参。 颯爽登場!魔法少女ユウ!
参。 颯爽登場!魔法少女ユウ!
前回のキミきせは――
突然妖精さんが現れて、なんとイケメンに!?
とてもびっくり!
さらにビックリなのは私に魔法少女になって欲しいだって!
魔法少女って、あの魔法少女なのかなぁ。
そして、魔法少女の敵ってなんなのだろう?
キミといた季節。始まります!
2005年 9月 21日 午後3時 そよぎ丘学園周辺
「そんな変身って言われても……」
ユウは目を泳がせる。
交差点の壁から土気色の巨体が姿を現す。
近くの家々を高く超えるほどの大きさの、芋虫――
「あれが……」
「ワーム、ドリル」
妖精3号(仮称)もまた、その姿を拝むのは初めてだった。太陽を覆うほどの巨体であるにもかかわらず、その生命体に影はない。何故ならば、厳密にはそれもまた妖精3号(仮称)のように現世界には存在していないということになる。
高次元存在であるワームと妖精は概念存在であった。故に、3次元世界における物理的肉体を有してはいない。
「あんなのに……勝てるわけないよ!」
ユウは踵を返し、走り去ろうとした。ユウの細腕を妖精3号(仮称)はしっかりとつかむ。
「魔法少女の力があれば、あの怪物にも勝てるドリル。それに――」
ぐらり、と軋むような音がする。それは高次元認識能力者にしか感じられないものであった。
つまり、ワームは二人の方を目指しているということで間違いはなさそうであった。
「ぼくはあの怪物に命を狙われているドリル!だから、助けて欲しいドリル!」
妖精3号(仮称)は泣きそうな顔で言った。
妖精3号(仮称)の言うことは間違っていない。ワームは妖精も狙っている。
ただ、妖精という存在は死なない、というよりも何度も生き返ることができるだけの話だった。
ユウは妖精3号(仮称)の湿った瞳を見つめる。そして、視線をワームに映した。
「わかったよ」
ユウは手の中のコンパクトを掲げる。
「あなたは私が守るから――」
ユウの手の中のコンパクトは光を発する。
「ドリーム・コンパクト!メイク・ストーリー!」
ユウの掛け声とともに、ユウの衣服は光となって弾け散る。それとともにユウの体は光に包まれた。ユウの胸にコンパクトが装着される。コンパクトから白いリボンが飛び出していき、ユウの体に巻き付いていく。足、腕、胴、胸。そして、ユウの体の体の光が弾け散るとともに、リボンは衣装へと変化していく。
「ズバット惨状!ズバット怪傑!かいけ――」
「それでいいドリルか?」
ユウはポリポリと頭を掻く。
「魔法少女ユウ!誕生!」
白い衣装に身を包んだ、花嫁のような少女の姿がそこにはあった。
「で、変身したんだけど、どうすれば……」
ユウがもたもたしている間にもワームは妖精3号(仮称)たちの方へと向かってくる。
「右手を振るドリル」
ユウは妖精3号(仮称)の言う通りに右手を軽く振った。すると、手にはバトンが握られていた。
「マジカル・バトン、ドリル。それで魔法が使えるドリル」
「ま、魔法ですか!?」
ユウは自分の右手のバトンとワームの姿とを交互に見た。
「攻撃を想像するドリル。キミの想像が魔法になるドリル」
「え、は、はい!」
ユウはバトンを振る。すると、バトンからは星の形をしたエネルギーの塊が放出された。それは高次元エネルギーであり、今の魔法少女ユウは妖精の力により高次元領域からエネルギーを抽出することが可能になっている。
星の形のエネルギーはワームに当たり、ジュゥジュゥという音を上げる。
蒸気が立ち上り、湯気が去った後のワームは人肉のような桃色の肉が見えていた。皮膚は熱で変質し、蝋のように溶けていた。
「なんだかグロテスクなのですが……」
「まだ、倒せていないドリル」
「え?」
攻撃を受け静止していたワームは動きを取り戻し、再びユウたちの方へと進んでいく。
「何度も攻撃するドリル」
