1巻発売記念SS『私だけが覚えてる』
私はお酒が嫌いだ。
今まで生きてきた中で、お酒を口にしたのは数回だけしかないけど、それでも、私はいつからか口にしないと決めてる。
それはどうしてか?
そんなの決まってる──。
「俺はまだぁ、まだまだッ、呑めるぞおーッ!」
お酒で酔い潰れたバカを、これまで何度も見てきたから。
宿屋で私が「そろそろ寝ようかな」と思っていたころ、部屋へ入ってきて、
いや、遠吠えだ。
顔を赤くさせ、床でゴロゴロ寝返りをうって、一人で騒いでる。
「わりぃな、あとは任せた!」
「……」
バカを連れ回したバカ──ヴェイクは、さほど申し訳なさそうに思うことなく、笑いながら去っていった。
ルクスを置いて。私に押し付けて。
どうしてそのまま、ヴェイクたちの寝る【男部屋】でなく、私たちが寝る【女部屋】に連れて来るのか。
「エレナ、頑張れー!」
と、サラはヴェイクを追いかける。
「……すまない」
と、ティデリアが申し訳なさそうにしながらも部屋を出て行く。
「えっと、えっと」
と、ラフィーネが慌てながらも出て行く。
こういう場面はよくある。
次の日にモンスターエリアへ向かわないとき、言うなれば次の日を休息期間と定めたとき、決まって全員で食事をする。
そのとき、各々がお酒を楽しむ。
きっと、他のみんなはまだ呑みに行くんだと思う。だけどお酒を呑まない私は、食事を終えると一人で帰ることが多い。
そんなとき、誰よりもすぐ潰れるルクスを、いつからかみんなは私に預けるようになった。
いや、押し付けるようになったが正解かもしれない。
断ればいいのに、それを私はしない。
私はルクスの頬を指で差す。
「いつもいつも、人の睡眠を邪魔して……」
グリグリと指先で押しても、ルクスは唸るだけ。
「俺はまだ、呑めるッ!」
「はあ……。潰れたから、厄介者扱いされてんでしょ」
私は掛け布団を持ってきて、それをルクスにかける。
「厄介者じゃない、俺は、まだ」
「はいはい。それで、今日はどれぐらい呑んだの?」
「覚えてないッ! たぶん、いっぱい」
「へえ、そう。お水は? いる?」
「うーん」
どっちよ、と心の中で呟いてから、ルクスの上半身を少し起こしてから、お水の入ったコップをルクスの口元に近付ける。
「ん、ん……ありがとう」
「はい、どういたしまして」
呑み終えたルクスは再び横になる。
「それで、今日も楽しかった?」
「楽しかった!」
「良かったわね」
「ああ」
ルクスは目を閉じたまま笑った。
明日になれば、私とした会話の記憶は残っていない。いつものこと。明日になればケロッとしてる。
「だけど」
ふと、ルクスは目を開けて私を見る。
「エレナも一緒だと、もっと楽しいんだ」
「……」
「エレナは、お酒、嫌いか?」
そう聞かれ、私はルクスの頭を撫でながら答える。
「ええ、嫌いよ。こんなめんどくさい男みたいになりたくないからね」
「めんどくさい? 誰のことだよぉ?」
「あんた以外に誰がいんのよ」
ペシッとおでこを叩くと、痛っ、とルクスは顔を歪めた。
その顔が面白くて、私はクスクス笑った。
「痛いなぁー。というより、お酒呑まなくても、先に帰らなくたっていいだろ?」
「お酒を呑まない私がいたって何もすることないもの」
「それでも」
「それでも?」
子供みたいに悲しそうな顔したルクスに聞くと、
「別に」
と寝返りを打った。
私に背中を向けて、膨れてみせた。
「なに、もしかして、私がいないと寂しいとか?」
笑いながら声をかけても、ルクスは「別にッ!」と言うだけ。
どうやら拗ねてしまったらしい。
「いつか絶対に、エレナにもお酒を呑ませてやる! そして、酔って潰してやるッ!」
「はいはい、頑張ってね」
「おい、絶対に無理だと思ってるだろ!?」
「ううん、別に」
ブツブツ何か言っていたルクス。
だけど彼は酔うとすぐに寝る。話していても、怒っていても、勝手に夢の中にいく。
私を置いて一人で。
「また勝手に寝て」
そんな寝息をたてるルクスに、私は呆れてため息をつく。
私も眠たくなって隣で横になる。
固い木の床。
背中が痛い。
だけど、私は隣で横になる。
ルクスの寝顔を見て、目を閉じる。
「……私までお酒で潰れたら、誰があんたの面倒を見るのよ」
おやすみと伝え、私はルクスを追いかけるように、夢の中へと向かう。
──私はお酒が嫌い。
だけど、酔い潰れたルクスを看病するという名目で添い寝する、この瞬間だけは少し好きだったりもする。
記憶の残らないルクスと、私だけが覚えてるこの瞬間を共にするのが……。
──────────────────
明日、5月2日にドラゴンノベルス様より【アイツが最強なのを、私だけが知ってる】が発売となります!
時期も時期なので苦しい現状ですが、それでも、2巻を出したいと思ってるので宣伝SSを投稿させていただきました。
なので少しでも多くの方の目に付くよう、ブックマークや★などで応援していただけると幸いです!
本編の再開については、他原稿などを優先してますので、もう少しだけお待ちください。
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