拾。 とっとこ!?新たな魔法少女の登場デス!

拾。 とっとこ!?新たな魔法少女の登場デス!


2005年 11月 4日 午後1時


 テレビの収録後は萌の話題で持ち切りだった。

「萌、なんだか頭がおかしくなって病院送りなんだってー」

「あれでしょ?街中で撮ってる時に急に『蟲が見える……』とか言ったんでしょ?」

「急に叫び声上げたんだって。クスリやってたって噂だよ」

 マジヤバい、とアイドルたちは卑しい笑いを立てる。

 先日まで萌と仲良くやっていたアイドルたちだった。

 ユウはいい気味だと内心思い、口元を卑しく歪ませる。

(結局私がいないと何もできないくせにいい気になるからだ、バカやろう)

 ワームを倒せるのは魔法少女しかおらず、この町の魔法少女はユウしかいないのだった。故に、ユウにはワームに襲われている人を生かす権利も殺す権利あるのだった。

 萌に対する悪口や嘲りが話題となり、この日、アイドルたちの間でユウの悪口が飛び交うことはなかった。


同年 同日 午後3時


「ワームが現れたドリル!場所は小学校ドリル!」

 ユウは急いで小学校に向かう。

 ワームは校庭にそびえたっていた。頭を倒れていた女児から離す。

 そして、別の怯えている女児に向かって頭を近づけた。

「ユウ!早く、倒すドリル!じゃないと、あの子が……」

「ねぇ、イスカ」

 ユウは微笑みをもってイスカを見つめる。

 人の心が食べられてしまうかもしれないというピンチにもかかわらず、笑みを崩さないユウにイスカは漠然とした恐怖を覚える。

「私のこと、好き?愛してる?」

「今はそんな時じゃないドリル!」

「ねえ!ハッキリ言ってよ!どうなの!?私のこと、好きなの?嫌いなの?私のことよりも幼女先輩の方が好きなの!?」

「何を言っているドリル!」

 イスカはユウの顔を正面から捉えて戦慄する。

 ユウの顔は怒りに満ち満ちていた。それは人のする顔をとは思えない。

 だが、イスカは一度だけ人間がこのような顔をするところを見たことがあった。ユウの母親がユウに対して暴力を振るう時に、このような人間とは思えない憤怒の表情をしていたのだ。

「ユウ……」

「ワームを倒したら、キスして。私にはもう、あなたしかいないの。私はあなたのためなら戦える。ううん。もう、あなたのためにしか戦えないから――」

「もういいドリル」

 イスカは学校の屋上に視線を移す。

「モエ!今こそ変身する時ドリル!」

 学校の屋上に光が放たれる。その光の中から現れたのは魔法少女になあった萌、魔法少女モエであった。

「なんで、あの子が魔法少女に――」

 ユウは呟く。イスカは恐ろしくてユウの顔を見ることができなかった。

 モエは震えるあ足で屋上から飛び降りる。巨大なピコピコハンマーを具現化し、落下の勢いを使ってワームを一撃で消し去った。

「はぁ、はぁ、はぁあぁあぁあぁ!」

 戦いが終わったというのにモエは興奮冷めやらずといった感じであった。

 頭を抱え、叫び声をあげる。

「怖い、怖い、怖い――でも、わたしが生きるためには殺さなきゃ。殺さなきゃ、殺さなきゃ、殺さなきゃ――」

 モエは譫言のように独り言をつぶやき続けていた。

「ねえ、イスカ。これはどういうこと?どうして私以外に魔法少女がいるの?」

「魔法少女はユウ一人ではないドリル」

 ユウはバトンを手から落とす。

「ねえ、イスカは私が大事なのよね。イスカを守る私のことがイスカは大好き。そうなのよね!」

「もう、他の魔法少女がいるドリル。ユウがいなくとも大丈夫ドリル」

「ねえ、待って。待ってってば!」

 イスカはモエの肩に乗る。モエは虚ろな瞳のままとぼとぼとどこかに去っていく。

「あなたにとって私はなんだったの?道具にすぎなかったとでもいうの?」

 せめて、否定して欲しい。

 ユウの切なる願いは簡単に切り捨てられた。

「ただの道具ドリル。妖精にとって魔法少女は目的を達成するための道具でしかないドリル」


 同日 午後9時


 以降、イスカはユウの前に姿を現さなかった。

 ユウは食事もとらず、ゲームをしている。

「死ね、死ね、死ね、死ね!」

 銃でゾンビを撃ちまくる。

「くそっ、くそっ、くそっ、くそっ!」

 モエや城ケ崎の顔に見立ててゾンビを撃ちまくる。

 女性のゾンビは執拗に攻撃した。何度も何度もゾンビの体を破壊しているにもかかわらず、ユウの心は晴れない。

「なんで私を見てくれないの?どうして私じゃダメなの!?私の何が悪いって言うの!?」

 一人のゾンビを攻撃し過ぎてユウは背後から別のゾンビに襲われ、ゲームオーバーとなる。

 ユウはコントローラーを投げ飛ばし、壁に打ち付けた。

 コントローラーは割れ、中からボタンが飛び出す。その光景をユウは艶めかしい笑みで見つめていた。

「うふふふふ。中から目玉のように飛び出したぁ。うふふふふ」


 ユウの心は壊れていっていた。ぼくはそのことに気がつき始めていたはずだった。なのに――なにもしなかった。


次回予告!?


 頑張ってワームを倒していく毎日。

 でも、だんだんとワームは強くなっていって――

 危ない、というとき、私に新たな力が!?

 新しい力でみんなを守ります!


次回、『どっきり!?魔法少女、パワーアップです!』


そして罪はより深く――


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る