転生セラピー。それは悩んでる人を昏睡状態にさせて、夢の中で自分が転生したかのような経験をさせて心の問題を解決するという新種の治療法。
そんな職場に勤め、被験者を上手に連れ去るのが主な仕事の主人公鈴木羽馬(ユニコーン)。実は彼も過去にこのセラピーを体験しており、その時は勇者になってからさらに魔王になるという波乱万丈な異世界生活を経験していた。おかげで魔王の記憶ははっきり残っているものの、今はしがない社会人。毎日あくせく働いていたのだが、しかし、セラピーの過程で一人の少女に彼の魔王時代の部下の人格が入り込んでしまったからさあ大変。鈴木とその少女は一緒に、時には大人の上司として、時には魔王として振る舞いながら、仕事をすることになってしまう。
職業ものと異世界転生を思わぬ形で結びつけた本作品。仕事の都合上、妙なコードネームで互いの名前を呼んだり、被験者を自分が異世界転生したと思い込ませるために犯罪スレスレの手段で拉致したりと、その仕事内容は実にユニーク。また異世界での体験を恥ずかしいことだと思ってるせいで仲間内でイジりあったり、異世界にいた時と現在の自分の肉体で思わぬギャップが生まれていたりと、異世界から復帰した者ならではのあるあるが描かれているのも面白い。
かつて異世界で体験したような万能な力はなくても、自分のできる範囲で身の回りを良くしようとする大人たちの奮闘がまぶしい一作だ。
(「いろいろな魔王」4選/文=柿崎 憲)