第5話 亡国からの使者
──……それから、六時間後のこと。
異変に気付いたカスタトール将軍と副官は、砦へと急ぎ兵を引き揚げ向かっていた。それにいち早く気付いたワイゼル将軍は、即座に背後の国境へと逃れ始める。
「何とか凌いだようだな……」
フォスターは、安堵の吐息を吐いた。
「急ぎ、追撃なさいますか?」
「……そうだな」
ワイゼル将軍は、パーラースワートローム国境へと向かい逃れていた。これを正面に囲い込むようにして包囲すれば、ワイゼル軍は国境を越える他にないだろう。
となれば、パーラースワートローム側の王兵とあの忌々しい精霊達が、あのワイゼル軍を攻撃する筈だ。それを上手く使えば、こちらの兵の消耗も少なく、楽に勝てるだろう。
早速、戦略的作戦をたて、諸将に戦術的行軍の指示配置を命じた。
が、計画は予想外の展開となる。
フォスターとしては、当地の王兵と精霊等を利用し、ワイゼル軍を挟み込む戦略的作戦を企てていた。
しかし、何故か国境を超えパーラースワートロームの内地に来ても、精霊等は現れず。あの聖獣シルヴァーフの影すら見えない。しかも、これまで近づくことさえ困難であった当地の王都を、ワイゼル軍は難なく占拠し、なんとそこに居を構えたのだ!
これは有り得ない、予想を裏切られた事態だ。
(あの女神め……更に、何を狙い企んでいる!?)
もうこれは、疑わずにはいられなかった。
ともかくフォスターは、ワイゼル将軍のそうした動きを許す訳にいかず。迅速に対応しようと動いたが。国境付近でワイゼル側が新たに手に入れた《聖霊兵器》が、驚くことにそれを阻んできたのだ。
これまで、聖霊の加護無しでは使えなかった筈の兵器が、驚くことに、突如として使えるようになっていた。
流石に、これには仕方なく、早期撤退し。対峙する丘陵地に、新たな砦を建設し。そこで腰を据え、備えることに決めた。
そして……意外なことに、これまで幾つか手に入れてきた聖霊兵器が、こちら側でも同じく使えるようになっていたことに後になって気が付く。
何よりも、これまでただの水だった筈の水が、青白き不思議な輝きを放ち始めていた。
しかも、その水に浸すだけで、兵士達の傷も治ってしまうのだ。
「《精霊水》か……まさに、噂に違わぬ神秘の水だな。これは…」
これにより、結果としてフォスター等は精霊水を手に入れたことになる。
だが、
「あのワイゼルのお陰で、キルバレス本国には、簡単に帰れなくなるか……」
このまま帰還すれば、更にワイゼル軍は王都を堅固な城塞とし、基盤を固める筈だ。そして、精霊水が流れる上流をせき止め、独占しようとも企むだろう。
事実、数度それを阻む為の戦闘が行われ、報告を受けている。
《精霊水》を独占され、《聖霊兵器》を使われては、対抗手段を失ってしまう。
となれば、今ここを離れる訳にはいかないだろう。
「……すまない。許してくれ」
フォスターはその時、妻子の写実画が描かれたロケットを、強く握り締めていた。
──それから、三年後……。
共和制キルバレス本国から、フォスターの下へ、急報が届けられていた。
「何だとッ!? 首都キルバレスで、クーデターが……!!」
それにより、フォスターは……いや、パーラースワートロームに居た全ての共和制キルバレスの兵や諸侯は……帰るべき地を、故郷を永久に失ったことになる――。
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