第21話 エリアボスとの勝負はやはり燃える 5

 最初はまだ勝機があると俺も信じていた。そう、耐久戦を決め込んだばかりの時の俺は少なくともそう思っていたはずだ。

 しかし、今となってはそもそも耐久できるかすら危うくなっていた。

 理由は少し前にさかのぼる。

 まだ勝ち筋があることで再びやる気がみなぎり始めた俺はさっきよりも幾分かキレの増した動きでオークキングの攻撃をさばいていた。

 捌くと言っても厳密には常に一定の距離を保ちつつ、攻撃に対して素早くその範囲内から距離をとると言ったものだから回避と言った方があっているのかもしれない。

 なんにせよ、避けに徹底しまくったことにより戦況はさっきとは違うものの一種の膠着状態になっていた。

 スキルの使用時間が刻刻と減ってはいるので楽観は出来ないがまだ30分は確実にあるので問題ない。

 というか展開が早すぎて俺的にはそれなりな時間が経過していた感じだったのだが、ラミアに聞いたところまだ15分も経っていないという。

 あれからどのくらいの時間が経っているかはわからないが15分以上は経っていないという確信はあった。

 時間的にもまだ幾分か余裕があり、オークキングの動きも何となく自分の中でパターン化、出来つつあったので俺の心にも余裕というかゆとりといったものが戻り始めていた。

 その後も俺は比較的余裕を持ってオークキングの攻撃に対応していた。

 もう少しすれば攻撃へと転じることができるかもしれないという希望も湧き俺の心には再び勝機が見え始めていた。

 そこでオークキングが急に距離をとった。

 これまで続いていた攻撃はやみ、俺も一段落というところだ。

 オークキングの方もこのままでは埒が明かないと思ったのだろう。そして、戦い方を変えるために一旦、距離をとり間をとったと俺もなんとなくは予想できた。

 そのままオークキングは溜のモーションに入る。そして、そのまま剣を振り抜いた。

 剣の長さよりも間合いがあるので当然攻撃など当たるはずなどない。

 そう、普通ならなんの意味も無いものだ。しかし、今回は違った。

 ガリガリガリガリ

 振り抜かれた剣から斬撃が地面を削りながら飛んできた。 まさに、アニメなどでよくある飛ぶ斬撃である。しかも、スキルで威力倍増。

 ああいうのを見ているとカッコイイなとか思うがやられた方はたまったものでは無い。

 当然のことながら俺はそんな攻撃が来るなど予測できていなかった。しかし、溜の時にラミアから『遠距離攻撃来ます』という忠告を受け取っていたのでなんとか回避できた。

 というわけで今に至るわけである。

 漫画とかと違い斬撃に色などあるはずもなく地面の削れからしか斬撃を判断できない。一体俺はこの詰んだ状況をどう乗り切ればいいのだろうか?

『剣の軌道から予測すればいいと思います』

「いや、それ無理だから」

 見かねたラミアが対処法を示してくれたが無理だった。

 そもそも剣の動きみてから動くとかたぶん間に合わない。

『なら、相手の始動から予測すれば…』

「それも無理」

 次の案も即却下した。始動で判断とかどこぞの二刀流剣士かよ!

 そんな人知を超えたようなこと俺にはできない。ラミアが創ってくれたこの体なら出来るのかもしれないが(そう思うと少し怖い。その時の俺は果たして人なのか?いや、そもそも今の俺は人なのか?)なんにせよとりあえず今は無理だ。

『となると私が指示する感じですか?』

「え、そんなことできるの!」

 ここまでの流れからラミアに頼ってもいい案は出ないと思っていたがここに来てある程度まともな提案が出た。

『口頭ではあるので正確性にはかけますが……』

「そんなの避けられれば全然いいよ。それで頼む!」

 完璧とは確かに言いにくい案だが、敵の攻撃はまってくれない。ということでこの案に決定だ。

 適当に移動して何とか斬撃をやり過ごしながら今後の方針が決まった。

 防戦一方ではジリ貧なのだがとりあえずそこはあと。俺は今をいかにして生きるかに全力を注いだ。

 死んでも平気ではあるもののやはり人間。生に執着してしまうのである。何よりも痛いのは嫌だ!