ユウはなんどもバトンを振り、ワームを攻撃する。ユウの放つ星型のエネルギーがワームに当たるたび、ワームの体は削れていく。体の一部を失っていく度、ワームはもだえ苦しむように体を揺らして暴れる。
「頭は完全に吹き飛んだ……ゴエッ」
ユウはワームの姿を見て路上に嘔吐する。
ワームはその身を半分以上削りながらもまだユウたちを逃すつもりはないようだった。
「早く倒さないとユウの身も危ないドリル。それはぼくだけでなく、ユウも狙っているドリル」
ユウは口から零れた胃酸を手の甲で拭い、バトンを構える。
「うりゃぁ!」
連続して星型のエネルギーを叩き込み、ワームは跡形もなく消え去った。
「ありがとうドリル。これで世界に平和は訪れたドリル」
妖精3号(仮称)は地面にへたり込み虚空を見つめるユウにそう言った。
そして、佐上悠はユウとなった。
名を奪うこと。それは契約の名のもとに魔法少女を縛ることでもある。それを遂行することは簡単だ。
それは、後戻りをさせないため。
普通の生活には戻れないことを示すため。
名を奪われた少女はもとの存在には戻れない。そして――
この世から消え去った時、人知れず、元の名を持った少女の存在は塵と消え去っていく。
同日 午後6時 四方家
「おかえり」
ユウの言葉にとんぼは何も答えない。大きなため息を何度もつきながら、小さなソファにカバンを投げ出す。そして、自分の身もまたソファに投げ出す。
ユウはずっと立ったままでその様子を見ている。
「なに?何かあるの?」
とんぼの視線の先には窓があった。その窓には部屋の中の像が反射している。その像を介してとんぼはユウが自分のことを見ているのを知った。
「あの……給食費……」
「自分のエサ代くらい自分で払いなさい。体を売ればいくらでも稼げるわよ」
あっはっは。
乾いた笑い声が響く。しかし、ユウは顔色一つ変えずにとんぼを見ていた。
「なによ。文句あるの?」
ぼんっ、ととんぼは足元にあった小さなテーブルを蹴り上げた。テーブルは少し浮かび上がり、再び音を立ててもとに戻る。
すると、とんぼは顔色を急に変える。
窓に映る像が卑しい笑みを浮かべた。
「なんなら、アンタの父親に頼んでみれば?ぎゃはははは!無理よねぇ!あんな借金まみれの産業廃棄物。まだ生きてたのかしら」
ユウが顔色一つ変えないのを見るととんぼは眉間にしわを寄せる。しかし、すぐに溜息を吐く。その顔には疲れが見て取れた。
「もういいわ。つまらないお人形さんね。昨日買い置きしておいたプリンとってきて」
「ごめんなさい」
「は?」
ユウが頭を下げているのを見てとんぼは再び眉間にしわを寄せた。
「朝、何も食べるものが無くて――」
ドゴン。
小さなテーブルが勢いよくひっくり返る。
ドタドタドタ。
とんぼの足音。
ドバン。
ユウが殴り飛ばされ、近くのテーブルに身を投げ出す音。
ゴバンゴバン。
ニンゲンが殴られて一番痛む場所は骨のある場所であった。
臓器への損傷は少ない。
だが、痛みは大きい。
ユウは顔色一つ変えていなかった。
「考察点、一。魔法少女にとって親とはどのような存在なのか」
妖精3号(仮称)にとって一番重要なのは魔法少女の身が限界を迎えるまで戦えるようにすること。
「そのために親という存在は必要なのであろうか」
妖精3号(仮称)は考察を続けていくことにする。
今にして思えば、この世界に異物が紛れ込み、それらが世界を侵食しているということを、その異物がぼくら自身であることにぼくは気がついていなかったのだ。
そして、それは罪となってぼくの身に重くのしかかる。
次回予告!?
なんだか魔法少女になった私、ユウ。
なんだか朝から大波乱の予感!?
そして、またワームが現れたみたいで……
魔法少女な日々、始まります!
次回、『魔法少女な日々 前編』
そして罪はより深く――
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