第17話 乱数チート?(前編)
パーティー結成の「資格試験」の後、ユーリは自ずと冒険の第二段階セカンダリアに進む資格も得たわけで、二人は揃って「同盟都市」に入った。都市を囲むように幅百メートルほどはあろうかという堀が巡らされている。船が頻繁に行き来しており、海に繋がる人工の運河だということだ。堀としての機能は後付けらしい。FSO世界としては破格の大きさの橋を渡り、城門をくぐった。
セカンダリア同盟都市は商人・職人ギルドが「同盟」を結んで統治している特殊な都市だ。商工業の発達ぶりはファストゥの港町とは比べものにならず、様々な商店とそれを支える工房がひしめいていた。ゲーマーとしては武器・防具・各種アイテムの種類が一気に増えて、必然的に金欠状態に陥る場所でもある。
間口の狭い店が、まるで蜂の巣のように一つの建物に収まっていた。プレーヤー間の通称もズバリ「蜂の巣市場」。木製の廊下がアーケードのように張り出しており、二階部分にも別の店舗が入っている。各種店舗を冷やかしながら、見る物すべてに驚き、感心するユーリ。案内するエルムも、そこまで素直に反応されると何となく得意な気分になってくる。冷静に考えれば、別に自分の手柄ではないのだが。
一見して他とは店の規模が違う装備屋があった。鍛冶工房と一体になっており、広い店内に
「ノスの工房」は、NPCに依頼する装備作成の中心施設だ。製作依頼は、いわゆる生産職のプレーヤーに出す事もできるのだが、現在あまり流行っていない。聞けば、生産関連のシステムが使いづらく、バランス調整も不満が多いという。それでいて、そういうプレーヤーの改善要望がいっこうに運営側に通らないでいる。そんなわけで現状、装備作成依頼は「ノスの工房」の独占状態だとか。
エルムの説明を聞きながら、あれこれと見て回る。
「……同じ武器でもいろんなタイプがあるね。それでいて威力はあんまり変わらないみたいだし」
「ああ、そこがVRゲームの特徴だね。取り回しがリアルな分、扱いやすさにプレイヤーの好みが反映されるから。スキル任せにして半自動で戦うならともかく」
「なるほど……あ、コンポジット・ボウがある」
「うん、ボクの弓もここで買って強化したんだ。+7で強化の上限なんだけどね」
「ふうん……あっ! エルム! これ、この『疾竜弓』って弓すごくない!? 攻撃力+83って!」
「あー……それはオーダーメイド武器なんだよ。作ってもらうには、モンスターのドロップや特殊鉱石なんかのキーアイテムが必要なんだ」
「そっか、なるほど。お金だせば買えるなら、とっくに使ってるよね……」
エルムはゲームの第三段階、ウェントス・エリアまで行けるけど、そこの中心都市サードラでも店売り装備の強さはセカンダリアと大して違わないという。
「ここら辺からオーダーメイド武器に乗り換えさせる方針なんだろうね。そして強い装備のキーアイテムは、強力なモンスターが持っている……」
(う~ん、そういう事か……)
そして死に戻り縛りしているエルムは、一定レベル以上のキーアイテムをゲットできないでいる。あえて口にはしなかったが、彼女のゲーム進行が一種の手詰まり状態になっている事をユーリは察した。
「資格試験」の後だったもので、それから都市の周辺を探索するには中途半端な時間だった。また明日と言い交わし、二人はそこで別れる。ユーリは近くの宿屋の一室を借りてログアウトした。
◇
翌日、待ち合わせ場所に歩いてきたエルムに、ユーリがものすごい勢いで駆けよってきた。
「エルム! 行こう! サーカムの森! 『走竜の堅骨』ゲットしよう!」
「ちょ、ちょっと落ちついてユーリ」
他のプレーヤーの目をはばかり、興奮したようすのユーリを引っぱって場所を変える。話を聞いてみると、ゆうべ寝る前にFSOのWikiを見たという。
