第12話 武器の作製は何かとワクワクする 1
翌日、カップ麺(醤油)と作り置きされたサラダ(こちらはごまドレッシング)で適当にお昼を済ませた俺は自分の部屋へ向かおうとしていた。
ちなみに昨夜は結局30分ほど遅れて席に着いた。
長い間お説教されると思っていたが意外にもそうはならなかった。ただ、「遅いわよ。どうせゲームしてて遅れたんでしょ?こんな事がこの先何回かあるようならゲーム捨てるわよ」と言われて終わりだった。
中学以降あまり怒られていなかったから認識に
テンションはダダ下がりだ。
そこで終わればまだ
ただの沈黙なら基本無言で食べることに集中する我が家にはいつもの事なのだが不機嫌なオーラのせいで雰囲気が悪くなり気まずかった。
原因は俺にあるので仕方がないが父親からしてみれば飛んだとばっちりだろう(我が家は父親が優しく、母親が厳しい)。実際、少しビクビクしていたから申し訳ないと思う。
寝たことで今はほとんど引きづっていないがこれからは気を付けていくつもりでいる。
昨日のことを振り返りながら階段を登っていると玄関のチャイムが鳴った。
夏休みは父親はもちろん母親もパートの仕事で日中はいないので基本こういうのには俺が対応している。
登りかけた階段をUターンし俺は玄関へ向かう。
「どちら様ですか?」
「見たらわかるでしょ?」
ドアを開けた向こうには長くて黒い髪に青い額縁の眼鏡をかけたよく見知った顔があった。
彼女は俺の数少ない知り合いというか幼馴染の
そして、俺が唯一、下の名前で呼べる女子である。まぁ、そんなふうに見た事はないんだけどな。
笑美は何かと面倒見がよく普段はもとより夏休みなどといった俺が引きこもりがちな時にはよくうちに来る。そして、俺の部屋を軽く掃除したり、俺を外に連れ出したりしている。宿題を見てもくれる。
この時点で俺が将来、笑美に頭が上がらないのは目に見えている。
この事あってか母親と仲が良く「笑美ちゃんが面倒見てくれれば輝人も安心なんだけどねぇ」なんてことをよく言っている。
その度に笑美は上手く対応していた。昔からだがその性格のおかげで近所受けのよかった笑美はそういった世渡りに慣れている節があるのだ。
幼馴染と恋に落ちる作品は幾つかあるがそんなのは
笑美は比較的可愛いのかもしれないがドキドキとかは特にない。何かと面倒を見てくれるから姉弟?みたいな感じだ。
「ちゃんと外に出てる?」
「たまにはな」
「2日に1回は出ないとダメだよ?」
どうやら今日も俺の様子を確認しに来たらしい。相変わらずの面倒みの良さである。
「分かった。ところで今日は部活ないのか?」
大人しそうな見た目の笑美はその見た目通り手芸部に所属している。
それに加え料理も得意なので高2にしてはよくできていると思う。家事を覚えればすぐにでも一人暮らしも可能だろう。
「うん。明日はあるけど午後からだから行きによってくね」
「わかった覚えとく」
一連の会話をしている間に俺の部屋に来た。今日は部活がないから俺の部屋が綺麗か見に来たのだろう。
部活の帰りか休みの時は何かと笑美はうちを尋ねては俺の部屋に来る。そして、身の回りの事をやって俺を外に引っ張り出して俺の部屋でゆっくりして帰る。
もはや、これは習慣となりつつあった。つまり、俺はだんだんとヒモになりつつあるということでもあると思う。
まぁ、俺はやる時はやるからそうはならない……はずだ。
今日もいつも通り部屋に入ってきた笑美はさっそく俺の部屋を軽く整理し始めた。
普段は週2、長期休みなら週3か4ぐらいのペースで来るのだがここ最近は部活が忙しいのか笑美が来るのは一週間ぶりだ。