 その後もラミアの指示の元、斬撃をかわしていった。

 そして、今は再び近接戦闘に戻っている。

 当然こちらが攻めた結果などではなく向こうがそういうスタンスへと戦い方を変えたのだ。詳しい理由はわからないが斬撃を放つのにも何かしら条件や限度かあるらしい。

 これにより勝ち目も若干見え始め戦いの最中ながら少し安堵した。

 当然、オークキングはスキル発動状態で攻撃してきているので全然安堵できるような状況ではないんだけど。

 そして、そこからは飛ぶ斬撃を混ぜたとてもめんどくさいスタイルのオークキングの猛攻を受けている。

 相変わらずの素早い戦闘なので時間はあまりかかっていない。なので、俺のスキル使用時間にはいまだ余裕がある感じだ。

 それは向こうも同じなのだがこの際そんなことはどうでもよかった。

『右側に斬撃来ます!』

「わかった」

 正確には今のようにラミアの指示で避けるのに手一杯という感じなのである。

 全然隙が見当たらない攻撃でとても長い時間が経っているかのように錯覚してしまうほど追い詰められ始めているが、ここまでで分かったこともいくつかあった。

 1つ目は飛ぶ斬撃には使用回数があるということだ。

 今は所々で放っているので分かりづらくはあるがラミアの確認も経て1度に放てるのは最大で3回程度という事が判明した。

 2つ目、これで最後なのだが飛ぶ斬撃を放つ際は必ず少しためが入るということだ。

 なので、普通の剣戟よりも平均してワンテンポ遅い。所詮は一瞬でしかないが避けるのにはとても助かっていた。

 というわけでラミアの指示を仰ぎながら何とか生き残れている状態だ。

 相変わらず不利なことに変わりはないので俺のモチベは下がる一方なのだが。でもその度に命の危機から無理やりモチベが上がるので結局は特に変化なしと言った感じである。

「生きているか?輝人君!」

 そんな時であった。しまっていたらしい扉が開いて1人の人が入ってきた。

 そう、その人こそがリーダーである。戦況をひっくり返す!という程の力はないが(そんなことを言える立場に俺はいない)戦局に何らかの変化を与えられることは確信できる。

「生きてますよ!」

 俺は攻撃を避けながらなんとか返事を返した。

 オークキングも誰かが乱入してきたことに気付いたのだろう。俺への攻撃を一旦中断し、距離をとった。

 そして、そのまま間髪入れずに飛ぶ斬撃を放った。

「危な…」

 俺は忠告を入れようとするがその前に攻撃が到達してしまった。

 なんということだろうかせっかくの切り札となるべき人物がものの数分でリタイアしてしまうとは、俺は半ば諦念していた。

「リーダー………。」

「なんだ?そんなくらい顔をして、今は戦闘の最中だぞ!」

 と、俺がリーダーの名をつぶやいた時、急にリーダーが俺の隣に現れた。

「え!生きてたんですか?」

 俺は普通に驚いた。呆気にとられた。そして、心配して損したと思った。

「まぁ、さっきのは少し危なかったがな」

 リーダーは命の危機に瀕したにしてはあっけらかんとした感じで答えた。

 おそらく、長年の戦いでそういった場面に何度か遭遇しているからなのだろう。そして、これが経験の差というやつなのだ。

 話し方によらず臨戦態勢になっているリーダーを見て俺は素直を感心した。

「なんで避けれたんだ?」

 でもさっきの場面はどうしても納得がいかなかったのでラミアに聞いてみることにした。

『確証は出来ませんけど、おそらくスキルの副次効果みたいなものだと思われます。リーダーが風のスキルを持っていたために風を読む力がついたのではないかと…。実際にそういった方たちはいますからね』

 と言うことらしい。つまりは、さっきの飛ぶ斬撃がリーダーには見えていた。ということなのだろう。

 なら、俺の場合はどうなるのだろうか?

『動体視力があがったり、脳から各部への伝達が早くなって反射神経が良くなったりとかだと思います』

「あ、ありがとう」

 ご丁寧に俺の心を読んだラミアが質問に答えてくれた。

 反射的にお礼を言ったがよくよく考えると勝手に思考を覗かれたので感謝しなくてもよかったのかもしれない。でも、ラミアにならいいかもしれない。

 そんな少し危ないことも考えつつ俺は再び気を引き締めた。

「それで、リーダー。ここからは協力して行きたいんですけど…」

「妥当だな。こちらがある程度合わせるから思いっきりやってくれ」

 ということでここからの方針が決定。そして、それは即行動へと移された。

 まずは俺が先陣を着る。スキルのおかげで数歩でオークキングへ到達、オークキング側はそれを受けてこちらへ剣を振り下ろして攻撃してくる。

 俺はそれをオークキングの背後に回って回避し、攻撃へと移る。がオークキングは続けざまに剣を横に振って攻撃。俺は攻撃を中断してしゃがむことで回避、そして、剣を振り上げて手に一撃を入れる。