「そしたらテッラ・エリアのモンスターも、低確率でウエントスで採れるはずのアイテムを落とすってあったからさ。サーカムの森のハシリトカゲ、レアドロップが『走竜の堅骨』だって。ゲットできれば疾竜弓が作れるようになるよ!」
目を輝かせてしゃべるユーリに対し、エルムは次第にジト目になっていく。肩をすくめながら両手を広げ、天を仰ぎ
「これだからシロウトは……ウソはウソであると見抜けない者にWikiを使いこなすのは難しい」
再びゴーマンモードのエルムである。
「あのねえ、それは確率はゼロじゃないって程度の話で、何百回周回繰り返してもかまわないって廃人専用の煽りだよ? このゲームのレアドロップ、低確率ぶりがハンパじゃないんだから」
ゲームとしては当然の調整である。ウエントスエリアのモンスターから得られるアイテムが、その手前のエリアのザコからほいほいゲットできたら、強力装備が作り放題になってゲームバランスは崩壊する。それでもまあ運営としては長時間ログインして欲しいので、そういう宝くじ的要素も残しておくわけだけれど。
やれやれ顔のエルムに対し、ユーリはケロっとした顔で続ける。
「うん、でも、このゲームはモンスターを倒すタイミングでドロップランクが変動するってあったから、そのタイミングを合わせれば上手くいくよ。……行くと思うんだ」
「どうやって? タイミングで変動するのは検証されてるけど、『レア』のタイミングを知る方法は? ブーッ、あなたの提案は却下されました」
ジト目の棒読みセリフに苦笑しながら、ユーリはなおも食い下がる。
「頼むよ、一度試させて? 僕にモンスターのとどめ役をさせてくれるだけでいいからさ」
「うーん……」
この子、大人しそうに見えて結構ガンコだなぁ。そんな風に性格評価を変えながら、エルムはひとつため息をついた。
◇
場所は変わって、セカンダリアの北方に広がるサーカムの森。さっそく目当てのハシリトカゲを……と思ったのだが、敵モンスターとのエンカウントは希望どおりには行かない。初遭遇はグリーンボアという大蛇モンスターだった。
「トドメは任せてもらっていい? 検証したいんだ」
「OK、でも長時間接近しすぎないように注意して。巻き付かれると厄介だよ」
二人、言い交わして前衛・後衛に別れて走りだす。
「こっち向けっ、『ウォークライ』!」
覚えたてのスキルを使い、ユーリは敵のヘイトを集める。エルムは物陰に隠れて息を静め、手加減用のスキルを使い大蛇の頭部を狙い撃った。
「『瀕死』っ」
「ギシャァァ!」
「あと一撃!」
それで倒せると声を掛け、エルムはユーリを見守る。……ユーリは盾を構えて大蛇の周辺を周り、なかなか攻撃に移らない。表情を引き締め、精神を集中しているのが見てとれる。が、見ているのは敵そのものではないらしい。断末魔のグリーンボアの攻撃がいくつかヒットするが、それにかまわず目を半眼に据え、敵を透かして向こう側を見るような……
「何やってるのユーリ! 動いて!」
思わず叫ぶエルム。瞬間、構えたショートソードが閃き、大蛇の眉間を貫いた。声もなくグリーンボアは崩れ落ち、そのまま光るポリゴンの破片に変わり消えていく。
「ユーリ、被弾しすぎだよ! ボクならともかく、今のキミじゃここの敵の攻撃、何度ももらっちゃダメだって!」
つい小言を口にしながら駆けより、初級の回復魔法を唱えるエルム。ユーリはその場に膝をつき、かなり疲労したようすだった。
「ごめん……次はもっとうまくやるから。……うん、これは成功かな?」
自分の
「……ええっ!」
収納庫に入っていたアイテムは、『厄蛇の強革』。通常ドロップの何百分の一の確率と言われるレアドロップだった。あっけにとられて、声が続かないエルム。
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