玖。 ワッショイ!正義の味方、頑張ります!

玖。 ワッショイ!正義の味方、頑張ります!


前回のキミきせは――


アイドルというのはとっても大変!

 毎日が忙しくって、学校に行きながら続けられるのが心配!

 でも、頑張るから!私は頑張ってアイドル魔法少女を続けます!

 アイドルと魔法少女と小学生の三足の草鞋――って、足が3本ないとダメだよね!?


 それでも、キミといた季節、はじまります!




2005年 11月3日 午前3時



 ユウは暗い部屋の中でゲームをしている。拳銃で町にはびこるゾンビを撃ち抜くゲームだった。

「ふふっ。うふふふふ」

 ユウは地面に倒れたゾンビを足で押さえつけ、拳銃を向ける。

 ボタンを連打する。ユウの指の動きに合わせてゾンビは苦しそうにのたうち回った。

 13発全てを打ち終える。その時にはもうゾンビはピクリとも動かなくなってしまった。

 ユウはボタンを操作して弾を装填する。そして、動かなくなったゾンビに何度も銃弾を撃ち込んだ。

「うふふ。ふふふふ」

 ユウの不気味な笑い声が部屋に響き渡った。



2005年 11月3日 午前7時



 イスカは起きてきたユウに声をかける。

「おはよう、ユウ」

「おはよう」

 ユウは笑顔で答える。ユウの目の下にはクマが色濃く染みついている。

「大丈夫かい?ユウ」

「大丈夫」

「でも、クマが……」

 ユウは目をこする。

「大丈夫。メイクで誤魔化せるから」

 イスカはさらに言葉をかけようとして、それをやめる。

 イスカにはかける言葉はなかった。さらに言うのであれば、さらに言葉を続けるつもりさえなかった。しかし、自然と何かを言わなければならないという気持ちになっていた。

「今日の予定は?」

「それより、学校の方はいいドリルか?」

 イスカは焼けたトーストを食卓に運びながらユウに尋ねる。

「いいの。別に」

 ユウは疲れたように溜息を吐くと椅子に深く腰掛ける。

「そうドリルか……」

 ユウは先週の日曜日以降、学校に行くことを辞めていた。

 魔法少女の認知活動並びに経済掌握のためにユウが学校に行かず働くのはイスカにとって都合の良いことだった。

 だが、しかし……

 イスカは自分の胸に暗澹たる不快感が落ちているのを感じる。知る、ではなく感じるというところにイスカは首をかしげる。



同年 同日 午前10時


 テレビ番組の収録が終わる。その後、ユウに親し気に話しかけるものは一人もなく、ユウに聞こえるようにユウに対する陰口を叩く。

「魔法少女ってなに?日夜、目に見えない敵と戦ってるってマジなの?」

 別の女の子がその陰口に賛同するかのような言葉を吐く。しかし、ユウは黙ったままであった。

(私にはイスカがいる。それだけでいいんだから……)

 ユウの脳裏にはイスカと城ケ崎とのキスの光景がフラッシュバックする。

「私は、一体――」

 ユウは大空に問いかけるように照明のぶら下がる天井を睨む。

「なんのために戦っているの?」


同年 同日 午後1時


 昼食後、ユウは新たに作られた事務所の建物にて次の曲の打ち合わせをする。魔法少女はその奇抜さから人気が出、今の時期にバンバンと売り出そうということだった。

 イスカはユウが昼食にほとんど手をつけていないことを知っていた。

「とりあえずもう一曲はすぐにでも作り上げて、『恋は魔法少女』と一緒にCDで売り出そう。もう2曲は次の曲ということで」

 ユウの前に3曲の楽譜が差し出される。

「わかりました」

 ユウは楽譜を受け取る。

「メインは『恋は魔法少女』の方だから、裏の方は一週間後に収録しよう。それまでレッスンやらで立て込むけれどいいかな」

「はい。大丈夫です」

 レコーディング会社の営業マンは満足そうに頷いた。

「では、よろしくお願いします」

 そう言って営業マンは去っていった。

「ユウ。無理してないドリルか?」

「うん。ヘーキ」

 ユウの顔は笑っていなかった。

「ワームが現れたドリルけど、他の魔法少女に――」

「私がやるからっ!」

 ユウの覇気にイスカは思わず身動ぎしてしまった。

「ごめん、イスカ。でも、私、できるから」

(だって……イスカは自分を守ってくれる私が大好きなんだもの。私がワームを倒せなくなったらイスカは私のことが嫌いになる。それだけは絶対に――嫌!)

