第19話 エリアボスとの勝負はやはり燃える 3

 それからも見回りを兼ねての鍛練は続いていった。

 こちらにも存在している手榴弾の威力を高めるのに色々と時間がかかるからだ。

 その間にいくつかの支部を潰しに行ったりと俺は戦い三昧ざんまいの毎日を過ごしていた。

 そのおかげで実力はどんどんと上がり、それに伴うように魔力量も上がっていった。どちらかというと退屈な周回クエストの様相をていしていたここ数日だがレベルアップが目に見えてわかるので俺は珍しく退屈していなかった。

 痛みに対する耐性もラミア指導のもと行われ今では簡単な止血方法や転がりまわらず痛みに耐えるという所まで到達した。ただ、まだ痛いことには痛いのですごい大声で叫んでいる。

 周りに迷惑をかけないために部屋に防音の魔法をラミアが施してくれているが正直それで防げている気がしない。

 なんにせよそこに関してはこれからの頑張り次第ということだ。

 そして、いよいよフランシェスから日程が伝えられた。

 ちょうどあの会議から2週間だ。日にちはそこから3日後になっている。

 これは見回りや偵察に行っていた者の回復を考慮してのことだろう。

 移動手段は徒歩でということらしい。最終的に1台だけ運用が決まった大砲に関しては台車かなにかに乗せて移動させるとの事だったが基本的には機動性を重視させていくようだ。

 何より、オークの本拠地へは歩いて20分ほどらしいので乗り物を使う必要が無い。

 というわけで3日間の休み(緊張のせいで休みといえるものにならなかったけど)をた俺たちはいよいよオークの本拠地に向けて出発することにした。ちなみに現実を含めると約1週間ほどだ。

 最近はよくこちらにログインしているから正直、俺の時間感覚がかなりあやふやになっている。

 そんな感じで俺は今、要塞の前にいる。

 集合場所が外になった理由は1箇所だけの扉を開ける時間を極力少なくしたいという理由からだ。

 なので、俺たちは数人に別れて俺が今まで全く気づかなかった隠し通路を使ってそれぞれの場所から外に出るということになった。

 要塞なのでどこかにあるだろうと予測できそうなものだが、あまりに巧妙に隠されていたので俺はてっきり無いものだと思ってしまっていたのだ。

「みんな、これから本拠地への攻撃を開始する訳だが当然、負傷者、最悪の場合、死者が出る可能性がある。基本的にすぐに治療を開始するつもりでいるが万が一もある。

 各自それぞれ覚悟を決めておくように」

 広場に全員が集まったところでリーダーからの一言があった。

 それにより場の雰囲気が引き締まっていく。

 俺は命の危険は特にないのだがその場につられるように気を引き締めた。さすがリーダーである。

「敵地までは騎士たちを前後に配置しオークに見つかり次第、そいつらを倒していく方針で行く」

 というわけで真ん中に支援の人達で前後に騎士という隊列が整えられた。横からの攻撃に無防備ではないか?と疑問に思う人もいるだろうが今回は人数が少ないから平気なのである。