高校生にもなってこんな
俺は掃除や整理が得意ではないがそれなりしているので散らかってはいない。だが、掃除上手の笑美が行うとどういう訳か印象が変わりとても清潔感が感じられる。これはもう一周まわって才能と言えるだろう。これを
最悪無理だとしても兼業や内職といった感じでなら十分いけると思う。
そんなことを考えている間も着々と掃除は進んでいる。
この間ダイブしても笑美だから問題無いのだが、この後には散歩が待ち構え万が一、電源をいきなり切られたらと思うとかなりリスキーなので辞めておくことにした。
心と体がバラバラになったらやだし、というかそもそもそれでは生きて行けないかもしれない。
かと言ってやることも特に無いので俺は本を読んで待つことにした。
ちなみに読む本はラノベではない。ラノベも読むが現在は日本文学を中心に読んでいる。
もちろん、外国文学や
学校は喋る相手もおらず基本暇なので好きになってもあまりおかしくはないだろう。
他に学校ですることは人間観察とかぐらいだ。それもこの人、今日もこの人と話してるなぁぐらいの適当なものでしかない。
まぁ、それでもクラス内のカーストぐらいは分かってしまうのだが…。
そんなこんなで本を読み進めていると笑美の掃除が終わった。
「ふぅ…こんなものかな?」
相変わらず部屋は見違えるように綺麗になった。
同じ掃除でも何故ここまで印象に違いが出るのか知りたいものだが、知ったところでそこまでこだわって掃除しないからやっぱいいや。
「いつもありがとな」
「いいよ。私の好きでやってるんだから」
一応お礼を言う。
なんにしても部屋を綺麗にしてもらっているのだからお礼を言わないのは
それに対して笑美もいつもと変わらない返事をした。
「それじゃあお散歩に行くよ!」
少しゆっくりすると笑美はそう言って立ち上がった。
暑い日に外に出るのは(寒い日もだが)あまり好きではない。むしろなぜ外に出なければいけないのかわからないが前にそんな事を笑美に言ったらたっぷり時間をかけて論破されてしまったので俺はそれから大人しく付き従っている。
論破されても嫌なのは理屈では納得しても感情が納得しないからだ。人間はだいたいそんなものである。
そして、よく考えると今の俺は散歩に連れてかれる犬とリードが無いだけであまり変わらい気がする。
こうなるとただ犬が嫌がっていると言った方が正しいのかもしれない。行きたくないワン!
だんだん思考が自虐的になってきた所でモワッとした空気がその思考を断ち切った。
外は天気予報で言っていた通り猛暑でとても暑い。しかも、今はお昼すぎなので
これがいわゆるピーカンと言うやつだ。この前興味本意で語源をを調べたが太陽がピーンと届いてカンカン照りとでてきた。正直意味がわからない。
いや、まだカンカン照りは分かるよ。でも、ピーンと届くって何?太陽はどっちかと言うとジリジリとかだと思う。
「暑いね〜」
笑美はそんな事を言いながらも軽快な足取りで道を歩いていく。
こうやって見ると本当は暑いなんて思ってないように感じてしまう。
「ああ、溶けそう」
そう言いながら歩く俺の足取りは重たく引きずるようなものだった。
俺の方はそう言いながらしっかりとだれているので行動と言葉が一致しているはずだ。
その後、正確には測っていないが3キロほど歩いたと思う。
それなりな距離に夏の暑さも相まって俺は行きよりもより生気がなくなっていた。
この経験から俺は日本を始め世界の国々が早急に温暖化対策に取り組むべきだと確信しました。これ以上暑すくるな!