 ユウは逃げ出すかのように事務所の外に飛び出していった。


「きゃっ、きゃあぁあぁあぁあぁ!」

 多くの人々が行き交う中、少女だけがその存在を目視し、悲鳴を上げる。

「ど、どうしたの?萌ちゃん」

 撮影クルーは突然アイドルが叫び声をあげ、何もない場所を怯える目つきで見つめているので困惑する。

「変な怪物が、そこに……!何で?なんでみんなには見えていないの!?」

 行き交う人々は萌の姿よりも、尻もちを搗く萌の足の根本の方に興味があるようだった。

 萌の様子をユウは何も感じず見ていた。

「このまま放っておこうかしら」

 ユウはビルの屋上の手すりに座り込み、大きく欠伸をする。

 ワームは萌の姿を見つけたようだった。

「ああやって驚くから見つかるの。ワームだって驚かなければ意外と気がつかないものなのに――」

 ユウは萌を助けることに乗り気ではなかった。

 萌は先ほどユウについて陰口を叩いていたアイドルの一人だったのだ。

「ねえ、萌ちゃん。大丈夫?」

 撮影クルーからは「クスリやってるんじゃない」とか「病院に通報した方が」という声が飛び交っていた。

「ユウ……」

「そうね。そろそろ潮時よね」

 ユウは手すりの上に立ち、バトンをワームに向ける。

「影は光の下へと忍び寄る。音も立てず、声も出さず。光ある故に形あることを噛みしめつつ、その形の定まらぬことを首をひねって考える。影の動きに身を委ね、人々は震える声を上げる。歓声か。それとも怒号か。それは影には分かりえぬ。影はただひたすら踊るのみ。踊る光の真似をして。望まれるままに踊り出す。そこに感情など存在しない。伝えたい者などありはしない。人々の思いが影の心。人々の思いによって影は形を変える。さて。今宵のショーはどんな影?」

 ユウはワームに向かって飛び降りる。

揺らめく影の少女歌劇はしれこうそくのていこくかげきだん

 白い光はワームとユウを包み込み、世界をそこだけ切り取った。

 暗い劇場。観客席にはイスカがただ一人。舞台には白い衣装を着た魔法少女と醜い化け物が立っている。

「そう。折角、世界がここだけ私のものなんだから、好きにしてもいいよねっ!」

 ユウは観客に向かって笑顔を見せる。

 その笑顔を見たイスカはひどく嫌な予感がした。

 ユウの右手には拳銃が握られている。西部劇で使われるような古風で大きなマグナム拳銃。コルト・シングルアクション・アーミー。通称ピースメーカー。

 ユウは大きな拳銃を右手だけで持ち、ワームに向けて6発放つ。

 1発放たれるたびに銃の反動でユウの腕は大きく振り上がる。しかしユウは銃の反動を無理矢理押さえつけながら6発打ち切った。

 ワームの体は頭の部分と胴とが引きちぎれている。もとよりどこまでが頭なのか分からない体ではあるのだが。離れた頭は未だ生きているかのようにピクピクと動いている。

「そうだよね……簡単に終わっちゃったらお楽しみの意味がないもの」

 ユウは痙攣するように動く頭に拳銃を放つ。6発全て撃つ時にはもう頭は跡形もなくなっていた。銃創のあたりに広がっているのは粉々になったワームの肉片と得体のしれない体液と数々だった。

「まだまだだよ」

 ユウはパラパラと薬莢を舞台に落とす。そして、リボルバーをもとに戻した時にはすでに銃弾は装填されていた。

 ユウは動かなくなったワームの体に銃を放つ。

「やめるドリル!」

 イスカは叫ぶ。しかし、銃声にかき消され、イスカの声はユウには届かない。

 ワームの巨大な体がミンチ肉となるまでユウは銃弾を撃ち続けていた。


次回予告!?


 頑張ってワームを倒す毎日。

 でも、なんだか最近疲れ気味……

 そんなあなたに朗報!疲れには魔法少女が効くんです!

 そんな悪ノリは置いておいて。

 新たな魔法少女が登場するみたい!

 さて。その子は敵か味方か?

 とっても気になる展開を見逃すな!

 次回、『とっとこ!?新たな魔法少女の登場デス!』


 そして罪はより深く――



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