第17話 エリアのボスとの勝負はやはり燃える 1

 ザザーン、ザザーン

 初めて身体強化を使用してハイオークを倒してから数日がすぎた今日。俺は海辺にいた。

 その後も毎日のようにオークと戦い身体強化での戦闘にも慣れてきた。そのタイミングでの海である。

 なぜ基本、家で引きこもっている俺が海なんて人混みにいるかだって?

 理由は簡単。これが我が家の夏のイベントだからだ。いや、それは正しくないな。正確にはこれが我が家と松本家の夏のイベントだからだ。かれこれ10数年このイベントは続いている。

 それと、一応人が多いところを避けた場所つまり、比較的端の方をとったので人混みに当てられることは無い。

 というわけで俺は笑美と一緒に海に来て、今は笑美が着替えているのを浜辺に座って待っているのだ。

 ちなみに親達は少し離れたところにパラソルを立てて日光浴とおしゃべりを楽しんでいる。俺的には泳がないなら海にまで来る意味ない気もするんだけど。

 そんな恒例行事はもちろん今年も例外ではなく車で2、3時間ほどのところへ連れてこられた。

 一昨年とか受験の時だと勉強から解放されるので嬉しいのだが現状では少しめんどくさい。

 そんな都合の良すぎることを考えていると俺の方へ近づいてくる人がいた。やはり人間とは虫のいい生き物である。

「おっ待たせ!どう?似合ってる??」

 そんなことを言いながら俺に近づいてきたのは笑美だった。

 笑美はくるりと一回転して水着を見せてからお決まりの文言もんごんを聞いていた。

 海にはいるからかメガネは外している。普段は常につけているからかなんかとても新鮮だ。

「ああ、似合ってるよ」

 俺は特に感想を持つ訳ではなく普通の感想を述べた。

 笑美はスタイルはいい方だし、平たくもないけど小さい頃からずっと一緒だからか特に思うことは無い。

 異性の幼馴染がいたらなぁ。とかほざいている奴がたまにいるが実際いたところであんなアニメみたいなことにはならない。そう、それほど世の中は甘くはないのだ。

「棒読みだよ、それ」

 だが、俺の受け答えは笑美の求めんとするものではなかったようでムムっとした顔でそう言ってきた。

「彼女できた時そんなんじゃダメだよ!」

「いや、俺に彼女なんてできないだろ。自分で言うのもなんだが引きこもりだぞ!」

 笑美のお説教がはじまりそうだったので俺は自虐を混じえて回避を試みた。

 だって、面倒みのいい笑美のお説教って長いんだもん。最近怒られてないけど中学の時点では長かった。

「まぁ、輝人だもんね」

 俺の回避は成功しなかったが(これを使えば基本相手は憐れむなり、引くなりのことをして有耶無耶うやむやになる)そこまで怒られなかった。

 もう、一周まわって諦められてしまったのだろう。まぁ、そっちの方がありがたいけど。

「とりあえず泳がない?」

「えぇー、疲れるじゃん」

 陸上を歩くことさえつかれるのだ。海へ入ろうものならその疲れは軽く俺の限界を超えてしまうだろう。

 俺の体力をあなどることなかれ!

「いいから、いいから」

 結構本気でこの場を動く気はなかったが笑美がしつこく俺の腕を引っ張るので仕方なく泳ぐことにした。

「で、どうするんだ?」

「もちろん、浮き輪で水面をぷかぷか漂うんだよ」

 どうやら俺が思っているよりは大変ではなさそうだ。プールでも出来そうだなとか感じながらも少し安心した俺は重い腰を上げた。



 気づけばお昼時になっていた。

 俺は今、砂浜に敷いたレジャーシートに横になっている。

 横で笑美も座って休憩しているが俺ほど疲労している気配はない。

 何故こうなっているかと言うと浮き輪で漂うつもりが笑美の気が変わったのかめっちゃ泳がされたからである。

 見た目に反して意外とアクティブな笑美なのであった。学校では大人しいんだけどなぁ。

 結果、暇になったらしい笑美が「泳ごうよ!」と言い出したのをきっかけに結局1時間ほど泳ぎっぱなしだった。

 泳ぎは下手ではないので溺れ《おぼ》はしないけど体力はないのでこのザマである。

 これを機に俺は運動するべきなのかもしれない。まぁ、やんないけど。

 少しして親が昼ごはんのお金を渡してくれた。

 ずっと見ていたわけではないけど俺と笑美の両親はずっと話していたと思う。昔は4人仲良しだったとかいう話を聞いたことがあるからその時のことを思い返して話に花を咲かせているんだろう。あとは世間話とかか。

