8章 すきです

 また、あるひのこと。


 ひめさまはうらにわにきつねをよびました。


「あなたをひろったのは、もうじゅうごねんもまえのことですね」


「はい」


 とつぜんよびだされたきつねは、とまどっておりました。


 けれどもひめさまは、きつねのかおをまっすぐみて、こういいました。


「すきです、きしさま。わたくしのおっとに、なってくださいませ」


 きつねはしばらくぼうっとしていましたが、やがてひめさまのかおをまっすぐみて、こういいました。


「はい、ぼくもです、ひめさま。たすけていただいたあのひから、ずっとすきでした」


 そのことばをきいたひめさまは、なきそうな、けれどうれしそうなかおになると、きつねをだきしめました。




 しかし、それをみていたものがいました。


「これはいけないな」


 それは、ひめさまのちちおやである、おうさまでした。

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