第11話 周回クエストはめんどい 3

 周りは一面真っ暗だった。

 死んだのか?俺はまずそう思った。

 そして、意外とあっけないものだなとか意外と痛みがないものだなと感じていた。

 まぁ、冷静に考えれば死体が痛みを感じるはずはないんだけど。というかなら俺は今一体何になっているのだろう?そして、今度はそんな疑問が浮かんでいた。

 すると、どこかから緑色の光が差し込み俺の体を吸い込んでいく。どうやら俺はまだ死んでないらしい。自分に未だ体があることを知りそう思った。

そして、俺は再び意識を失った。


 目を覚ますとそこはベッドの上だった。

「輝人さん、大丈夫ですか?」

 俺が目覚めた事に気づいたフランシェスがそうたずねてきた。

 起き上がってみるとまだ痛みはいくらかあるものの傷口は全てのふさがり、肩も問題なく動かせた。

「ああ、大丈夫だ」

「良かったです」

 フランシェスはそう言いながら安堵のため息をついた。

 その後、話を聞くとどうやら俺は気を失ってここへ運ばれてきたらしい。

 運んでくれたのはリーダーだそうだ。そして、金棒によっていくつも穴が空いた俺をフランシェスが治療したということらしい。

 どうやらそれなりに重症だったようだ。

とりあえず、リーダーにお礼を言おうと思ったが俺の足取りはまだふらついていた。

「ダメですよ!傷はふさぎましたけど治療に使った体力は回復しきってませんから」

 そううながされ結局俺はもう少しベッドにいる事になった。

「私はこれから用事がごさいますので少し席を外しますね」

 俺が起きたからかフランシェスはそう言って自分の仕事に戻って行った。

 治療をほどこしてもらい目が覚めるまで近くにいてくれたフランシェスには感謝しなければならないだろう。

 そんなことを考えたりして過ごしていたがやがて暇になった。体は幾分かダルいものの寝れるほどではない。

 なのでラミアにさっきの件について聞いてみることにした。

「ラミアいるか?」

『無事で何よりです』

 ラミアからの返事はいつも通りすぐ帰ってきた。

 どこか後ろめたいような声なのはここに至ったいくつかの経緯が原因だろう。

「この世界ってちゃんと痛みがあるんだな?」

 手触りとかがすごくしっかりしていたのでもしかしたらと思ったがその予想は的中していた。

 少し酷かもしれないがそれを確信していながら俺はあえてラミアにそう尋ねた。

 何故かって?理由は単に俺がいた世界との違いなどを知るためだ。

 なので特にラミアを少しからかってやろうなんて気はない。一切と言われると言いきれないが一応ない。あったとしてもここでは無いものとして扱う。

『はい…。確かに輝人さんのアバターと体は別々のものですが精神と体が一体化している以上、精神の上での痛みを感じます』

 ラミアはとても申し訳なさそうだった。

『あくまでも精神の痛みなので本体に影響はおよぼぼしません。その痛みはアバターに対して発生したものですから。ただ、精神に影響が出ないとは言いきれませんので訓練していくべきだと思います』