 なんにしても海まで来てすることではないと思うのでこのイベントの必要性はないと思います。

 そんなことを言っていても今更遅いのでとりあえずお昼ご飯を買いに海の家のある方へ来た。

「うぉっ、やっぱ人多いな」

「だね。とっとと買って戻ろうか」

 海の家の周辺ということもあり人が多かった。いや、別に江ノ島とかそれほどの人混みではないんだけどね。

「どれにする?」

「とりあえず並ばずにお腹にたまるものだな」

 それでも並ぶのはゴメンだ。行列が行列をよぶとか言うけど俺にはその行動原理がわからない。

 早く買えれば商品は二の次というのが俺だ。

「とりあえず焼きそばだね」

「それしかないか」

 結局、他のものでお腹にたまりそうなものはなかったので1番混んでいないちょっと高めの焼きそばの列に並んだ。

 そのため多少料金は上乗せ《うわのせ》されるが親から渡された金額には収まるから問題ないだろう。余らせたところで水着では隠し持てるところないしな。

 「ところでなんだがなぜ海やら縁日やらでは焼きそばが売られているんだろう?」

「あ、確かに言われてみればそうだね」

 俺は心の中でつぶやいたつもりだったのだがどうやら声になっていたようだ。

 これからはそういうのをなくすよう心がけよう。

「輝人はなんでだと思う?」

 俺がそう思っている間も笑美は理由を考えていたようだがどうにも浮かばなかったらしく俺に意見を聞いてきた。

「わからん」

「うーん、そうかぁ…」

 俺は比較的素っ気ない返事をしたが笑美は特に気にする素振りもなくそのまま長考に入ったようだ。

 そのまま考えにふけることしばし、ついになにか思いついたのか笑美はさもひらめいたというような顔をした。

「たぶん食べやすいし、作りやすいからだよ!」

「確かにそれはあるかもな。でも、それっておにぎりで良くないか?」

「え、あ、そっかぁ。確かにそれでもいい気がする」

 俺が素直に抱いた疑問を言うと笑美はまた考えはじめた。

 それから少したって俺たちの順番が回ってきたので俺と笑美は焼きぞばをふたつ頼んだ。

 結局、疑問の答えは出てこなかったがとりあえずこの話題はここまでだ。

 それでも気になる人はネットで調べましょう。




 自分たちの場所へ戻ってきた俺達はお腹もいい具合にすいていたので直ぐにお昼にすることにした。

 ちなみにあの後、笑美の強い要望でたこ焼きも買った。

「「いただきます」」

 俺達はそう言ってから焼きそばに手をつけた。

 焼きそばはちょっとしょっぱめだったが疲れきった俺にとってはとても美味しく感じられた。

「美味しいね」

 笑美も美味しいと感じているようでこっちはどうかな?とか言いながらたこ焼きにも手を伸ばしていた。

 手軽に食べれるものでもあったのでお昼は直ぐに食べ終わった。

 一応、日帰りなので夕方には帰る支度を始めるのだがまだ時間がある。

 何をするかなかなか決まらなかったが(主に俺の体力が尽きかけていることが原因で)最終的に砂遊びをするというところに落ち着いた。

「で、何作る?」

「お城とか?」

 これなら午後は結構楽に過ごせると思ったのだがどうやらそうもいかなそうだ。

「時間もあるし結構凝ったやつが作れると思うよ?」

 俺的には貝殻とかで適当に終わらせるつもりだったんだが笑美はかなりやる気のようだ。

 そう言えば笑美は美術の成績が良かったんだっけ?

