第10話 周回クエストはめんどい 2

 周りを警戒しながらも俺達はオークの集団へとゆっくりだが確実に近づいていた。距離にして残り5mほどでほぼ目と鼻の先だ。

 リーダーが前方を注意しながら進み、俺を含む残りは後方などを確認しながらついて行くという構図になっている。

 まだ気づかれた形跡はなくこのまま行けば不意打ちで比較的楽に倒せるだろう。

 だが、そう簡単に行かないのが現実(異世界だけどな)である。

「リーダー、後方に別のオークの集団が接近してきてます。ここから確認できるのは3体ほどです」

 騎士の一人が小さくはあるものの耳によく響く声でそう伝えた。

 俺も後方を見ていたのでその姿を捉えている。

「ここでか。先のオークが視認できているだけで5体。うーむ、仕方がないここは一旦引くぞ」

 リーダーは的確に判断をくだし俺達はここから離れようと動きはじめる。

「誰だ?」

 しかし、逃げるのは容易ではなかった。

 俺は少し焦ったあまり足元にある石ころを蹴ってしまった。比較的狭い路地ということもあり壁にぶつかった石はよく響いた。

「「「…………。」」」

 どちらの集団からか分からないがオークからの呼びかけに俺達は一斉に息を殺した。

「なんだ?」

 もう片方のオークの集団もその声を聞いたようだ。

 そして、両側からこちらに足音が近づいてくる。

 運良く挟み撃ちという事にはならなかったがそれなりに大変なことになった。

 ここで動くと相手は気を張っているので必ず気づかれてしまう。かと言って動かなくても見つかり戦闘になる。

 俺、完全に戦犯だ!

