第三章 俺と、私の、幸せとは

第44話 私の幸せ


 好き。

 嫌い。

 わからない。


 私にとってアイツは、ただの玉の輿候補なだけ。

 だけどそれは、ルクスじゃないといけない。どんな金持ちであっても、他の相手はいない。


 これを恋だと言う者もいる。


 だけど恋なんて私は知らない。

 だって私は、今まで恋愛感情を持ったことないんだから。

 ただ必死に、その日を乗り切るために生きてきた私には、そんな幸せな感情なんて、持つ余裕はなかった。


 だけどルクスと家庭を築いたら、きっと幸せなんだろうな、と思う……。


 バカなやり取りをして、一緒に世界樹を上って、色々な経験をする。

 そして夜になったら、ルクスと同じ夢を見る。


 その未来はきっと、とても、とても、幸せな未来なんだと思う。


 それが恋愛感情ではないのか?


 そう訊かれたら、私は返答に困ってしまう。


 ただ言えるのは、そんな幸せな未来を私が望んでいて、そうなりたいと思ってるということ。


 だけどそれを、私はずっと前から望んでいたわけじゃない。

 最近になって、少しだけ……自分の欲しいものがわからなくなってきた。


 私が欲しいのはなんだろう。


 愛情? お金? 幸せな家庭? 楽な生活?


 アイツと一緒にいればいるほど、自分が求めてきたのが何なのかわからなくなる。



『いいかい、エレナ。この世は愛よりもお金が全てなの。あんたは将来有望な男を見つけて玉の輿を狙うのよ?』



 おばあちゃんが何度も何度も、私に教えてくれた幸せになるための言葉。


 だけど私は、アイツといればいるほど、この言葉が本当なのか疑ってしまっている。


 私の幸せは、お金で満たされるものなのだろうか?

 私を幸せにする相手というのは、お金持ちであれば誰でもいいのだろうか?


 私の望んでいた幸せは、きっと──



「なにボーッとしてんだよ。ほら、さっさと行かないと、皆に怒られるぞ?」



 暗闇から引っ張ってくれた、ルクスと一緒にいることだと思う。


 ルクスといること。村で学んできたこと。

 その二つの選択肢が、まるで天秤に掛けられて、少し、また少しと、上下に揺れていて平行にはならない。


 そして重く傾いているのがどっちの選択肢なのか、それを私自身は自覚している。

 だけどなんだろう、一歩前に進むことができない。

 私の中では決めてるのに、その選択に手を伸ばすことができない。


 小さな《きっかけ》があればきっと、私は選択する。

 自分自身が、誰と、どうなれば幸せなのか──その選択を。

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