どうやら本体の方に影響は出ないらしい。それでも、俺の心が壊れる可能性があるっぽいので本格的に訓練することを検討していくべきだろう。

「まぁ、分かった。今回のでそれがわかったから次からはそのつもりで行くよ」

『そうして貰えるとありがたいです』

「だから、痛みに対する耐性をつけるのは手伝ってくれよ」

『分かりました。尽力します!』

これで目下の問題としては先の戦いで壊れてしまった武器のかわりを作ることのみとなった。

解決はしていないから問題点としては残っているけどね。

「それとなんだけどさ。この世界って武器の材料はなんなんだ?」

何はともあれ今は武器である。とりあえず俺は片っ端から武器について教えてもらおうと決めた。

『基本は鉄鉱石、魔鉱石のどちらかにモンスターの牙なり爪なりを合わせて作りますね』

「この世界にモンスターいるのか?」

『はい。この戦いのおかげでいくらか減りはしていますが居ないと住民の生活に支障をきたしますからね』

 一連の会話で何となく武器の作り方はわかった。当然だがそれなりに頑張る必要がありそうだ。

 地道には感じるけど戦える身体能力がある分リ○ロよりはマシか…

『確か、フェイルという方がそちらにいたと思いますのでその方に相談するのがいいかと思います』

「ありがとな」

 少なからず助言をくれる神様がいるだけマシだろう。

 その後は、これまでの状況を整理したりこれからの方針を考えたりしながら俺は気長に回復を待つことにした。

 コンコン

 そんなこんなで長考に入っていた俺の耳にドアのノックの音が聞こえた。

 聞き間違いかなとはじめは思ったが再びノックされたので誰か来たのだろう。

「どうぞ」

 このままスルーするのは俺の選択肢には存在しないのでそうそうに入ってもらう。

「失礼。フランシェス様に目覚めたと聞いてな」

 そう言って入ってきたのはリーダーだった。相変わらず鎧は身につけているがかぶと?みたいなものは外していた。

「何か用ですか?」

「うむ。簡潔に言うと先程の結果報告だ」

「結果?」

「実力を測ることだよ」

 俺はそう言われてやっと思い出した。

 確かにリーダーはそんなことを言っていた。でも、気絶したせいで俺の頭からはすっかり抜け落ちていたらしい。

「で、どうですか?」

 かなり不甲斐ないというか面目ないやられ方をしたのであまり期待いや、全くもって期待はしていない。

「悪くは無い」

「え?」

「様々なアクシデントがあったがそれを踏まえた上で悪くは無い。むしろ私は良い方だと思っている」

「…」

 予想外の返答に驚いた。

 神様の刺客というレッテルからてっきり失望されるとばかり思っていたので意外だ。

「それでだな。輝人君、今、武器を持っていないだろう?」

「あ、はい。そうですね」

「では、これを機にどれか武器を作ってみるのがいいと思うんだが」

 ここに至ってやっと頭が正常に働き始めた。

「ありがたいです。僕も今、武器をどうしようか悩んでいたので助かります」

 願ってもない話だった。当然、俺は快諾する。こういうのは使い始めてからも慣れるまでに時間はかかるので早いのに越したことはないのだ。

「武器作成は早い方がいいからな。早速フェイルを読んで方針を固めよう。このことに関してはフランシェス様からの許可も降りているから特に気をんだりする必要は無い」

 そう言ってリーダーは部屋をあとにした。

最後の言葉はリーダーなりの気遣いなんだと思う。

 数十分後、フェイルと共にリーダーが戻ってきた。

「それで坊主はどんな武器をご所望なんだ?」

 そして、部屋に入ってくるなりフェイルはそう尋ねてきた。

いきなりではあるが理由が理由なので今回の場合はむしろありがたかった。

「片手剣みたいなのが1番ですね」

 俺は当然これまでのゲームで1番使っていた片手剣を選ぶ。

 ステータスをスピード重視にした俺は大剣よりも片手剣の方が扱いやすい。双剣といった手もあるのだがリーチが短いことで俺にとっては少し扱いずらい。

 短剣とかも同様の理由で無理だからやはり俺は片手剣を選んだ。

何しろ、俺が一番使えるの片手剣だしな。

「そうか。なら次は素材だな。ベースは魔鉱石と鉄鉱石どっちがいい?」

 どうやらフェイルは俺が武器について知っているていで話しているようだ。

「あのぉ、魔鉱石と鉄鉱石ってなんですか?」

 ここでの知ったかは後々面倒になるのでここは質問した。見栄を張らず素直になった方が何かと得をするしね。

「魔鉱石で作った武器は魔法での攻撃が高く、鉄鉱石で作ったものは硬度が高いと言った感じだよ。魔鉱石の方が作るのが大変で扱いが鉄鉱石より難しい分性能は高い。なので我々の武器は魔鉱石でできている。防具だと色々変わってくるがそれは後でいいだろう」

 この質問に対してはリーダがわかりやすく説明してくれた。

 が、俺に魔法の適正があるかわからないので答えることが出来ない。

「ラミア。いいか?」

 そんな時の女神様とばかりに俺は念じる方でラミアに話しかける。

普段からそうしないのは話した方が楽だからだ。

『はい。この流れですと魔法に対しての適正の有無ですか?』

「うん」

『怪しまれないために一般的な適正にしてあります。正確にはそれより少し上なのでそれなりに使えると言った方が正しいでしょう』

 ラミアの話からすると俺は普通より少し魔法が使えるらしい。あくまで人間の範囲だけど。

それにしてもすぐに的確な答えを返してくれるラミアはできた子だ。

 ありがとうとラミアに一言伝えたあと俺は少し頭を整理した。

 そして、リーダーも魔鉱石の方が性能が高いと言っているし、扱いに関しては練習をすればいいので俺は魔鉱石に決めた。

「それでは魔鉱石の方でお願いします」

「了解だ。それでは次は属性だな。それによって必要な素材が変わってくるからな」

「どんな属性があるんですか?」

「我々のはスピード強化系の武器にしている。一概いちがいに属性と言っても防御力などの身体強化といったスキル持ちの無属性も存在する。なのでまずは君が何に特化したいか決めるべきだよ」

 リーダーはそう言ったが実際、俺はこれといって特化したいものがなかった。

 でも、全体的な身体強化が出来るなら是非ともそれにしたい。

 それなら動きも早くなるし、ダメージも減らせる。ただ、こういうスキル持ちとかの特別な武器はアニメなどの知識だが作るのが大変だと思う。大体はかなり強いモンスターだったり珍しい鉱石や木などが必要となりかなりの労力を必要とする。