 そう心の中で叫んだ。

『輝人さん。2組ともそちらへ近づいていますよ』

 と、俺たちのことを何かしらの手段で見ていたのかラミアが急に話しかけてきた。

「数は分かるか?」

『はい。こちらから確認したのは合わせて14体ほどです』

「!!!」

 予想外に多かった。ただでさえ狭いことによって敵を速さで翻弄ほんろうできないのに数もそれなりに多い。この状況はいいとは言えなかった。

「とりあえず広いところに出るぞ」

 リーダーもここでの戦闘は不利と見たのか広いところに出る代わりに確実に正面からの戦いとなる道を選んだようだ。

 俺達はリーダーに言われた通りオークがいない方へと走り出した。

 オークの方もその足音で完全に誰かいると確信したようでこちらへ近づく足音が早くなってきた。

「一部のものは他の道へまわれ!」

 オークの1人からそう指示が出た。

 それなりにヤバいがもう走るしかない。

 リーダーもどこかで勝負をかけねばと思ったのか適当な角を曲がり大通りへ進んでいく。

『前方にオークが三体待ち構えてます』

 ラミアそう教えてくれた。

 どうやら俺達は挟まれてしまったらしい。でも、向こうが三体なのは少しラッキーだ。

「俺、先行きます」

 鎧をつけていないおかげで身軽に動ける俺はリーダーを追い抜き1番先頭でオークに向かっていく。

 オークも俺が迫ってくるのに合わせて武器を構える。この場合だと狙いを定られる方が不利なので正面から行くのは得策ではない。

 なので俺は跳んだ。正確には横の壁にある看板を掴み振り子の要領でオークたちを跳び越えた。

 当然これは俺のアバターのステがあって成り立つものである。

 さすがにオークもこれは予想していなかったらしく反応が遅れていた。

 その間に着地した俺は迷わずオークに斬りかかった。

 敵は鎧を着ているので俺は振り返ったばかりで無防備な首に一撃与えた。

 当然、これが致命傷となりオークの一体が倒れた。

 それと同時にリーダー達も俺の方へ気を取られているオーク2体を不意打ち気味で倒した。

「結果オーライだがあまり無理はするなよ」

「はい」

 呼び止められなかったにも関わらずしっかりとお叱りを受けた。

 リーダーもこちらの力量を見るためにあえて止めなかっただけで実際は控えて欲しいのだと思う。

 それだと掛けが出来ないがここがボス戦ではなく、こちらの陣営の数が少ないことをかんがみれば妥当だとうだと感じた。

 というか女神のお墨付きみたいなレッテルのせいで俺にかかる期待が大きい気がする。

 悪い気はしないけど力になれなかったらとか思えてきた。

 考えないようにしようとするほど考えてしまうのが人間だ。俺の頭はもう既にその事で占領され別のことを考えれなくなっていた。

 そして、この感情はラミアに漏れている可能性があるのだと思うと恥ずかしい。

 だが、今は戦闘中だ。俺は念じないと通じないはずとの希望を持つことでなんとかその気持ちを押し留めた。

「来るぞ!」

 リーダーが叫ぶ。

 その声を聞いて、周りを見るとさっきまで走っていた通路からオーク達が迫ってきていた。

 先程三体倒したので残りは11体。まだ少し多い。だが、倒せない数ではない。

 俺も迎撃の姿勢に入った。

 オークの集団がスピードを緩めることなく突進してくる。あの巨体かつ複数ならそれなりに威力がある。

 だが、どこかしら単調な攻め方だ。やはり、ラミアに聞いたようにオークはそこまで知能が高くないようだ。

 騎士達は示し合わせたように同時に左右へ跳ぶことで突進を回避した。俺も横へ移動して避ける。

 勢い余ったオーク達が壁にぶつかった。それに伴いその建物が瓦解がかい粉塵ふんじんが舞い起こった。

 オーク達は鎧のおかげもあってか特にダメージが入ったようには見えなかった。

 オーク達が体勢を整えきれていない中、騎士達はリーダーとともに攻撃に出ていた。

 未だ粉塵が舞っている中、剣と剣がぶつかり合う音が響く。

 俺も負けじとおさまりつつある粉塵の中へ入っていった。

 視界はあまり良くないが少し先なら見える。

 俺は目の前に見えたオークへと近づいた。

 向こうをコチラに気づいたようで手に持った金棒を振り下ろそうとしている。

 しかし、その手の武器は重いために攻撃までにラグがある。俺は金棒の軌道を見切ると上手くステップを使ってそれを避けた。

 そして、そのままの流れでオークへ一撃。首を狙ったことでオークはそのまま倒れた。未だにやられたオークを見ると吐き気というか気持ち悪さがあるがそれを抑え、俺は次のオークを探そうとあたりを見回した。

