゃないですか、昼頃から二人でやりましょうよ。先にやったら怒っちゃいますからねー」
そう言うが早いか、残っていたご飯をかき込むと、しばらくして幽霊さんは消えてしまった。
何だか少し不自然にも感じたが、もしかしたらまだコーヒーの件を引きずっているのだろうか。
せっかく楽しみにしているのだから、せめて当日は楽しめるように精一杯準備の準備を整えておこう。
人知れず計画を練ったその夜は、ひどく愉快で、それでいて寂しかった事を覚えている。
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