 俺は機動力があるということから前の方に配置され、リーダーは後方へと回った。

 準備が完了したので俺たちはいよいよ出発した。


 道のりは今の所いたって順調だ。

 途中、何度かオークに遭遇したが数が少なかったのですぐに片付いた。

 よってここまで特に歩みを止めることも無く来れている。

 本拠地まではあと少しだろう。最初は全くわからなかったがココ最近の見回りで道も覚えたのでそれぐらいは分かるようになった。

 そして、敵本拠地となる館が見えてきた。

 本拠地とあって今まで近づかなかったので(さすがに敵の本陣の近くをうろつくのは馬鹿だろう)初めて見る訳だが、とても大きかった。

 元が貴族の家ということもあるが豪邸と言っても差し支えない大きさだ。

 また、目立った破壊のあともなく普通にきれいな状態が保たれていた。

 これから壊すのだと思うと少しもったいない気もするがまぁ、仕方がない。俺はそこら辺を割り切っていくことにした。

 そもそも俺の家じゃないしね。

 賠償とかといった問題も発生しないし思いっ切りやっちゃおう。

『オークが優先ですよ』

 開き直るつもりがついうっかり行きすぎてしまったようでラミアからたしなめられた。

 子供が砂場にある力作りきさくを思いっ切り壊すような感覚におちいっていたので結構助かった。

 気を取り直して俺は気を引き締めた。

 出発する際にリーダーの言葉で気が引き締まったはずなのだが敵本拠地までは距離があったせいで緩んできてしまったようだ。

 ここからはそんなことは無いと思うが念の為、常に気を張るよう意識していくことにした。

 その後、ある程度の距離まで近づいたので後方支援の人達が攻撃の準備を始めた。

 一方の俺たち突撃組(今、俺が名前をつけた)はすぐに舘内へ侵入できるよう爆発の被害を受けないギリギリのところまで進んでいた。だいたい館から10メートルほどだ。

 大砲とか手榴弾なのでもう少し近づけるかもしれないが念の為という事である。

 ちなみに後方には騎士が1人残っている。

 少ないと思うかもしれないが、これにフランシェスが防御結界を張り、加えて設置型の事前に魔力を貯めておく事で誰でも使える防御結界を張る魔道具がいくつか、さらに後方支援の中には体術をこころえている偵察の方々と本命の作戦に使う手榴弾等々がある。

 完璧とは言えないがそれなりの防衛力はあると思われるので問題は無いだろう…とラミアが言っていた。

 別にラミアの発言だから!という訳ではなく、髪のお墨付きがあるよ!ということが言いたいだけだ。

 ホントだよ?ほんとにそれだけだから!

 どごおおおぉん

 俺たちが定位置についてすぐ、攻撃が始まった。

 いまいち引き締まめきれていない気持ちもこれによって完全に切り替えられた。

 敵本拠地には最初に砲弾が1発来て、それを契機に多数の手榴弾が投げ込まれていた。

 そこへ補填ほてんが完了した大砲が再び砲弾を放つということが繰り返された。

 正味5分この攻撃が繰り返されたのち、今度は俺たちの出番となった。

 壁の方はさすがにすぐ壊れるほどもろくはなかったがこちらの連続攻撃によって崩壊した。

 壁どころか屋根も崩れ落ちているので外とさして変わりない。

 俺たちは大広間に足を踏み入れたがオークの姿は見えなかった。どうやら避難したらしい。

 中には逃げ遅れて瓦礫の下敷きになっている奴もいるが下に降りる階段が見つかったので大半は地下に逃げ込んだことがわかった

 という事で地下へ向かうことになった。

 階段はあまり広くなく1列になっておりていく。すると少し広い空間に出た。

 この場所にも僅かではあるが瓦礫がある。そのためかオーク達はいなかった。

 俺たちは奇襲を警戒しつつも進み、やがて大きな扉の前まで来た。たぶん、広い空間へ繋がっているのだろう。それと共にオーク達もそこに居る可能性が高い。

 全戦力ではないが攻撃を受けたことで向こうも警戒しているはずだ。

 つまり、作戦は成功したとは言い難いということだ。確かに数は減ったが不意打ちで数を減らせなかった。

 完全にこちらの情報不足であった。

「全員止まれ。俺の予測だがたぶん、この先にオークがいる。よって手持ちの手榴弾で扉を破壊する!」

 ここでリーダーからのこの先の作戦が伝えられた。

 意外と派手な作戦だがよく考えると最小限の犠牲で済む気がした。

「ラミア、向こうにオークどのくらいいる?」

 ここへ来てラミアなら向こうの様子がわかると気づいたので早速聞いてみた。

『ざっと3分の2程ですかね。全員では無いと思いますがほとんどのオークがここに集結していると思われます』

 どうやら向こうも広間でかたをつけるつもりでいるらしい。

 つまりは爆破する作戦は結構、効果的ということだ。さすがはリーダー。もしかしたら透視能力でも持っているのかもしれない。というか、普通にそういった能力を持っていそうだ。

