探偵登場
ハロウィンが終わり秋の風が冷たくなった頃とある人物がY市にある柳本邸を訪れた。
ピンポーン、ピンポーン
とチャイムを二度鳴らした人物はおそらくわたしの死の真相をつまびらかにしてくれるであろう人物である。
「真夏さ~ん、金田一かすみです。」と大きな声を玄関の前で上げたが柳本邸の玄関は固く閉ざされていた。中ではわんわんと犬の声が聞こえ玄関のすりガラスから小型犬の姿が見える。
その姿を見ていた近所に住む主婦松永さんは彼女の姿をいぶかしげに眺めている。
それは彼女の行為よりもその姿にあったと思う。
その姿は日本人なら誰でも知っている名探偵「金田一耕助」そのものだったからだ。
田舎でハロウィンを過ぎてその恰好をしているのは紛れもない「不審者」に当たる。
「あの~ここのお宅には「真夏さん」という方はいらっしゃいませんよ。」松永さんは恐る恐るそう答えた。
「いえ、この方です、この写真に写っている小太りの男性」と言ってかすみはスマホを松永さんに見せる。
「あ、ああ、たあちゃんね」
「たぁちゃん?」
「ええ、たぁちゃん」そういって松永さんはうなずいた。
東条かすみ。彼女はボードゲームの製造を個人で行っている人物である。
彼女のハンドルネームは「金田一かすみ」もちろん、かの有名な名探偵の名字を頂戴したのは彼女が極度のミステリーファンであることからである。
「たぁちゃん」こと若狭屋真夏(つまり私)と知り合ったのはボードゲームの販売にY市の隣のF市のボードゲーム会に訪れたからだ。
ボードゲームには様々な種類があり50人程度が集まるボードゲーム会でたまたま同じ卓でゲームを4時間続け親しくなった。
おなじシーズーを飼っていることを知り犬の話でも盛り上がったが二人の関係はそれ以上深くなることはなかった、いわば客と業者の関係だった。
それなのになぜかすみは柳本邸を訪れたか。
「私は昨日まで仕事でロンドンにおりまして今日日本についたばかりなんです。昨日まなつ、いや「たぁちゃん」さんからメールをいただきまして」
といって松永さんにメールを見せる。
タイトル:お疲れ様です。
本文:お疲れ様です、真夏です。かすみさん明日日本に戻られるんですよね?
不躾なお願いなんですけど明日から用事で一週間ほど出かけなければいけなくなりましてモコの餌と散歩をお願いしたいのですが。もちろんお礼は致します。それと古い家ですが私の不在の間自由に使ってくださって結構です。
お願いできませんでしょうか?
と書かれたメールが届いた。かすみは真夏が過去にそのようなお願いをされたことがなく戸惑ったが東京のアパートはすでに解約しており渡りに船だったようだ。
実家がマンションのかすみには一軒家をたとえわずかな時間借りる事ができるのは大いに魅力的な出来事でもあった。
「わかったわ。まあ、悪そうな人でもなさそうだし」といって松永さんは柳本邸の裏側に入っていった。
「え??ちょっと」とかすみが戸惑ってついていくと裏口にたどり着いた。
松永さんは躊躇することなくドアノブを開けるとドアは開いた。
「え?」
「田舎じゃねカギは表だけかけて裏口はかけないの。」
「ほぅ」かすみはうなずく。
「お邪魔します~」と裏口から入っていく。
柳本邸は70坪ほどの敷地に建てられている。玄関前には立派な松が植えられている。中央には仏間があり仏間を含め6部屋ある。一つは亡くなった祖母の部屋。一つは両親の部屋、この二部屋は現在は使われていないようである。
もう一つが今は結婚し別に一軒家を立てて暮らしている弟がかつて使った部屋。この部屋は寝室として使われており残り一つが本やパソコンが置いてある部屋である。
裏口を開けると玄関でほえた犬が裏口にで迎えに来た。
「あーもこちゃん。」とかすみはモコをなでた。
尻尾を振りちぎらんばかりに振っている。
リビングの隣には掘りごたつの部屋がある。
とりあえず裏口からリビングを入っていくとリビングのテーブルに「金田一かすみさまへ」と書かれた封筒が置いてありかすみは封筒を見てみると中に五万円入っていた。
ふと松永さんがとなりにある掘りごたつの部屋をみると人気がする。
目を凝らすと「中年の男性」が掘りごたつに入っているようだ。
「なんだたぁちゃん、居たの?びっくりした」といった次の瞬間男性の体は力なく傾いた。
「きゃー」と松永さんの悲鳴をあげた。
そこに「あったのは」死体となった「私」である。
言葉の行方 若狭屋 真夏(九代目) @wakasaya
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