捌。 ドタバタ!アイドル魔法少女は大変です!

捌。 ドタバタ!アイドル魔法少女は大変です!


前回のキミきせは――


 私、魔法少女ユウはアイドルとして活躍することになりました!

 新たな魔法も使って、なんだかイイ感じ!

 かと思いきや、イスカが幼女先輩とキスしているのを見てしまって――


 大波乱の予感がするキミきせ、はじまります!



が始まったのは、ユウがアイドル魔法少女を始めてすぐの頃だった。

「ユウさん。いいかしら」

 教室で声をかけられることがなかったユウは驚いて顔を上げる。

 椅子に座ったままのユウを見下ろしているのは数人の女子だった。ユウはその表情からであることを直感する。

「は、はい……」

 ユウは消え入りそうな声でそう答えた。

 数人の女子はユウを廊下まで連れて行く。

「あなた、アイドルなんてやってるんだって?」

 そこからともなく、嘲るような口調が飛び出した。

 ユウにはもう数人の女子の区別がつかなかった。今のユウにとってはどれも等しく自分に害をなすものであり、そうひとくくりに考えていた。つまりは、ユウの目には数人の女子が一つの生き物のように見えていた。

(それも、ワームのような醜い蟲のように)

「なに?無視すんの?」

「い、いえ」

「はっきり言いなさいよ。ほんと、トロくさいんだから」

 ゲハゲハという笑い声が起こる。

「あれでしょ?最近商店街とかでやってるアイドル魔法少女とかいうやつでしょ?あんなのやってて恥ずかしくないのかしら」

「わたしだったら嫌過ぎて首吊ってるって」

「言えてる、言えてる」

 ユウは心の中によくない感情が芽生えているのを感じた。

 自分だってそんなものをやりたいわけではない。でも、やらなくてはいけない。魔法少女だってもし私が辞めてしまったら、この子たちはあの怪物に食われてしまうはずだ。私はこの子たちを助けているのに、どうして――どうしてこんなに言われなければならないのだろう――

「どうなの?ユウさん。アイドル魔法少女とかいうやつ、楽しい?魔法の呪文はぴゅぴゅぴゅのぴゅーってやつでしょう?」

「別に楽しくなんかは――」

「ああん?なんか言ったか?」

「いえ、べつに――」

 ユウはそれだけで言葉を引っ込める。

「ほんと、なんなの、この子。言いたいことがあればはっきり言えばいいのに」

「やっぱ、アイドルなんてやる子なんて陰気なやつばっかなんだよ」

 お前らが私の意見を聞かないんじゃないか。

 そんな気持ちをユウは噛み殺した。


 ユウに対するいじめというやつは学校だけではなかった。

 芸能事務所に所属するユウと同世代の子とユウは幾度か出会うことがあった。挨拶をするものの、ユウに対してだけは挨拶を返されなかった。イベントのスタッフはユウに挨拶こそするものの、ユウはどことなく冷ややかな視線が含まれていることを感じ取っていた。

「ねえ、イスカ。私はいつまでこんなことを続けていればいいんだろう」

 配膳をするイスカにユウは尋ねた。

「何か、悩み事でもあるのかい?」

 人間態イスカはユウに微笑みを向けて返す。

 ユウはイスカに話そうかと迷う。しかし、話そうとするたび、イスカに気を使わせたくないという気持ちの方が強くなっていった。

「別に、大丈夫だよ」

 ユウは冷たい態度を人々から取られるたび、心の底から叫びだして逃げ出したい気分になった。しかし、必死で感情を噛み殺し、活動を続けてきた。

「ユウならきっとなんとかなるよ。ユウは強い子だから」

 そう言ってイスカはユウの頭を撫でる。

 ユウは顔を赤くしたまま、イスカの大きな掌を受け入れる。

「イスカ。あのね、私、イスカのことが――」

「ユウ……」

 ユウとイスカは見つめ合う。ユウはそっとイスカの顔に自分の顔を近づけていき――

「ワームが出たドリル」

「そ、そう……」

 ユウは急いで顔を遠ざける。

「どのあたり?」

「南の方向ドリル」

 イスカは妖精の姿に戻り、ユウの肩に乗る。ユウは魔法少女に変身した。

 ベランダに向かいながら、コンパクトを取り出し、変身する。ベランダから身を投げ出した瞬間、左手を振り、箒を出現させる。箒である筋斗雲はユウの体を受け止め、ユウをワームのもとまで運んでいった。


(もう、私にはイスカしかいない)

 ユウはそう考えるようになっていた。

 人々が苦しむ姿を見たくない、という思いがきっと魔法少女を始めた頃のユウにはあった。しかし、今はイスカの助けになりたい、イスカに褒められたいというそんな気持ちで魔法少女を続けていた。

「ねえ、イスカ。ちょっと試してみたいことがあるんだ」

 ユウはバトンの先をワームに向ける。そして、呪文を唱える。

「影は光の下へと忍び寄る。音も立てず、声も出さず。光ある故に形あることを噛みしめつつ、その形の定まらぬことを首をひねって考える。影の動きに身を委ね、人々は震える声を上げる。歓声か。それとも怒号か。それは影には分かりえぬ。影はただひたすら踊るのみ。踊る光の真似をして。望まれるままに踊り出す。そこに感情など存在しない。伝えたい者などありはしない。人々の思いが影の心。人々の思いによって影は形を変える。さて。今宵のショーはどんな影?」

 ユウの魔法はユウとワームのいる空間を切り取り塗りつぶす。

揺らめく影の少女歌劇はしれこうそくのていこくかげきだん

 現れたのは劇場。舞台に立つのは一人の少女と醜い化け物。

「結界系ドリル!?」

 ユウはバトンをくるくると頭の上で円を描くように回す。すると、無数の光の球がワームの頭上に現れた。

 ユウはピタリ、とバトンの動きを止める。すると、ワームの頭上を舞っていた光の球も動きを止める。ユウはバトンを振り下ろす。その動きに合わせて無数の光の球がワームに襲いかかった。

「ふぃなーれ!」

 大きな爆発音とともに劇場は消え去り元の世界へと戻ってくる。

 ワームは跡形もなく消え去っていた。

「ユウ。大丈夫ドリルか?」

「ええ。大丈夫だけど?」

「結界系は自分の心の世界で現実をその空間だけ塗りつぶす魔法ドリル。だから、消費する魔力も大きいドリル」

「心配性だなぁ、イスカは」

 ユウはイスカの頭を撫でる。

 ユウはイスカに心配されるのが嬉しかった。結界系の魔法を使った後は軽いめまいがしていたが、ユウはイスカに褒められるのが嬉しくて、何度も結界系を使っていた。


 そして、2005年10月30日。

ユウはイスカと城ケ崎がキスをしているのを見てしまった――


次回予告!?


アイドルに魔法少女と、大変な毎日。

歌って踊って学校に行くのも大変なのに、ワームはいつでも出てきてもう大変!

 それでも、やっぱり魔法少女はやめられない!


 次回、『ワッショイ!正義の味方、頑張ります!』


 そして罪はより深く――

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