第20話 エリアボスとの勝負はやはり燃える 4

 部屋の中はボス部屋と言うにしてはそこまで荘厳ではなかった。地下だから明るくはないけど白を基調として青などが彩られた清潔感のある部屋だ。

 貴族の邸宅を使い回しているので仕方が無いがもう少し雰囲気を大切にしてほしい気もする。

 でも、今回の場合だと逆にプレッシャーを和らげる形になってくれたので俺はそこら辺の事をとやかく言うのは辞めることにした。

 オークキングの方は部屋に何も置かれていないこともあってすぐに見つけられた。

 当然、向こうもこちらの存在には気づいている。その証拠にいかにもあとから運び込んだような豪華な椅子から立ち上がった。

「お前が我の敵か?」

「え?…あ、一応、そんな感じです」

 突然話しかけられた。

 俺はあまりにも急だったので敬語で返事をしてしまう。俺はいくら急だったとはいえ敵に敬語はさすがに治していくべきだろうと軽く自省した。

「オークって喋れるの?」

 自省をし終わった俺は急に話しかけられたことにも驚いてはいたがオークが話したこと自体に驚いていた。というか口調がなんかダサかった。

 おそらく オーク語とかはあるんだろうけど今まで言葉を聞いた記憶が……あるな。1回目の見回りの時に一体のオークが言葉を発していたのを俺は思い出した。

『今のは共通言語でしたけどオークキングなら他にもいくつかの言語は話せると思いますよ。それに他のオークよりも戦術も豊富だと思います』

 俺の疑問は口に出ていたらしく、ラミアからの返答があった。

 どうやら俺の印象と違いオークでも優秀なものは優秀らしい。ハイオークの方が厄介なことからもこれはなんとなく理解出来た。

 敵側についたことに関してはここでは考えないでおいた方がいいだろう。誰しも権力とかといったものの前では正常な思考力が働かないとなにかの本で読んだしね。

「何をこそこそ話しておるのだ?早く名を名乗れ小童!」

 誰と話しているかは知られなかったが何か話していることには気づかれたらしい。

 距離にして30m程あるのだが目がいいのかもしれない。

 怒り気味なのはこういう儀礼がこの世界にはあるからだろう。

「俺は輝人だ」

 なんにせよ急かされたので俺はそうそうに名乗った。

 急に先頭を開始しないあたり若干の違和感があるが仕方がない。

「輝人か。我が名はオークキング。オークを統べるものだ。剣を抜け!」

 オークキングの言葉に釣られて俺は剣を抜いた。

 剣を抜いてから戦ったり、初めに名乗ったりとまるで武士みたいなやり取りだ。こちらの世界ではこういう礼儀が重んじられているのかもしれない。

『そうですよ。でも、魔王側はそんなこと一切関係なしで襲いかかってくるので奇襲には気をつけてください』

 俺の心を読んだらしいラミアから肯定の返事があった。どうやらこういったのは今回だけらしい。

 というか俺の心読めるんですね。

 これでダイブ中、俺にプライバシーは存在しないことが判明した。まぁ、ラミアが可愛いから嫌とは思わないけど……むしろ恥ずかしい。

 そういったことも向こうには筒抜けと気づいてさらに恥ずかしさで悶えてから俺は気持ちを切り替えた。正確にはこれもご褒美と気にしないことにした。

 なんにせよ正々堂々とした勝負で助かったのは事実だ。

 俺は剣を素早く抜く練習はしていないのでいきなりこられていたら少し危なかった。

 普通はこんなことありえないのでこれからは優先して練習する必要があるだろう。

 オークキングの方は律儀に俺が剣を抜いたのを確認してこちらへと向かってきた。

 その行動から不意打ちはしないという気概が感じられた。

 俺としてはオーク相手に不意打ちしまくっていたので多少の申し訳なさはあるが数的に仕方がない。そう、仕方がないのだ。

 キィン

 子気味良い音が響いた。

 音の発端は当然俺とオークキングである。

 オークキングは少し後ろに引くと再び剣戟をあびせてきた。

 動きとしては素早く、剣筋は鋭かった。

 さすが、オークキングである。最初はスキルを発動させず様子見しようと思っていたがどうやらそうはいかないらしい。