「疲れたね」
笑美の方はそんな事を言いながらも未だ軽い足取りで俺の家へ入っていく。
軽く汗ばんではいたがまだ体力に余裕はありそうだった。
笑美も文化部のはずなのだがこの差は一体なんなんだろうか?そんなことを思いながらも俺は笑美の後に続いて家へ入っていく。
家の中は外よりかはいくらか涼しかった。
それでも俺は直ぐにエアコンを入れた。だって暑いんだもん。主にこのジトっとした感じが嫌だ。
どれぐらいかと言うとヌメっとした物体を触った時ぐらい嫌だ。
「そう言う割には元気そうだな」
「まあね。これでも一応ランニングぐらいはしているから…」
「ああ…」
一応聞いてみるとどうやらこの差は努力の差だったらしい。確かに健康志向の笑美のことだ。昼間ではないにしても早朝か夜に運動をしていても何らおかしくない。
むしろ、その光景を容易に想像できてしまう。
それはさておきさすがに喉が
「飲み物は麦茶でいいか?」
「それ以外ないでしょ?」
「一応、水はある。浄水だから不味くはないと思う…違いわかんないけど」
水ソムリエとかいるが本当に違いがあるのか疑ってしまう。美味さとかという概念がそもそもない気がする。
「なら私麦茶で」
そう言って笑美の方はリビングのソファに座った。そして、あらかじめ持ってきていたと思われるタオルで汗を拭いていた。
何回も来ているからかもう自分の家と変わらない
コップを取り出して俺は麦茶を注ぎ、それをソファの前のテーブルに置いた。
「ありがと」
そう言って笑美は麦茶を一気に飲み干した。俺もそれを見てから麦茶を口元に運ぶ。
うん、美味しい。暑い日で運動後の時の冷たい飲み物はマッチポンプ効果でより美味しく感じられる。
「ココ最近来れてなかったけど宿題順調に進んでる?」
「まぁ、それなりにな」
一段落するやいなや笑美はそんなことを聞いてきた。
面倒見が良い笑美がそんな事を聞かないはずがないのだがそれでも
「私がいる間以外もやんないと終わんないよ?ただでさえうちの学校、進学校で宿題多いんだから」
笑美は俺の答えをそこまで進んでいないとちゃんととらえた。そこら辺の意思疎通は長年の付き合いのせいか普通に通じる。
一応言うが常にゲーム三昧の俺は何も知らない人から見たら頭が悪そうに見えるかもしれない。でも、そうではない。実際今は学年で下の方だが(笑美は昔から頭がいいので上の方、詳しく言うと一学年300人中30位ぐらい)受験の時は生まれて初めてゲームを禁止してというかされて偏差値60ほどのところに進学したのだ。
つまり、バカではない。やれば出来るのだ。きっと…
でも、少し頭がいい高校に進学したせいで勉強が辛い。休み時間と親にゲームを取られるテスト週間(ゲーム時間が管理できない俺は、はたから見たらさしずめ小学生と言ったところだろう)に笑美に家庭教師についてもらいながらでなんとか持っているという感じだ。
今さらだが、改めて思い返すと笑美の面倒見の良さに思いっきり頼っていると思う。テスト週間に勉強教えてもらうなんてする側からしたらかなり大変だろう。
ちなみに文系教科は基本平均点もしくはそれ以上の点がのるのだが数学や化学が致命的だ。
なので進路は文系を希望する。文系を選択したところでセンター試験があるから数学もやんなきゃ行けないんだけどね。
結局はある程度向き合わなければならないのだ!
それはさておき、夏休みの宿題はそれなりにやっている。ただ、出される量がおかしいだけだ。特に数学とか答え写してもまる2日ぐらいかかる。あれはおかしいと思う。
なので数学は後回しだ。
「現代文と古典、美術とかは終わってるから」
「それならまだいいんだけど数学と英語は結構時間がかかるよ?発展問題多いし」
「英語はともかくとして数学は答え写すからいいよ」
頭のいい笑美でさえ時間がかかると言っているのだ。俺には一生終わらない。
英語なら多分行けると思う。まぁ、答えを写すことになるんだろうけど。
「基礎ぐらいはちゃんとやりなよ?」
自分がやっていてかつ俺の数学の出来さなを理解しているので笑美はその程度の小言で許してくれた。
その裁量に感謝して少しぐらいなら基礎をちゃんとやろうと思えた。少しだけね。
「また明日来るからそん時やろ。午前中暇だし」
「分かった」
一瞬、異世界のことも考えたが何かと世話をかけている幼馴染の気遣いを優先させることにした。
ごめんね。神様たち!
でも、この約束って笑美にまた新たに世話をかけるものなんだけどな。
とりあえずそこら辺は不問ということにしておこう。
そのあと少しして笑美は帰って行った。
少しお節介なところもあるが笑美が話しかけてくれないと俺は多分この夏休みほぼ喋らないと思うので助かっている。
ボッチになって分かったことだが人間には家族でもいいから1人でも話せる人がいないと精神的に
そういう意味ではあまり笑美の気持ちを
とりあえず、誰もいなくなったので俺は異世界へダイブする事にした。時計は午後3時を回ったぐらいだ。
昨日の教訓を踏まえてもあと1時間半はできるだろう。つまり、向こうでの4時間半。
そんなことを考えながら俺は自分の部屋に向かいゲームの電源を入れた。
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