Ⅱ 潜入①
背中に手を回してティルザにしがみつき、アルメリアはじっと目を閉じていた。
くっつけた
――生きてる……。
自分は生きており、ティルザもまた生きている。そのことを確かめるように、何度も何度も
「準備できたか?」
ノックもなしに入室してきたイーディスを見て、ティルザは苦笑気味に
「
イーディスはアルメリアの姿に目を
「へえ、大したもんだな。
アルメリアの本来の容姿は消え
「もう一度聞くが、お前の《まじない》は、本名を呼ばれるか自分で言うまでは半永久的に効果が続く。そうだな?」
「ええ、そのとおりよ」
答えると、イーディスはじっとアルメリアの顔を見つめてくる。
「……何?」
「これで俺とお前も晴れて
「はあ?」
「自分の《まじない》を明かすときは結婚するとき。お
「何を言い出すかと思えば……今どき、そんなしきたり
アルメリアは心底
「イーディスさん。出立前に姉と会わせてくださって、ありがとうございました」
「どういたしまして。弟君は、お嬢さんの百倍いい子だな」
「お礼なんて言う必要ないわよ、ティルザ」
アルメリアは
「お前は本当、
「可愛くなくて結構。もういいから出てってくれる?」
イーディスは要求を聞き流し、
「ま、さすがは元国務大臣の
言い返そうとするが、イーディスは
「時間だ。行くぞ」
手を引かれ、「待って」とアルメリアは
だが、イーディスにひょいと持ち上げられ、荷物のように背中に
「待って。ティルザ!」
「大丈夫だよ。姉さん、どうか気をつけて」
ティルザは
「必ず戻るからね。それまでの
アルメリアが
涙が出そうだった。
あの日から、一日たりとも離れたことはなかった。アルメリアの世界にはティルザしかおらず、ティルザさえいればそれでよかった。
――ずっとこのままでいられると思ってたのに。
「泣くなよ。
イーディスは
その背中の
――絶対に任務を成し
馬車に
ローランシアは
国内最大の都市が首都アスケラで、総人口の約七十%が生活している。
商業地区は『女王のお
「……ティルザがいたら、何でも買ってあげたのに」
首都が国土の中央に置かれているのは、
だが、その
馬車を走らせること十分ほどで、
アルメリアはごくりと
――ここが……王宮。
女王が治める国の、その
門の前で許可証を確認されると、アルメリアは
「女官長様。新しく入った
アルメリアは
「シルヴィア・モンテミリオンと申します。侍女として少しでもお役に立てるよう
そこでようやく、女官長と呼ばれた女性は顔を上げる。
アルメリアが膝をかがめて
「女官長のヴァネッサ・アーネストです。後宮における
「はい、女官長様」
折り目正しくアルメリアは
後宮で働くためには、必ず身分ある者に
女性の場合、下女、侍女、女官、女官長という順に身分は上がっていく。表向きは能力と
シルヴィア・モンテミリオンは資本家階級の娘という設定だから、ここでは下から二つ目の身分である侍女となる。仕事内容は
アルメリアは女官長ヴァネッサの指示を待っていたが、彼女がかすかに
――まさか、正体がばれた?
背筋がひやりとする。
だが、アルメリアの心配をよそに、ヴァネッサはややぎこちなく言葉を続けた。
「いいですか。王宮や後宮には、さまざまな立場の方が出入りなさいます。くれぐれも他人の身分や
「
「後宮とわたくしたち使用人は信頼関係で成り立っています。軽はずみな言動であなたが信用を失えば、それはあなたの推薦者や後見人の
「
真っすぐな瞳でヴァネッサを見つめ、アルメリアは頭を下げる。すると彼女は別の女官を呼び、そのまま持ち場に向かうことになった。
女官長の執務室を出てようやく、ほっと
――よかった……何とかうまく潜り込めたみたい。
だが、問題はこれからだ。
なるべく早く王子と
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