「それで、日本風にする?西洋風にする?」

 そんなことを考えている間にもうお城を作ることは決定してしまったらしい。

「日本風でいいんじゃないか?」

 諦めて俺はお城作りに励むことにした。

 とは言ったが当然笑美を中心として作るので俺の負担はあまりない。逆にそれはそれでつまらないけど仕方が無いだろう。

 そんなわけで現在、俺は砂集めの仕事に励んでいた。

 お城もいきなり作れるわけじゃない。まずは必要な大きさまで水を使って砂を固めていくことをしなければならないのだ。

 笑美はいつの間に用意したのか霧吹きを使って俺の集めた砂をせっせと固めていた。どうやら本気でやるらしい。

 一方の俺は1箇所から集める訳にも行かないので色んなところから少しずつ砂を集めてせっせと運んでいた。

 気分は働きアリである。

 そんな作業をすること数十分。ようやく目標の大きさに到達した。

「いよいよ作業開始だね」

 やっと作業を始めれるからか笑美は楽しそうだ。

「で、俺は何をすればいいんだ?」

 一方、砂遊びをすることに関して異論はないがそこまでこだわる気がない俺は少しめんどくさいと感じていた。

「そうだなぁ、日本風だから石垣でも作ってもらおうかな。どこまで石垣にするかは私がしるしつけとくから」

「分かった」

 というわけでめでたく石垣制作の任を与えられた俺は笑美の邪魔にならない位置に移動、早速作業に入ることにした。

 作業としてはそもそもはじめから砂で何か作るのを予定していたと思われる笑美が持ってきた道具の中で先端が細いヤツを使って浅く線を入れていくだけだ。

 形がおかしくなると変に見えるので簡単では無いけど屋根とかに比べればそこまで大変なものでは無い。

 むしろ退屈になりそうな作業と言って問題ないだろう。

 それでも、何故か俺は黙々と作業をして行った。

 まぁ、昔お城が好きでよく書いていたから立体になってもやりやすいって言うのがたぶん主な原因だ。まぁ、石垣だから実際ほぼ平面なんだけどね。

 随分と久しぶりにお城を書くので石の形が多少いびつになっているけれど問題ないだろう。普通の人よりはうまいはずだ。

 その後も作業を進め半分ほど終えたところで笑美の方を見る。

 笑美はむぅーとうなりながら1番上にあるシャチホコみたいなものと格闘していた。

 他のところを見てみると大まかな形はつけられているので今は細かいところを詰めているんだろう。

 俺が見ていることには全くもって気づいていないようなのでかなりのめり込んでいるらしい。経験則けいけんそくから行くとこういう場合は笑美が納得いくまでねばるからかなり時間がかかる。

 笑美は普段は周りをよく見ているが工作や絵画の時だけは昔から自分の世界に入ってしまう。最近は部活もあってなかなかこういう事が出来てなかっただろうから余計にだろう。

 それからも作業は順調に進み俺の手がけた石垣は完成した。

 実物だとここにこけとかあるから完璧ではないが今回は砂なので出来なかった。

 海藻とかで代用できそうなものだが周りにそういった物がなかったので諦めた。

 空を見ると日が少し傾いてきていて、もう少ししたら帰りの支度をしなければならないだろう。

 そんなことを考えながら両親たちのいる方を見るとようやく海に入っていた。

 主に浮き輪やイカダみたいなものに乗っ ているだけだが海には入っていた。

 そして、もちろんそこでもおしゃべりをしている。そんなに話しても話題が尽きないなんてある意味すごいと思う。いや、もしかしたらそれが案外当たり前なのかもしれない。

 でもやっぱり、砂遊びなかったら全部近くのレジャー施設のプールで出来る気がする。まぁ、とんでもなく混んでいるから俺は絶対に行かないけど。

 一方の笑美の方はいまだ格闘中だ。格闘の相手は屋根のかわらへと変わっていた。

 お城の方は笑美が頑張ったかいもあってもうまもなく完成といったところだ。今やっている屋根の瓦が終われば笑美の納得がいけば終了となる。

 俺から見るととてもよく出来ていてもう十分だと感じるが笑美には何かしらの違和感がある時があるからそれに関してはないも言えない。

「こんな感じかな」

 そう言って笑美は軽く伸びをした。

「これで完成か?」

「まぁ、一応はね。まだ、気になる所に修正加えてないけど」

 俺から見るともう完成と言ってもいい出来だがどうやら笑美には気になるところがあるらしい。

「じゃあ、もう少しだな」

 そう言って俺は立ち上がった。

 特にやることもないので散歩でもしようかなと思っている。

「うん」

 笑美はそれを何となく理解したようで返事をするとまた作業を始めた。

 俺は人が多い方とは逆の方に歩いていた。

 直ぐにテトラポットで道をふさがれているのでそこまで距離はないけどふらっと行く分にはいい距離だ。

 俺はそう考えながら海辺を歩いていく。

 寄せては返す波を見ているといつの間にか折り返し地点についていた。

 意外に短かったように感じるが元の場所に戻るために回れ右をしても笑美達の姿は見えないからそうではないと分かった。

 ふと今日一日を振り返ると今と同じように感じられた。

 もうそろそろ帰る時間になるのだが俺はさして退屈していない。

 もしかしたら俺は案外楽しく過ごしたのかもしれない。

 これがきっかけになることは無いがこれが笑美の頑張りの成果だろう。

 なので今日一日のお出かけに対する文句は水に流すことにした。俺何様だよ!











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