第29話 五階層デート?1
ラフィーネ曰わく、加護でモルルンに力を与えられるようになってから、モルルンは一切病気にもかからず、年齢も今年で八才になるらしい。
これはハムスターの中ではかなり長生きだ。というより、長生きすぎて有り得ない。
それが何かしらの加護の影響なのは間違いないと思うのだけど、
「はっきりと理由がわからないから、少し不安なのです」
頭の上にハム助を乗せたラフィーネが、しょんぼりとする。
俺達はあれから、何度かモンスターと遭遇したけど、それらを問題なく倒して次の階層へと進む階段を探して歩き続けていた。
「でも元気ならいいんじゃない? そのハムちゃんがずっと側にいてくれるならさ」
「はいなのです。この子がいてくれたから、この世界樹でモーゼスさんの役に立てたのです」
ラフィーネがエレナにそう答えると、隣を歩いていたサラが「へぇ」と驚き、頭に乗ったハム助を人差し指で撫でる。
「じゃあラフィーネが無事なのは、このハムハムのお陰なんだね。偉いぞ、ハムハム!」
『モルッ?』
「まあ、そのハムがどれくらい力になるかってのも、さっき見せてもらったしな、力になってくれる奴は大歓迎だぜ」
それぞれ呼び方が違う。ヴェイクに関しては食い物の名前になってしまってる。
まあ、俺もハム助って呼び方をしてるから、なんも言えないけど。
「あっ階段だ。今回は随分と早いね」
そうこう話していると、次の階層に繋がる階段を見つけた。
四階層までは安全に向かってたから長く感じたけど、この階層はモーゼスさんの安否を心配して、かなり急ぎ足で階段を探した。
それが功を奏したのか、今までで一番早い、たった一日で次の階層に向かう階段に到着できた。
俺達は階段を上っていく。
階段を一段一段上がる皆の足は、いつもより軽やかに感じる。
──そして五階層。
他のセーフエリアよりも大きな場所で、大勢の人で賑わってるという場所に到着した。
「うわ、凄いな……。なんかこれ、まるでお城みたいだね」
「ここって本当に世界樹の中なのよね?」
そして初めてこの場所に来た俺とエレナは、並んで口を開けて驚いていた。
これまでにあったセーフエリアを表現するなら『村』や『街』といった小規模な場所。
だけどこの五階層のセーフエリアを一言で表すなら『王国』のような大規模な場所だ。
門が崖のような場所の天辺にあったから、今いる位置からはセーフエリアという名の王国を一望できる。
一際大きな鋭角な屋根のお城。色違いの建物。小さく見えるここで暮らす人々。
そのどれもこれもが、ここまでのセーフエリアには無かったものだ。
「言っただろ。五階層ずつ賑やかになるって。ほら、早く下りようぜ」
門を抜けてまた階段。
ただその階段は、この円形のセーフエリアを囲むように壁際に設置されていて、グルッと回るように階段を下りていけば、セーフエリアの中へと続いていた。
そして反対側の壁の頂上付近には、この世界樹を上る門が見える。おそらく、六階段へは向こうの門を通るのか。少し頭に入れておこう。
「うわっ、本当に王国だな」
セーフエリアの中に入って、まるで田舎者のように左右を見渡して驚く俺。
その姿は隣にいるエレナもだった。
美味しそうな匂いや、賑やかな人の声なんかは、本当にここが世界樹の中なのかと疑ってしまうほどに、セーフエリア全体が一つの王国のように発展した場所だった。
ヴェイクが周囲を見渡しながら口を開く。
「ここは中間エリアみたいなもんだからな、大勢の人がいんだよ。だから色々な施設とかもあるぜ」
「へぇ、なんか色々な場所があって楽しそうだな」
「そうね。この辺りを散策してるだけで一日使っちゃいそう。ねぇ、ちょっと見て回らない?」
エレナは俺を見て言った。
きっと、皆で見て回ろうということだろう。
「ん、いいね。皆もそれでいいかな?」
一度来たことのあるヴェイクやサラに案内を頼みたい。──だけど、なぜか二人はニヤッとした笑みを浮かべていた。