 今なお続く攻撃を剣を使って上手くいなしていくがなかなか攻勢に転じられずにいた。

 むしろ、押され始めている。

 まともに剣をぶつければ力で押し負ける状況なので防御で手一杯だ。

 右左、上下、斜めと様々な方からこちらがいなしづらい所を狙ってオークキングは攻撃してくる。

 さすがはラスボスだ。

 このままでは埒があかないどころかこちらがダメージを受けかねない。

「コルプス・コンフィルマンダス」

 俺は仕方なくスキルを発動させた。

 それに合わせていつもどうり体から淡い光が放たれる。

 オークキングは俺の変化に警戒してか即座に距離をとった。見た感じ後ろに軽くバックステップをしたはずなのに距離は5、6m離れていた。

 力や素早さだけでなく跳躍力も上がっている。このままの流れだと耐久性なども上がっていそうだ。

 なんにせよあまり時間が無いので一旦攻撃が止んだのを利用してこちらから攻撃を仕掛けていくことにした。

 通常より数段上がった筋力によって俺はオークキングとの間合いを一気に詰める。

 そのまま横なぎに剣を振るがオークキングはこれに反応し、剣で応じた。

 スキルを使ってもなお力の差は互角、どちらかが吹き飛ばされることなく鍔迫つばぜり合いの状態になった。

 オークキングはこのままでは埒が明かないと見たのか一旦後ろへ下がり、距離をとってからまた攻撃を再開してきた。

 当然、俺には後手に回るつもりなど毛頭ないので再び攻勢に出る。

 結果、お互いの剣が何度も正面からぶつかり軽い火花を散らす。かなりの速度の中で行われるやり取りは正直、スキルがなければついていけないレベルだ。

 様々な方向からくる攻撃を受けながら、隙を見てこちらの攻撃を与える。しかし、受け止められ再び攻撃を受けるといったやり取りが続いていた。

 このままではやられることは無いが俺のスキルには制限時間がある。使用時間はいくらか長くはなったが現状では1時間が限界だ。

 オークキングとの戦闘が始まってあまり時間が経っていないと思うが、その後のことを考えて俺はオークキングから少し距離をとった。

 そして、攻め方を変えるべく再びオークキングへと向かう。

 直進的だったのを今度は左右へフェイントをかけつつ攻撃のタイミングを計っていく。

 オークキングもこちらの動きに少し釣られつつそれでも対応してくる。

 なので俺はわざと隙を見せ先に攻撃を誘う。オークキングはその手にかかり隙をついて剣を振る。

 当たりそうになりながらも何とか剣を避けきった俺はカウンターとばかりにオークキングへ一撃。あまり深くは決まらなかったが何とかダメージは与えられた。

 その後もちょくちょく隙を見せたりフェイントをかけたりして揺さぶりをかけつつダメージを確実に与えていく。

 戦況は悪くないが俺は内心で焦っていた。

 理由は簡単、さっきよりはマシになったがこのままではやはりジリ貧だからだ。

 俺のカンだがたぶんオークキングはまだ本気を出してはいない。

『リスクは高いですがここは賭けに出るべきです』

 そんな内心を見てかラミアからそんな助言があった。

「わかった」

 他に打開策もないので俺は攻撃主体で行くことにした。

 そうと決まれば早速行動だ。俺は剣を受け流すから、極力避けるへと変え防具の無い所を重点的に攻撃していく。

 持ち前のスピードを駆使しつつ、決定的な隙を見出そうと俺は必死になっていた。

 様々な方向へ回り込んではフェイントを混じえつつ攻撃、途中からは剣の軌道を少しでも読みづらくさせるために防具にも攻撃をしていく。

 オークキングも見た目に合わない素早い動きで対処していくが、速度の面では俺の方が1枚上手らしく反撃し損ねている。

 加えて所々対処が追いつかずダメージを受けている。

 大半が防具で弾かれているが俺が優勢になりつつあるのは明らかだ。

 しかし、このまま上手くいかないのが現実である。

 一旦距離を取ったオークキングから言葉が発せられる。

「イクスターム」

 次の瞬間、部屋に風が吹き荒れた。

