伍。 魔法少女な日々 後編
伍。 魔法少女な日々 後編
これまでのキミきせは――
和泉子の正体!
死ぬ!萌え死ぬ!
え?外伝とかこれまでのスピンオフのノリになるのかって?
どうしようかな?
とりあえず、なんだか私、魔法少女になりました!
そして、敵であるワームを倒す日々です。
そう言えば、前回、ワームが出た、という話で――
2005年 9月 22日 午前7時
「ドリーム・コンパクト!メイク・ストーリー!」
ユウは掛け声とともに魔法少女に変身した。
「そう言えば、魔法少女ものって相場が小学生から中学生だと思うんですけど、視聴年齢ってもっと低いはずですよね」
「イスカのリサーチだと、成人男性の視聴率の方が高いドリル」
イスカは妖精の姿に戻っていた。
「さあ、ベランダから飛び降りるドリル!」
「無茶を言わないでください!」
イスカは首をかしげる。
「言い方が悪かったドリル。スナップを利かせながら左手を振るドリル」
「こ、こうですか?」
ユウは恐る恐る左の手首を振る。すると、煙を上げて、ユウの手に箒が現れた。
「って、箒……ですか?」
ユウの視線の先には宙に浮かぶもくもくとした物体が浮かんでいた。
「筋斗雲ドリルね……」
「筋斗雲ですよね……」
二人は首をかしげる。
「箒は魔法少女の空を飛びたいというイメージの現れドリル。つまり、空を飛ぶ乗り物のイメージがそのまま箒になるドリルが……」
「つまり、筋斗雲になったのは私が悪いと。ドラゴンボールの見過ぎなんですね」
「そうなのかは知らないドリルが……」
魔法少女のシステムの枠組みを作ったのはイスカだった。試験的に魔法少女アニメをモデルとしてシステム構築をしたわけであるが。
「とにかく、飛行能力はお墨付きドリル。早く乗るドリル!」
イスカは肩に乗り、ユウを雲に乗るように促す。
「は、はい……」
ユウは恐る恐る雲に手を伸ばし、雲をつかんで引き寄せるといそいそとベランダから体を乗り出し雲に足を載せる。
「しかし、よりにもよって幻の存在を具現化するとは……」
「え?何か言った?」
「な、何でもないドリル」
ユウは雲の上で四つん這いになり、空を進んでいく。
「きっとオンエアでははっきりと言ってる風になっているドリルね」
「何のこと?」
「ほら。見えたドリルよ」
ユウの視界には巨大な蟲が現れていた。頭を地面にすりつけて何やらもぞもぞと動いている。
「あれは何をしているの?」
「……それは――」
うぎゅあぁあぁあぁあぁあぁ!
悲鳴が空を突き刺す。
それはワームが声を上げているのではなく――
「人――!?」
ユウと同じ年頃の少女がワームの頭の方に倒れている。その体に向かってワームは口を近づけ――
モシャ、グチャ、グチュッ。
「何か――食べてる――」
ユウはワームに襲われている少女を深く観察するものの、そのどこにも損傷はない。少女は虚空を見つめていた。時おり、悲痛な叫び声をあげるものの、だんだんと表情を無くしていき、口からは涎がこぼれ、しまいには舌が口から出てしまっていた。もう、悲鳴も上げない。
「ワームは――人の心の花を食べるドリル」
人に心の花などない。次元認識能力をワームは食している。
しかし、どうも人間の、特に少女の高次元認識能力には妖精が有していない精神という量子振動が深く関連しているようだとイスカは考えた。つまり、ワームはこの世界で高次元認識能力を有する少年少女の高次元認識能力を奪うために精神を侵食しているのだ。
「早く、あの子を助けないと!」
ワームは目のない頭を上げる。
ワームはユウの存在に気がついたような素振りを見せたが、興味がないという風に路上の、別の存在に目を向ける。
路上には倒れている少女を見つけ、駆け寄ってくる女性の姿があった。その姿はどこか倒れている少女と似ている。
「あの子のお母さん?」
すると、ワームは女性へと首を向けた。
「危ない!」
ユウは右手のスナップを利かせ、バトンを出現させる。そして、バトンを振るい、星型のエネルギーを放出した。それはワームに当たる。ワームの肉の破片が辺りに散らばる。
「どうしてあの人は気がついていないの?」
近くに巨大な蟲が存在し、それが大きく弾けたというのに、女性はそのことに気がついていないようだった。
「普通の人には魔法少女やワームの存在は見えないドリル」
ユウは女性とワームとの間に割って入る。ワームはぴくぴくと痙攣しているような動きを見せていた。
「あれ?なんだかもとに戻り始めてる?」
ワームの肉体は徐々に復元され始めていた。ブチブチと膿のように膨れ上がった傷口から黄色い汁が流れ出し、膿が弾けるとともに少しずつ肉体は復元されていった。
「どうも情報復元能力のようなものを持っているようドリル。前には見られなかった能力――力の使い方をまだ知らないのか、それとも新たに得た――というのは考えられない。その素因がこの世界にはないからだ。ということはやはり力を使いこなせていない――だが、そうなるとそれはどこで学習する?こいつらは一種の共同体か?それとも情報同期を行っているのか?もしくは、指導者のようなものか奴らの情報を閲覧できる存在もしくは指令を行える存在というのも――」