「あっ、そうだ。アタシちょっと行きたいとこあんだよね。だから自由行動していい?」
とサラは言う。
「ん、じゃあ皆で──」
「じゃあ、俺もなんか見てくるかな」
ヴェイクが被せるように言う。
なんだろう、ヴェイクとサラは、個人でどこか見に行きたいような感じがある。
「えっと、皆で──」
「ラフィーネ、俺がハムのいい餌を売ってるお店を紹介してやるか?」
また言葉を被せられた。
ラフィーネは目を輝かせる。
「本当なのですか? じゃあ皆で──」
「んじゃ、あの時計が六時になったら集合すっか」
ヴェイクが細い円柱で表示された時計台を指差す。
これまで無かった時間を示す物。だけどあるってことは、この階層ではこの通りに生活するみたいだ。
そしてなぜか、ヴェイクとサラは急いでいる。わからない。わからないけど、何か悪いことを考えてることだけはわかった。
「んじゃ、二人も何か探索してこいよ!」
「また後でねぇー」
「あれ、あれれ、皆さんで回らないのですかっ!? あれれー」
無理矢理のような感じでラフィーネが連れてかれた。
そして残された俺とエレナ。わからない。だけどこの状況は……。
「相変わらず変な二人ね。まあいっか、じゃあここら辺を見て回ろ?」
「う、うん」
これはまるで──デートというやつだ。
そして二人は俺とエレナを二人っきりにわざとさせたと理解できた。
なぜこんな子供っぽいことをするのか。サラは胸以外は子供だからわかる、だけどヴェイクはもう少しで三〇だ。
こんなことをして恥ずかしくないのか……。とか思うけど、まあ、二人で久しぶりに歩けるのも、なんか珍しくていいか。
「とりあえず、ギルドとか迷宮牢獄とかの確認は明日、全員でするとして、どこに向かおうか?」
「そうね。ルクスはお腹空かない?」
「ん、たしかにお腹空いたかな」
「じゃあ何か美味しそうなとこが売ってるお店でも見て回らない?」
今の時間は丁度お昼頃で、ご飯を食べるには最適の時間帯だろう。ただ、エレナが少し積極的に誘ってきてるような気がする。こういう時は大抵なんかある。しかもニコニコと、珍しく優しい笑い方だ。
まさか──。
「……奢らないからな」
そう伝えると、一瞬で氷のような笑顔に変わった。
「……お前はご飯を食べるな、そう言いたいわけ?」
「自分の食べる物は自分でお金を払えと言いたいだけだ」
「私の財布、あんた持ってるじゃない」
「持ってない!」
「持ってるわよ! 私が食べる物はいっつもルクスが払ってくれるじゃない!」
「それは前までで、もう払わないぞ!」
なんて一方的な言い分だ!
俺だってかなりキツいんだ。ましてや、新しい武器とか、買えなかった防具を買って調合してみたいとか、色々と考えて生活してるんだ。
エレナにはもう、貢ぐわけにはいかないんだ!
「ルクスは……」
だが俺の反抗を嘲笑うかのように、なぜか目元を両手で抑えるエレナ。
まさか……泣いてる?
「私が飢え死にしても、いいってわけ……?」
「い、いや、そういうわけじゃ……」
「じゃあ、なんで奢ってくれないの?」
上目遣いで訊いてくるエレナ。
反則。これは反則だ。俺を殺しにきてる。くそ。
「……わかった。わかったから……でも、そんなお金ないから、あんま高い物は払えないからね?」
「ええ、それでいいわよ」
ケロッと笑うエレナ。
嘘泣き。まあ、わかってたけどさ……。
「さっ、行きましょう?」
すっかり機嫌を直したエレナはルンルンとスキップしながら前を行く。
だけど──彼女は知らない。
俺がアイテム袋でモンスターを回収して、仲介商会にちょこちょこと買い取ってもらったお金を、誰にも言わずに一人占めしていることを……。
♢
ルクスが正体不明のお金を持ってることを、私は知ってる。
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