『どうやらオークの方もスキルを発動したらしいです』

 いよいよ向こうも本気を出してきたということらしい。

「それでどういうものだ?」

 俺はすぐにスキルの情報を聞いた。敵の能力によっては戦闘スタイルを変える必要があるのでここの情報はとても重要だ。

『攻撃の破壊力を増すスキルです。斬れ味ではなく粉砕する力、衝撃が増加するものですね。しかも、最上位のものなのでほとんどの鎧は一撃で粉砕されると思います』

「まじか!」

 つまり、形勢逆転。オークキングのスキル発動によって俺は一気に劣勢に立ったということだ。

『剣は折れないと思いますけど正面からうち合えば確実に吹っ飛びます』

「まじか…」

 正直言ってキツかった。

 衝撃が増加するならスキル使用前で互角だった腕力で吹っ飛ばされるのは当たり前だし。最悪の場合、一撃で殺られる可能性もある。

 まだ伸びしろがあるとしても今は関係ない。よって俺は諦め混じりのため息をつくことになった。

 勝てない!とは言いきれないが時間を稼いでリーダー達が来るのを待つしかないだろう。

『最上位スキルを超えた固有スキルになっていないだけまだマシですよ』

 そんな俺を見兼ねたラミアが慰めの言葉をかけてくれた。でも、言葉じりから全然大丈夫でないことは伝わってきた。

 ドゴォン

 アニメみたく異世界で無双できない事を残念に思っていた俺だが、オークキングの行動で戦闘へと意識を引き戻された。

 ちなみに今のはオークキングが床を蹴ってこちらへ向かってくる音だ。

 音から想像できる通り床にはヒビが入っている。さっきまでそんなこと無かったのでスキルのせいだろう。

 オークキングは相変わらずの跳躍力で1歩で距離を詰めてくる。

 そして、剣を振り下ろして攻撃。

 俺はそれを避けるかたちで対応した。

 バゴォォン

 そんな音と共に俺がさっきまでいた場所の床が衝撃でへこんでいた。無数のヒビが入り中心から2m程は足場が悪くなっているその様子は攻撃力の高さを如実に示していた。

 オークキングは俺が回避するのを見るやいなや続けて攻撃をしてくる。

 縦、横、斜めと様々な方向から攻撃をしてくるのを俺は距離を取って回避する事に専念することで対応した。

 常に一定の距離を保ちながらひたすら避けに徹する事で、もしかしたらどうにかなるかもしれないという期待を込めつつとりあえず様子見をしたという所だ。

 が、敵の攻撃力が予想以上に高く攻勢に転じることが出来ない。

 完全に無理!とは言わないけど1歩間違えれば攻撃を受けた部位が使えなくなるという大変リスキーなものになる。

 治るとは思うが現状で片腕が使えなくなるだけでだいぶやばくなるので下手に賭けに出れない。

 俺はこれまでにないほど自分の鍛錬不足を呪った。まぁ、手を抜いてやっていた訳では無いから俺の実際、余裕という過信で死にものぐるいになってやらなかった所をを呪ったと言った方が正しいか。

 そんな事を考えつつも俺は攻撃を避けに避けていた。

 どっちにしろあんだけの時間でオークキングに匹敵する力をみにつけるのは無理(匹敵する力はラミアが作ってくれたアバターだからたぶんある)だと割り切り、今後の方針を考えることにした。

「ラミア!リーダーの方はどうなっている?」

 とりあえずは援軍が来るかどうかだ。場合によっては俺が倒さなきゃ行けなくなるかもしれない。

 そん時は主人公みたいな奇跡的な力が発現することを願おうと俺は思った。

『すぐには無理だと思いますがもう少しで来れると思います。でも、負傷者もちらほらいるようなのでリーダーのみが来るのではないかと思います』

 ところが、どうやらそんなことは考えなくてもいいということが判明した。

 正直、まだキツいだろうが俺とリーダーが組めばおそらく勝てるだろう。連携等も見回りで何回かしているからたぶん大丈夫だ。

「わかった何とかするわ」

 その返事を契機として俺の耐久戦が始まった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る