第1話 異世界からの訪問者
「んーー。んー?」
寝ぼけた声を出しながら、ダースは仕事終わりの仮眠から目が覚めた。
しかし、彼が居たのは、薄汚れた宿屋の、カビ臭いベッドの上ではなく、春の匂いがする、気持ちのいい風の吹く、野原の上だった。
「ここは、どこだ・・・? これは夢か?」
腕をつまんでみた。
痛い。
夢じゃない。
じゃあ、自分は今どこにいるんだ?
冷静に考えてみるが、どう考えても最後に居たのは宿屋のベッドの上だ。
いったいどうなってしまったんだ・・・
ふと何かが足りないことに気づき、勢いよく起き上がった。
「服がない・・・、武器もない・・・、仮面は?!」
焦って顔を触ってみる。
硬いプラスチックの感触。
「良かった、仮面はついてる。」
とりあえずは大丈夫だ。
しかし、まぁ、どこを見ても野原だな。
少し目を細めて遠くを見つめてみた。
何かあるな。
あっちに向かって歩いてみよう。
草で局部は隠すか。
器用に地面に生えてある草を編み、短いスカートのようなものを作った。
今まで傭兵として仕事をしていたから、このような事態には慣れている。
よし、行こう。
さっと支度を済ませ、何かを見つけた方向へゆっくり歩き出した。
道中、あれからずっと考えていた。
ここはどこか、ここの草花はどれもみたことのないものばかりだ。
これからどう行動するか、とりあえずは、食料と水の確保。
そして、自分はなぜここにいるのか。
自分が寝てる間に何が起こったのか。
周囲の気配を感じながら寝る癖がついているから、このような状況になったのはなんとも奇妙だ。
人に移されたわけじゃない。
ということは・・・
と、その時、
「キャーーー!!」
突如、女性の悲鳴が聞こえた。
俺は声の聞こえた方向へ向かって走り出した。
いつの間にかあらわれていた、木々の間を抜ける。
何をしているんだ、女性の悲鳴なんて聞き慣れたものだろう。
だが、足は止まることなく、100mメートルあろうかという距離を、ほんの7秒でたどり着いた。
すると、見たこともない、3mはある大きな熊のような怪物が、女性を襲おうとしていた。
俺は、一瞬でその状況を判断し、考え、行動した。
まず、その女性を怪我をしない程度に跳ね飛ばし、標的の注意を自分に向ける。
次に、武器の確保。
枝、石、つる、ない。
怪物の、打撃が飛んでくる、避ける。
しかし、放たれた一発は地面を深くえぐった。
なんだこの破壊力は?!
こんなの一撃でも食らったら即死だぞ!
敵の猛攻。
俺は、額に汗を垂らしながら、全て避けきっていた。
破壊力はすさまじいが、攻撃は、いたって単調。
最初は、少しビビったが、所詮はこんなもんか。
今。
敵の様子を見計らって、勢いよく跳ね上がり、怪物の目と思われるもの4箇所に指を突き刺した。
ヴォォォォゴォォォォーーー!
叫び声をあげて、怪物は倒れた。
「はぁはぁはぁ、まぁこんなもんか。こいつを食料にできないかと思ったが、激臭で食えたもんじゃない、とりあえず諦めよう。しかし、道中の、見たこともない草木に、この四つ目の怪物。いまだに信じられないが、これではっきりした。ここは、ちまたで噂されていた、異世界ってやつだ・・・」
狂ってしまったんじゃないかと思った。
そんなことあるはずない。
だが、こんな事態でさえ、俺の頭は、冷静に理解していた。
「大丈夫ですか?!」
女性は声を荒げて、訪ねた。
「あぁ、大丈夫だ。それよりお前も大丈夫か?」
俺は、ゆっくり後ろを振り向いた。
「私は・・・」
しまった!
せっかくこの世界の住人と出会えたのに仮面をつけたまま顔を見せてしまった!
ゆっくり、話せば大丈夫だ、ゆっくり。
「怖がらずに聞いてく・・・」
「私は、ミナって言います! 助けていただきどうもありがとうございました! 何かお礼をさせて下さい! 私迷子になっちゃって、そしたら、この深淵の森に踏み込んじゃって、グリーズに襲われて、もう死ぬかと思いました。あなたは、地球からやってきたって方ですよね! とてもお強いですね! 一目みたいと思っていたんですよ! でも、街のみんなは地球人のこと嫌ってて、なんでかなーって思ったんですけど、」
ミナはパニックだからか、そういう性格だからか話が止まらなそうになかった。
「分かった、分かったから、落ち着け。」
俺は、ミナをなだめた。
「あ、はい! すいません、何言ってるか分からないですよね。よくみんなにも言われるんです。」
こいつにもといた世界への戻り方を聞いても知らないだろうな。
ややこしくなるのは面倒だし、この世界についてだけを教えてもらうか。
「俺のことはいいから。とにかく無事で何よりだ。お前は俺たちのこと知ってるみたいだが、俺はお前たちのことを何も知らない。助けてもらったお礼だと思って、ここのこと聞かせてくれないか?」
「あ、はい! そういうことならひとまず私の家に来てください。腰を下ろして話しましょう。」
「助かるよ、ありがとう。」
ありがとう、か。
ここ数年使ってなかった言葉だな。
結果的にここのこと知ることができるから良かったものの、不意にこの女性を助けてしまったし、俺は変わってしまったのか?
もっと慎重にいこう。
ダースは、ミナの後ろを足音を立てることなく歩いている。
標的を狙うような目つきをして。
雲ひとつない空の下、少しずつ影が揺らめき、彼に襲いかかろうとしている。
彼はまだ気づいてはいない。
彼の変化は行動だけでなく、体にも現れ始めていることを。
そして、彼女との出会いが彼の人生を大きく変えることになることも・・・
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