 ほとんどの部分を篭手こてで防がれたがオークキングの手が弾かれる。

 そこをついて近くまで接近していたリーダーが剣で胴へと攻撃。しかし、オークキングのもう片方の手に阻まれ届かない。外腕にも防具があり、傷は付けられず吹き飛ばすのみとなった。

 どごおおん

 スキルの効果もあってか派手な音を立ててオークキングは壁に激突した。

 あまりダメージは入っていないらしい。

 俺とリーダーは追撃を与えるべく、すぐに次の行動へ移った。

 今度はリーダーが先行。そして、風のスキルを上手く使いながら素早く且つ鋭い一太刀を放つ。

 オークキングは壁に激突したばかりにも関わらず、相変わらずの跳躍力で距離をとり回避。

 リーダーはその間合いを風を使うことですぐに詰める。そして、今度は振りあえるように剣を振る。

 オークキングはそれをわざと防具の無い片腕で受けた。そして、リーダーが攻撃を終えたタイミングをついて剣を振り下ろし攻撃。

 今度は一定の間合いで攻撃の機会を計っていた俺がその間には入り、剣を使い受け止める。直後とてつもない衝撃が走るがもう片方の腕を添えて耐えきった。

 足元にはヒビが入っておりそれが一撃の重さをものがたっていた。

 リーダーの方はその隙にオークキングの背後へまわる。

 オークキングは俺への2発目を中断して体を回転させながら剣を振る。

 俺は後ろに飛んで回避し、リーダーはスキルでかなり高い所へと跳躍した。

 落ちてくるタイミングに合わせてオークキングは剣を振るうが、リーダーは空中でも風を使う事である程度の身のこなしが効くらしくそれを回避、そのまま少し離れたところに着地した。

 それと入れ替わるようにオークキングが攻撃をするタイミングで間合いを詰めるため行動していた俺はオークキングの懐へと入り防具の無い足の付け根、股関節のことろへ突きのような形で攻撃、そのまま距離をとった。

 その直後に俺がさっき居たところに剣が突き落とされる。が当然それは空振りに終わった。

「疲れますね」

 オークキングが完全に体勢を持ち直したために一旦距離をとった俺は隣にいるリーダーにそう話しかけた。

「そうだな。思ってた以上に強くて、これは少し厄介だな」

 俺の言葉に少し面倒くさそうな顔をしてリーダーは答えた。

「スキルが持てばなんとかなりそうですか?」

「もう少しで援軍もくるし、あと10から15分持てば大丈夫だろ」

 オークキングがこちらへ接近してきたために会話はそこで中断された。

 外の戦いでどれほど疲労しているかは分からないがとりあえず勝算はまだあるらしい。

 俺とリーダーは特に示し合わすことも無く左右に散った。

 俺はオークキングの右側を距離を保つようにし走りながら念じる形でラミアにスキルの残り時間を聞いた。

『あと12分程です』

 ラミアからの返事はやっぱりすぐに帰ってきた。

 なんにせよ、あまり時間が無いので短期決戦と行きたい所である。

 今度は二人同時に左右からオークキングに突撃した。

 オークキングは剣を横に大ぶりする。

 リーダーは後退して、俺は反射的に深くしゃがむことで回避する。

 俺はそのまま膝を伸ばす勢いを使い跳躍、そして、方のところを狙って剣を振る。

 その攻撃はオークキングの片腕に吹き飛ばされることで阻止された。

 リーダーに斬られたりもしているがどうやらまだ動かせるようだ。

 俺は吹き飛ばされる直前に攻撃を中断し、剣を盾にして直撃を防ぐ。しかし、衝撃はかなり来た。感触的には骨が折れるほどでは無いものも数メートル吹っ飛ばされた。

 リーダーはおれが攻撃を受けるタイミングを見計らって首を狙って剣を振る、のを途中で中断してサイドステップで横に移動するとその間に下におろしていた剣を振り上げてオークキングの右大腿部へと攻撃。

 オークキングは剣で首への攻撃を防ごうとしていたために回避が少し遅れたが剣はあいにく防具に当たった。風をまとわせていたため多少の切り傷はつけれたがあまりダメージは与えれない。

 リーダーは攻撃を一旦やめ、間合いをとった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る