第4話 解放

「止まれ。」


 どこからともなく、門を挟んで二人の男が現れた。


 俺は、直感的に体が動き、戦闘態勢に入る。

 左側にいるやつは、ほっそりした小柄な男。体にフィットした全身タイツに、やたら細い槍。

 右側にいるやつは、丸々太った大男。ゴッツイ鎧に、体からはみ出るくらいの盾。


「ほう、素晴らしい反応だ。しかし、ここを通すことはできない。立ち去れ。さもなくば、ここで死んでもらう。」


 同じ声。

 左側の男か。


「待って! まだ日は暮れていないじゃない! 私たちを中に入れて!」


「二度言わせるな。我は動かんぞ。」


 しばらく、にらみ合いが続いた。

 もう、日が落ちようとしている。


 相手は、ここを動く気はないらしい。

 かといって、隙があるはずもなく、突破するのは難しいだろう。


 俺は、心の中で、ミナに言った。


 ここは、一旦引こう。

 あっちが何の能力を持っているかわからないし、いきなり突っ込んでもこちらに分はない。


 相手の様子をうかがいながら、足を一歩引いた。

 すると、二人の男のうち、槍の男が、空を切るようなスピードで突っ込んできた。


「日が今、地に落ちた。お前たちは反逆者としてここで死んでもらう!!」


 ゆっくり進む時間の中、その男は、俺の一歩前まで迫っていた。

 しかし、目の前から撃たれた銃弾さえ、避けてしまう俺には、何の造作もなかった。

 槍が、敵の懐から飛んでくる。

 軌道を読み、横にいなした。


 ほら、顔面に、でかいの一発!


 俺のこぶしは、相手の顎を見事捉える。

 槍の男は、門の方まで吹っ飛んだ。

 吹っ飛びすぎだ。

 一撃で決めるつもりだったが、攻撃を受け流されたか。


 まずいな、ただでさえ2対1の状況なのに、相手は能力持ち。

 戦いが長引くだけ不利になる。

 次で決めなければ。


「我の攻撃がかわされた? 地球人にか! ハッハッハッハッ!! お主、やるのぉ!!」


 敵の構えが変わった。

 その場の空気が、張り詰める。


「もう遊びは終わりだ。死ね。」


 さっきよりも速い。

 だが、これならまだっ!

 確実に決める!


 真正面に敵が突っ込んでくる。

 そして、槍での攻撃。


 まず、俺はその槍をいなした。

 つもりだった。

 しかし、実際には、槍のスピードが異常に速すぎた。

 俺の目でさえ追えないスピード。


 嘘だろっ!!

 

 脇腹に激痛。

 敵は、すぐさま槍を引き抜きもとに位置に戻った。


「またしても、見切るか。だが、もうおしまいだ。こいつはここで殺しておかなければ、我らの脅威になっていたかもしれぬな。」


「ダースさん?!」


 ゴホッッ・・・


 俺は、血を吐いた。

 

「くっ、あそこで何で槍だけ加速するんだよ。」

 

 意識が朦朧とする。


 一刺しでこれかよ。

 猛毒か、用心深い野郎だ。


 地面に倒れこんだ。

 腹部からの流血が止まらない。

 

 毒の影響で、体が思うように動かせない。

 これじゃあ、止血も毒抜きも無理だ。

 これで終わりか。

 ろくな人生じゃなかったな。


 俺は、瞼を閉じた・・・


 と、その時、どこからか、声が聞こえてきた。


(所詮お前はここまでか、仮面とやらも偽りに過ぎなかったのだな。)


 仮面、俺の素顔を偽るためのもの。

 仮面のおかげで俺は、楽になれた。

 何も間違ったことはしていない。


「変わりたい・・・」


 なんだよ、それ、いつ死んでもいいと思っていたじゃないか。

 このままくたばろう。


「生きたい・・・」


 すると、謎の声が、またしても俺に語り掛けてきた。


(汝は、力を求めるか。)


 いらない、もう楽に死なせてくれ。


「力を、力をよこせ!」


(汝は、何故、力を求める。)


「俺は、生きて、変わるんだっっっ!!」




「何だ、まだ生きていたのか。とどめを刺してやる。」


「やめて! ダースさんを殺さないで!!」


「死ね!!」



 と、その時! 突如この場一帯が、闇に飲みこまれた。


 無。


 何も見えず、何も聞こえず、何も感じなかった。

 ただ、その闇は、とても心地よいものだった。

 今まで生きていた冷たい闇とは違う、暖かい闇。


 次の瞬間、ぱっと視界が明るくなった。

 明るくなったと言っても、明かりは塔から漏れる光のみである。

 俺の状態はといえば、先ほどと変わらず地面に横たわっていた。


「あいつらは・・・」


 動かせない体で、無理やり頭を少し上げ、門の方を見てみると、敵二人は、その場で完全に固まっていた。


「何が、起きたんだ・・・?」


 薄らぐ意識の中で、頭に謎の声が響く。


(汝は、甘い果実に手を出した。それは、求めてはいけなかったもの。決して触れてはいけなかったもの。汝には、重い罰が下される。そして、歓迎しよう、"エデン"へ、ようこそ・・・)




 月明りない新月の夜、一人の男は、歓迎され、罰せられた。

 そして、深い深い眠りについた。

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