ハッタリだけの騙し討ちで異世界無双!~ダメージ0の能力を授かった最強のスパイ~
とりうみ
第1章 始まりの芽編
プロローグ 仮面をつけた男
プシュッ
バタンッ・・・
プルルル、プルルル・・・
ガチャッ
「ゼータ部隊、12名の暗殺完了。一か月後に。」
ここで一つ、ある男の話をしよう。
ちょっとした作り話だ。
男は、ある有名な傭兵軍隊で、暗殺部隊に所属する凄腕のスパイ。数々の不可能と思われる暗殺を実行に移し、成功を収めてきた。これまで失敗はひとつもないという。
もちろん、その素顔は謎に包まれていて誰も知らない。
しかし、ある時、一つの噂が立った。
傭兵軍隊の中から漏らされたものだ。
彼は、どんな時も仮面をつけているらしい。
顔面を丸々覆う仮面をだ。
だが、めったに人前に現れず、すべて携帯電話を通して連絡を取り合っているため、軍隊の中でもその男を知るものはほとんどいないみたいだ。
そうそう、昔、彼は、ゼロ部隊というところに所属していた。
某国の大統領を暗殺したっていうあの部隊だ。でも、彼は仲間を足手まといだと言ってゼロ部隊を抜けたんだ。
その後が気になるか?
その後彼が入ったのが、ゼータ部隊のようなんだ。
その部隊は、彼一人だけで構成されて、成績も暗殺数も軍一だっていうじゃないか。
ああ、12人もいるゼロ部隊の上だよ。まったくいかれてやがる、人間が成せるわざじゃねぇ。
そして、彼がゼータ部隊に入って3年が経ったある時だ。
彼と急に、連絡が取れなくなった。
任務完了の電話があってから三か月を過ぎてもだ。
そこで一人が彼の任務地を探したらしい。
そしたら、彼が身に着けていた服、武器、携帯電話、すべてが残っていたんだ。
彼の体と仮面を除いて。
ああ、俺だって何が起きたのかわからねえよ!
もしかすると、今話題の異世界に連れていかれたのかもな!
異世界には自分の大事なものを一つだけ持って行けるっていうし。
それとだ、あっちの世界では、火を操るだ、音速で走れるだ、漫画のような能力を手にできるって噂だ。
なんてな! ハハハハハハ!!
まぁそんな悠長なことも言ってられねぇな。
今この世界では、水を求めて戦争が起こってるし、人の増えすぎで、食糧不足も問題になってる。
一週間前、殺戮兵器によって一つの国が一瞬にして砕け散ったって話もある。
お偉いさんはみんな異世界に移住したって話もよく聞く。
そう遠くない未来、みんな異世界に移住する日も近いのかもな。
よし! じゃあ、俺はそろそろ帰るよ。
今度は異世界で会おうや。ハハッ
え? 最後に彼がなんて呼ばれていたか教えてくれ?
いいだろう、彼は、世間の間では、こう呼ばれていた。
・・・十二面相、ダース。
時は流れ、ある闇の深い路地裏。
怪しい三人組が、ローブを頭からまとった、仮面の男を追っていた。
「こちらレッド、まもなく尾行中の標的がポイントへと向かう。準備はいいか?」
「こちらブルー、あぁ、10km離れたところからしっかり目で追っている。イエロー今そっちに行くぞ。」
「こちらイエロー、目視で確認した。まもなく標的が能力発動範囲に入る。3、2、1・・・」
すると突然、地面から出てきた岩が、仮面の男の足をつかんだ。
そして、間髪入れることなく、後ろからつけていた男が、水でできたナイフを心臓めがけて突き刺し、距離を取る。
「ブルー、終わらせろ。」
「あいよ。標的の頭をロックオン、あばよ。」
放たれた弾は、一直線に仮面の男めがけて飛んでいき、頭をぶち抜く。
男は地面に倒れた。
仮面の眉間が見事に撃ち抜かれている。
「任務完了。ブルー、イエロー撤退だ。」
「了解。」
「ふぅ、十二面相ダースと恐れられていた割りに、意外にあっけなかったな。どれ、最後にお前の素顔だけでも拝んどいてやるか。」
とどめを刺した男は、興味本位で男の仮面を剥ぎ取った。
「何だこれは・・・」
しかし、そこにあったのは、人の形をしたマネキンの顔だった。
そして、次の瞬間、マネキンは夜の影へと消えていき、そこに残ったのは、ローブと撃ち抜かれた仮面だけになった。
「残念だな。そいつは偽物だ。」
すると、どこからともなく建物の影から、倒されはずの標的とそっくりな男が姿を現した。
「なぜだ! 俺はお前を終始つけていたはず! すり替わる隙など与えなかった!」
「だが、俺はここにいるぞ? どうしてだろうな? 本番は、ここからだ。」
仮面の男が、ローブを広げると、中から大量のナイフが、二人のもとへ向かって飛んでいった。
1人が、岩の壁をつくる。
しかし、それらのナイフはすべて闇に消え、いきなり二人の男の真後ろから現れた。
「しまった! そういう能力か!」
気づいた時には時遅し。
彼らは、ナイフで体を串刺しに。
二人は痛みで声を上げ、やられたのかと思った。
しかし、本物のナイフと何か違うことに気が付いた。
「もう、遅い。」
仮面の男は、レッドと呼ばれる男の耳元でそうささやくと、手に持っていたナイフで、心臓を突き刺した。
「レッド!! おい、ブルー、レッドがやられた! お前も長距離狙撃で応戦してくれ!」
「何だって?! 倒したんじゃなかったのか! 動いてる敵に俺の弾は当たらないぞ!」
仮面の男は、すぐさま向きを変え、もう一人の男に向かって、どこから取り出してきたのかミニガンを撃ち放つ。
静かだった町に突如響き渡る、爆音。
岩の能力使いは、なぜかナイフで刺された痛みが消えたことに気づき、すぐさま岩の壁を張る。
だが、壁の向こうでミニガンを使っているはずの仮面の男が、いきなり壁の横をすり抜け、リボルバーを構えた。
至近距離から放たれた銃弾は、相手の心臓を貫く。
男は倒れ、動かなくなった。
仮面の男は、すぐさま倒れている男から無線を奪い、物陰に隠れた。
「遠くから俺を狙う者へ、あいつに伝えとけ。俺はいつも影からお前の首筋を狙っている、追われているだけだと思うなよ、と。じゃあな。」
仮面の男は、影に消えた。
超常的な力が飛び交う異世界。
最強の暗殺者だった男は、最弱の力を手に入れる。
仮面の男が繰り広げる、最底辺から始まった怒涛の逆転劇、ここに幕開けである。
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