第22話 ロリ巨乳と金髪ナルシスト
また変なのが現れた。
今回の登場人物はサラよりも酷い。
何が酷いか。それは男なら食い入るように見てしまうほどの大きな胸。
私のよりも遥かに大きいのに、私よりも身長が小さい。
──ロリ巨乳。
そんな言葉があるのなら、きっと彼女のことを言うんだと思う。
しかも、その肩まで伸ばしたショート黒髪ロリ巨乳は、なぜかルクスに抱き付いてる。
涙目でギュッと抱きつく姿。その庇護欲をそそる姿は、同じ女でも抱きしめたくなる何かがあった。
「ルーにぃ。ルーにぃ。会いたかったのです」
「どうしたの、ラフィーネ?」
女の子らしい反応。
丸っこい顔をルクスの胸元にスリスリする対応──馴れてる。男馴れしてるわね、この子。
「……誰よそれ」
この子は危ない。
サラとは違う危険な匂いがする。
ルクスは抱き合った風な体勢から顔だけを後ろに向け、
「父さんの知り合いの娘で、ラフィーネ=エルフィっていうんだよね」
と自己紹介をした。
なるほど。
「じゃあ要するに、ルクスのお父様の知り合いの──ただの娘ってことね」
「ん、ただの? まあ、そうなるのかな?」
ふん、それは他人も同然よ。
「じゃあ、ただの娘であるラフィーネ。そろそろルクスから離れたほうがいいんじゃないかしら? 周りからの痛い視線、それに気付かないわけじゃないわよね?」
「わ、わわわ、はいなのです! ルーにぃ、ごめんなさいなのです、久しぶりに会ったから、つい、嬉しくなってしまったのです」
ラフィーネは慌ててルクスから離れると、何度も謝ってる。私が悪いことしたみたい。それに可愛い。普通に可愛いわね。
──だけど彼女は危険。女の勘だけど、なぜかすぐにわかった。
「あの子は危険だねぇ。無自覚系で、男なら優しくしたくなるタイプだよ」
サラが小声でボヤく。
私にしか訊こえない声量。
おそらく、私と同じことを思ってる。
「……ええ、あれはルクスに近付けたら駄目ね。あの馬鹿、胸のおっきぃ女に弱いから」
「……たしかにそうだね。アタシの胸とかメッチャ見てくるしね。しかも上から。覗き込むように」
「……へぇ」
とりあえず、この隣の痴女とルクスは後で殴ろう。
まず、今やるべきことは、このロリ巨乳とルクスを引き離すこと。
私は二人の間に入って挨拶をする。
「まずは自己紹介をしましょうか、ロリきょ……間違った、ラフィーネ?」
「あ、はいなのです!」
危ない。ついうっかりロリ巨乳と呼ぶとこだった。
「私はエレナ=ティンベルよ。年齢はルクスと一緒で二〇才ね」
「二〇才……凄く大人っぽい女性で、とても綺麗なのですね」
「そ、そんなことないわよ」
なによこの子、よくわかってるじゃない。
そんなに褒められたら、頭を撫でたくなるじゃない……。って、ダメダメ。この子の術中にハマってるわ。
こんな事じゃ優しくしてあげないんだから。
「ラフィーネは幾つなの? あっ、もしかして年上だった? なら呼び捨てはマズいわよね」
「い、いえ、呼び捨てでお願いします。私はその……まだ、一四なのです」
「……一四才」
一四才でその胸!?
なにこの子、もしかして私を一度持ち上げて、奈落の底に落としたかっただけなの!?