「えっと……これはこの前みたいに倒しちゃっていいの?」
ユウの言葉にイスカは我に返る。
「いや、一気に倒してしまう方がいいドリル。なんだか嫌な予感がするドリル。完全回復まで動かないはずドリルから、それまでエネルギーをチャージするドリル」
「どうすればいいの?」
イスカは魔法が使えないので、どうすればいいのかと問われて少し戸惑った。
「バトンの先にエネルギーの流れを集めるイメージをするドリル。そして、長い呪文を唱えるドリル」
「長い呪文?」
「ほら、中二病とかにかかるとよく歩きながら唱えている――」
「唱えません!」
ユウはしばらく頭を悩ませた後、呪文を呟き始める。
「闇の帳が晴れていく。星々が光を失い、新たな王が世界を見守る。王を迎える山の端は胸を逸らして不動を誇示し、鳥は王に姿を見せんと羽を広げて闇に溶ける。ひとたび王が目覚めれば、霧は喜びの歌を捧げ、露は輝いて王の復活を喜ぶ。夜の帳は潔く身を引き、鳥は羽をはためかせ踊りを踊る。せせらぎは途端に音を取り戻し、虫もまた彩を加えんと野山を駆け巡る。獣は王の輝きを前にひれ伏し、人は王の光を浴びて呑気に欠伸をした――」
ユウのバトンには十分に魔力が貯まっていた。
ワームもまた、行動を開始する。ユウや少女を狙うのではなく、高次元認識能力を有していない女性を狙って――
「
ワームの体を消し去る一条の光が天さえも突き抜けた。
今度はワームの体の一部も、焦げた匂いさえも消し去る一撃だった。
「彩奈!しっかりして!彩奈!」
残ったのは、女性が必死で少女に呼びかける悲痛な叫び声だけだった。
同日 午後11時
イスカは妖精たちと電器屋の前で待ち合わせていた。
「魔法少女システムの構築例ドリル」
イスカは妖精1号(仮称)と妖精2号(仮称)にコンパクトを渡す。
「なるほど。少女というのは知能指数が低いと。それが故に高次元認識能力を手に入れられるということパフね」
妖精1号(仮称)はそう言った。
「そして、ワームについてドリルが、どうも高次元能力者と、その血族を狙う傾向にあるドリル」
妖精2号(仮称)は首をかしげる。
「だが、高次元能力は量子振動によって起る現象のはずザウルス。遺伝などは関係ないはずザウルス」
「そこまで向こうも情報を得られていないということではないパフか?もともと少しサンプルも足りないパフ。外見が似ているということで同等の力を持っていると誤認しているとは考えられないパフか?」
「なんとも言えないドリル。それに、あいつらに知性を求めるのは魔法少女に知性を求めるのと同じくらい間違っているドリル」
電器屋のテレビからは深夜のアニメについての情報番組が流れていた。
「お前たちは何をしているドリルか?」
「ライは魔法少女を探しているザウルス。学校という場所はかなり少女が集まるところザウルスが、ライたちがコントロールできないザウルス。もっと効率が良い施設を作れれば効率が上がるザウルス」
「パフィーは旧鷺宮邸とその周辺について調査中パフ。そんな時、こんなものを見つけたパフ」
妖精1号(パフィー)はどこからか学習ノートを取り出しイスカに渡す。
「第二のはじまりの魔法少女がつけていたノート、パフ。魔法についての研究がされているみたいパフ」
イスカはノートを懐にしまう。
「そして、後は効率よく魔法少女を集めるために経済、政治の掌握が必要という結論に至ったパフ」
「それはどういうことドリル?」
イスカが首をかしげる。
「この世界を支配しているのはその二つの致命欠陥性集合体無意識社会支配概念パフ。簡単に言うと、政治と経済、二つをこちらが支配できれば何とでもなるのが人間パフ」
イスカはパフィーの言葉に得も言われぬ何かを感じる。
心のない存在が何かを感じるはずなどあり得はしないのだが――
「パフィーたちの歩んでいく道が妖精たちの道筋になっていくパフ。故に、頑張ってそれぞれ色々と試してみるパフ」
イスカとライは頷く。
「それと、深夜アニメ、特に魔法少女ものには必ず目を通すパフ。書籍やマンガ、ゲームにも注意するパフ!ネット掲示板もチェックを欠かさないようにするパフ!」
妖精たちは闇夜の中深く頷いた。
次回予告!?
突然言い渡された通知。
それは少女の運命を大きく変える。
魔法少女ユウは魔法少女アイドルとしての一歩を踏み出す――んだけど……
何故だかアイドルの先輩をカードゲームを始めることに!?
でも、頑張りますから!私のロリポップデッキの強さを証明しちゃうんだから!
次回、『魔法少女アイドル、はじめます!?』
そして罪はより深く――?
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