「みんな、それでは投げろ!」

 そんなことを考えていたらリーダーからの掛け声とともにいっせいに手榴弾が投げられた。

 俺も遅れずに投げる。

 みんな手榴弾は2個しか持っていないので使ったのは1発のみだが10人が投げれば10発となる。ちなみに残りの1発はオークたちに使っていく作戦だ。

 当然威力は高く、扉が壊れるのはもちろん周囲の壁にもヒビが入った。

 手榴弾の威力が高いのか、沢山投げたからかはわからないがとにかく扉の破壊には成功した。

『たぶん、両方の要因があると思いますよ』

 という事で、訂正。

 手榴弾の威力の高さと数の多さにより扉が破壊された。

 扉の向こうにはラミアの情報通りオークたちがいた。

 向こうは扉が爆破によって急に壊されて騒然としているらしい。と、すぐに現状復帰したハイオークの号令によりこちらへ突撃してきた。

 かなりの数だ俺達には少し武が悪いように感じた。

「総員、投げぇぇ!」

 こちらへ向かってくるオークに向かってリーダーの掛け声とともに俺たちは残り1つとなった手榴弾を投げた。

 手榴弾は敵陣で爆破をし、それと共にオークの悲鳴?らしき声が聞こえてくる。

 それでもまだまだ数は残っているので俺たちは投げ終わり次第、剣を抜き、オークへと立ち向かっていく。

 リーダーや俺はオークキングを見据えてスキルは発動していないが残りはスキルを発動させ、素早くオークを倒していく。

 敵の数は減ったもののほとんどのハイオークはまだ残っているので戦況はすぐに膠着こうちゃく状態になった。

 各人、奮闘しているものの数の差によってオークを倒しきれずにいる。

『このままだと消耗戦になりますよ』

 ここでラミアからの忠告があった。このままでは押し負けるぞという事を伝えたのだろう。

 確かに消耗戦になればこちらが不利になるのは明らかだ。

 しかし、俺やリーダーも部屋を探しつつオークを倒しているのでなかなか手が回らない。俺達の方は少しだけスキルを発動させたりして複数を1度に相手にしないようにしているがそれでもハイオークには少し手間どるのでいつ、複数を1度に相手にすることになってもおかしくなかった。

「輝人くん、このまま少々まずい。なので私は各人の援護にまわる事にする。君はボスの部屋を探して、見つけ次第そちらの討伐を頼む」

 リーダーも同じ判断をしたらしい。

「分かりました」

 状況が状況なので俺は二つ返事で引き受けた。

 待てよ。でも、これって俺がラスボスを倒さなければならないということなのでは?

 確かに期待されている証だし、信頼度が上がっていることを示すものでもあるし、いかにも主人公というシチュエーションなのだが。

 正直、プレッシャーが半端なかった。その内訳はみんなの期待とミスると人間が絶滅しかねないというのがそれぞれ50%ずつだ。

 どう考えても現在進行形で引きこもりなやつが背負う重さではない。

 そう考えると世界を救う系の作品の主人公はとてつもないメンタルを持っているのだなぁと実感した。

 まじで尊敬できるレベルだ。一体どんな日々を送れば国の存亡とか種の存亡とかを背負ってなお飄々ひょうひょうとしていられるのだろう?

 異世界を助けるためにこの場にいる俺も確かに緊張感ゼロで生活していたがそれはあまり実感していないからだ。

 実際、そこまで重大な役割を任されてもいなかったので実感出来る機会がなかったのもある。

 ここまで考えて、俺はもう仕方がないと考えて割り切った。むしろ、どうとでもなれと開き直った。

『輝人さんならきっと出来ますよ』

 俺の様子を見かねたラミアからの応援という名のプレッシャーを受けとり、俺は部屋探しを再開することにした。

 まだまだオークは残っていて俺は手当り次第、倒しながらあちこち移動していた。

 鍛錬の成果もあってただのオークならスキルなしでも余裕で倒せるようになっているがなかなか部屋が見つからなかった。

 ボスならこういう時こそ先頭に立って軍を率いるぐらいの勇ましさを見せてもらいたいものだがこちらの世界では違うのだろう。

 その時、俺の視界にそれらしい扉が入った。

 場所は適当に動いていたからわからないが広間を通り抜けてそれなりの距離があると思う。

「どうだ?」

『一体、異質なオークの気配があります。どうやら周りにオークを蔓延はびこるらせていないようですね』

 どうやらボス部屋の前に来たようだ。

 それにしても部下がいないとはそれだけ防衛に戦力をさいているということだろうか?

「サポート頼む」

『はい!』

 なんにせよここでグズグズはしていられない。

 ラミアに情報面でのサポートをお願いして、1人で倒せるかという不安を抱えつつも俺はボス部屋へと続く扉に手をかけた。

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