小悪魔。やっぱり小悪魔ね、この子。
「へぇ」
とずっと黙っていたヴェイクが声を漏らす。
「どっちが年上かわかんねぇな。色々と」
「え、えっ、それはどういう意味なのでしょうか?」
「……なんでもないから、気にしないで」
ヴェイクは、そうね……うん、寝てる間に呼吸できなくしよう。
その後、各々が自己紹介を始めた。
というより、初めてヴェイクの年齢が二五才で、サラの年齢が一八才だと知った。
ヴェイクはもう少し上かと、意外と若かったのね。予想外。
一通り自己紹介が終わると、ルクスがラフィーネに尋ねる。
「それで、なんでラフィーネが世界樹の中にいるの? 両親の仕事の手伝いをするから忙しくなるって、それからパッタリ会えなくなったから、てっきりお店が忙しくなったのかと思ってたよ」
「……二年前にルーにぃと最後に会ってから、色々と経営方針が変わってしまったのです。なので私も、お家を出なきゃいけなくなってしまったのです……」
「そうなの? なにかあったの?」
ルクスは心配してるけど、なんか脳天気な訊き方。
馬鹿ね。気を使いなさいよ。何か複雑な事情があるんでしょ。
例えば、両親が営む商店が経営難になったとか、商売に失敗して夜逃げしなきゃいけないとか。
訊いていいのか、席を外すべきなのか。私達三人は顔を見合わせて目で会話するけど、話は──全く予想外な方向へと進んでいく。
「お父さんとお母さんが、世界一周旅行にでも行くって言って……私も付いて行こうとしたら『お前は好きなことをしなさい。お父さんとお母さんも、好きなことをするから』って言われたのです」
「そっか。ラフィーネの両親って自由奔放だからね。それでラフィーネは世界樹に来たの?」
「はい、そうなのです」
二人は納得して話を進めてるけど、そんな簡単な話じゃないよね? 遠回しに捨てられたんじゃないの? それ。
「でもでも、お父さんとお母さんの事だから、きっとすぐに飽きて戻ってくると思うのです」
「まあ、あの二人はいつもだもんね。前もさ──」
どうやら、二人の会話に出てくるラフィーネの両親は結構ヤバい人らしい。
まあ、人の両親のことをとやかく言える筋合いはないけど……。
「でもさ」
ルクスとラフィーネの世界になりかけてると、サラが間を割って入る。
「ラフィーネって、一人でここまで来たの?」
「そ、そうなのですっ!」
何かを思い出したかのように、ラフィーネは目と口をガッと開いた。
「世界樹には二人で来たのです。私と、執事のモーゼスさんで」
「モーゼスさん? ……もしかして! モーゼス=アルバレオさんのこと?」
「ん、ルクスも知ってる人なの?」
今度はルクスが驚いてる。
ラフィーネが頷くと、ルクスは少し言いにくそうに難しそうな顔をして、
「元々はフィレンツェ王国に仕えてた騎士団長で……父さんが俺の稽古をする暇がないとき、よく代わりにモーゼスさんにしてもらったんだよね」
「じゃあ、ルクスの剣の師匠ってやつか?」
ヴェイクの言葉に、ルクスは頷いた。
「たしかに、モーゼスさんの実力なら、二人で世界樹に挑戦するのは楽かもしれないよね……でも、その肝心のモーゼスさんは?」
「実は……この前、変な方々に絡まれてしまったのです。それで──」
「──あれ、あれれぇ? 誰かと思えば君、たしかこの前の子じゃないか」
人を馬鹿にするような舌っ足らずな声。
その声を訊いた瞬間、ラフィーネは小動物みたいに震えながら、ルクスの背中に隠れる。
声の主は爽やかな笑顔を振りまき、こちらへと近付いてくる。
金色に輝く髪に青色の瞳。金持ちだと一発でわかるほど派手な格好。
背後には体格のいい者達を大勢従えている。
金持ち……貴族かな。
「あれ、あれれぇ? おっかしいなぁー。お供の白髪老人はどうしたのぉ?」
お金は大好き。お金持ちも大好き。だけど金持ちでも、私には嫌いなタイプがいる。というより、嫌いなタイプがメチャクチャいる。
その中でも、目の前のムカつく喋り方をする男は、私の中でもトップクラスの嫌いなタイプだ。
「あ、あああ、あなたたちが、モーゼスさんに濡れ衣を被せたの、ですっ!」
「ん、あっ、そうだったね! だってさぁ……」
ラフィーネの訴えを受け、目の前の金髪ナルシストは、周りの取り巻きを見る。
プッ。
そして一斉に吹き出して笑った。
「あのオッサンがぁ、僕を殴ったんでしょお? この世界樹にいるトップギルド《銀翼のシュヴァリエ》のリーダーの息子の僕──レオナルド・ディリカフェのさぁ!」
凄くカッコつけて言ってるみたいだけど、なんだろう……メチャクチャ気持ち悪い。
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