 なので、あまり期待は出来ないだろう。でも、一応伝えるだけ伝える。

 そうすればもしかしたらだが近しいものを教えてもらえるかもしれない。

「総合的な身体強化がいいです」

「それはスキルだな。坊主、火とか水とか言った属性でなくていいんだな?」

「はい。出来ればこれがいいです」

「そうか。リーダーここ付近でスキル付加の武器に必要な素材は?」

「この状況では外れの森とかだよ」

「だな。それだと1週間はかかるか。戦力は?」

「私含め2人は必要だ。身体強化のスキルは輝人君の強さしだいだが」

「そうなんですか?」

2人が話し合っている中、使えるかどうかわからないと言われ俺は驚いた。

「ああ。強さによって獲得できるスキルが変わってくる。まぁ、君の場合なら身体強化はそこまで高いスキルではないから問題ないだろう」

 どうやらこの世界にもレベルみたいなものがあるようだ。それに応じて付加できるスキルが変わるのも白龍物語に近いと思う。

 スキルの変更もしくはスキルの進化も多分あるから必要に応じて変えていけばいい。

「ちなみにだが坊主。スキルは本人のレベルアップに伴い上位互換のスキルにはなれるがほかのスキルに変えられねえ。だから、他のスキルを使うには武器を変える必要があぞ」

 そう思いかけた矢先フェイルから補足があった。

 だがスキルは変えれなくてもスキルの強化は行えるからこの場合は特に問題なさそうだ。

「フランシェス様と話し合ってからだが出発は明後日の早朝とする。輝人君、その間、体を休め、旅支度を整えておいて貰えるかな」

「はい」

 こうして俺の武器作成のため旅に出ることが決まった。

 この後、フランシェスが夕食を運んでくると共にリーダーとの旅の出発が明後日の早朝からという事が確定したと伝えられた。

 夕食は少し不思議な味だった。異世界だけあって俺の世界と基本的な味付けが違うらしくとても新鮮だった。

 もちろん不味まずくはなく慣れれば美味しいと思えるたぐいのものだ。このアバターの為にも食事は必要なのでとても助かった。

 俺は不思議な味の夕食を食べ終えた後、再び寝ようとしかけて視界の隅にある現実の時間を表す時計を見た。

 時刻は6時を20分程過ぎていた。俺の家は夕食が6時からで仕事の都合がある父親を除き遅れると時間にもよるが結構怒られる。

 いつもはそこに気を配っているのだが今日は気絶したことでその事をすっかり忘れていた。

「ラミア、早急にログアウトしたいんだけど」

 俺は逸る気持ちを抑えながらラミアに話しかける。

『はい。今から準備します』

 俺の口調が焦り気味だったせいかラミアから急がなきゃという雰囲気が感じられた。

 今更急いだところで怒られはするから少し申し訳なくは思ったが急ごうとする誠意があった方がお説教も短く済むと思うのでここはどうか許して欲しいと思う。

 完全に自分勝手な理由だが俺はそう考えていた。

「それとなんだけどさ。この世界これから夜でしょ?夜の寝てる間だけ時間を動かしておくとか出来ないの?」

『一応可能です。ですが、さまざまリスクが付きまといますね。それに精神が入っていないと生命維持以外の行動が出来ませんから難しいですね』

 そんな美味い話はないらしい。寝ている時間が省ければよりやりやすくなると思ったがそうもいかないようだ。

 確かに心臓だけ動いているのに全く動かないなんて怖い。死んでいるのより多分不気味だ。

『でも、この世界に魔法で干渉は出来るのでなんとかなると思いますよ』

 ラミアは可能だと述べた。

 無理だろうと思わせてからのこれはいささかテレビショッピングに近いものを感じた。そういうのって「従来型だとこれが精一杯ですよね。でも、こちらの新型ならこんな汚れも綺麗に…」なんて紹介するからすごいってついつい思っちゃうんだよね。

 それはさておき細かい内容を質問していくことにした。

「どうやるんだ?」

『具体的には人払いみたいな魔法で無意識的に近ずかせないようにします』

 それはアニメなどでよくある魔法だった。

 多分こういったたぐいのものは割とメジャーなものなんだろう。

「でも、そこからこの部屋にかけるのは難しいんじゃないか?ほら、敵の動きを停めれないかって聞いた時も吹き矢がどうとか言ってたし…」

『大丈夫ですよ。そのアバターは私が作った一種の傀儡くぐつみたいなものなのでそれを媒体に発動すれば問題ないです』

 なんか今ラミアがサラッと怖いことを言った気がした。しかも、それを比較的明るい口調で言っているので怖さはより倍増していた。

 ラミアにその気がないのは分かるがこういった感覚を持っているのは神様ゆえなのだろう。

「助かるよ」

 俺はなんとかそう答えた。

『あ、ログアウトの準備出来たみたいです』

 ラミアの一言に続いて俺はこの世界からログアウトした。




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