 すると俺の方めがけて突っ込んでくるオークを見つけた。

 かわそうとするがスピードが速く、俺の反応が遅かったので避けきれず左肩に直撃した。

 俺はその勢いで少し吹っ飛ばされた。

「いったぁぁぁ!!」

 地面にぶつかると共に酸素が一気に吐き出された。

 そのせいで俺の叫びはほとんど声が出ずかすれたものとなった。

 肩はかろうじて動くから外れてはいないようだ。ヒビは入っているかもしれないがそれで済むのはこの体が頑丈だからだろう。

 衝撃としては軽トラなみだがら普通なら骨折していてもおかしくなかっただろう。

 それにしても痛みがあるなんて聞いていない。がとりあえず今は目の前の敵だ。

 痛みが伴う以上ここからは極力ダメージを受けたくない。

 俺はそう決心して俺を今しがた吹き飛ばしたやつに近づいていく。

 向こうの攻撃はなんなくかわし、今まで以上の力を込めて剣を振り抜く。

 思いっきり振り抜いたことで手に衝撃があった。たぶん骨まで到達したのだろう。

 パキパキ、パキ、パリン

 そして、そこで俺の剣が折れた。そう、折れたのだ。その場の感情で動いたがために起きたことだ。いや、この場合は剣のもろさの方がいけないと思う。

 なんにせよこれで俺は今、丸腰で戦場にいることになる。

 すでに頭の中はやばいで埋め尽くされている。

 当然テンパった俺はその場でオロオロしはじめた。

『すみません。その剣は魔力で生成されているため魔力を流して形を保たないとすぐに折れるんです!』

 こちらの様子を見ていたラミアからの謝罪があった。

 俺の方はラミアが話しかけてくれたことでいくらか落ち着いた。

 しかし、場数がない(あるわけが無い)俺にはこの事態に臨機応変に対応できない。よってラミアに助言を求めた。

 ラミアもあくまでも女神なので的確なものでは無いだろうがとりあえず武器を奪ってそれで戦うという方針になった。

 ちなみに先程倒したオークは武器を持っておらず、金棒に関しては使えないから他のやつから奪うしかない。

 とりあえず周りを見回す。

 粉塵はとっくにおさまっていたが騎士達はオークと未だ交戦中だ。どこも2対1とかで相手をしている。そのおかげでここにいるオーク全員の相手をできていた。

 どの騎士の手助けに回ろうか?そう悩んでいると遠くから数体のオークが近づいてきていた。

 さっきの建物が崩れる音を聞いてやってきたのだろう。

 武器はそいつらから奪うことにした。

 と言ってもこちらは素手なので簡単には行かない。敵との距離も近づきつつある中、俺はいかにして複数体のオークを相手にしながら武器を奪取だっしゅするかを考えた。

 これが普通のゲームなら多少のダメージ覚悟でとりあえず武器を確保するのだが、ちゃんと痛みがある世界で痛みに耐えるとかといった訓練を受けていない俺には少しリスクが高い。

 たとえかすり傷といえど場所によってはその場で倒れてしまう。

 仕方がないから3体のオーク(見つけて早々にラミアが教えてくれた)を素手で倒してから武器を取ることにした。

 他の奴が乱入してくるとか素手では倒しきれないとかという懸念はあるが確実性は一番ありそうなのでやるだけやってみることにした。


 こちらに来たオークは俺を囲むようにして立った。数の有利を生かした悪くない手だがテンプレである。まぁ、その分、強いんだけど。

 オークの武器は金棒の奴が2体と俺からすると少し大きい剣の奴が1体だ。片手剣程ではないが大剣なら白龍物語である程度まで練習したから充分に使える。

 他には双剣とか槍、太刀などもある程度は使える。

 俺は大剣持ちの奴から倒そうと右手のオークへと突っ込む。

 大剣持ちのオークはこれまでとは違い横にぐ形で剣を降ってきた。俺はそれを跳んでよけ、オークの頭を使いながらそいつの後ろに着地した。

 これにより、ほかの2体の動作が一瞬、遅くなった。

 大剣持ちのオークはこちらへ振り返るが俺はそれに合わせて顔に回し蹴りを食らわした。

 こういった動作もちゃんとした型かは分からないが白龍物語でやったことがある。

 ダメージはそれなりに入ったようで相手は顔を抑え少し怯む。

 俺はそこを突いて今度は首に蹴りを入れた。さらに怯むオークに続けてキックとパンチを交互に放つ。

 そこへ、残り2体のオークがこちらに攻撃をしてくる。俺は一端、大剣持ちのオークから少し離れるようにして攻撃の回避に徹した。

 オークたちの金棒は空をきる。そして、その2体はもう1体のオークを背にして立ちはだかった。

 相変わらず分が悪い。このままだと大剣持ちのオークに体勢を立て直されてしまう。

 それだけは避けたいので俺は再びオークたちへ立ち向かった。

 オークもこちらに警戒し金棒の奴らが息を合わせてその金棒を横に振る。

 オークの身長が高いこともあり地面との間に空間ができた。そこを使ってスライディングの要領で攻撃をを避け大剣のやつへと向かう。

 向こうも少しは立て直したようだが少しふらついている。意外と効いているようだ。特に拳や脚を強化していないのだが当たりどころの問題だろう。

 オークは力任せで大剣を振り下ろしてくるが俺はそれを難なくよけ、大剣を持っている腕を掴みそのまま背負い投げを決める。

 かなり重たく骨がギシギシ言って痛かったがここが正念場とゴリ推した。

 普段引きこもっている俺だが中学までは幼馴染と共に柔道をやらされていたので背負い投げなどある程度の技は出来る。

 そう、柔道だけは俺が唯一できるスポーツなのだ。

 当然、投げた先には他のオーク2体がいる。そいつらを巻き込むようにして大剣のオークを地面に叩きつけた。正直、一緒に倒せるとは思っていなかったがこの体の力は意外と強いらしい。

それから俺は強引にオークの手に握られている大剣を引き抜こうとした。

 オークの方もそれなりに限界なのか大剣は意外とすんなり抜けた。

 それに意外と重かった事も合わさり少しふらついたがすぐに立て直した。

 確かに重いことには重いがこれなら扱えないこともないのでそのまま攻撃を続行する。

 まずは先程倒したオークの首に向かって一撃。重さも相まって今度は完全に真っ二つになった。

 血が吹きでるさまはなかなかにグロく吐き気を催しそうなので俺は視線を残り2体のオークに向ける。

 残りの2体はもう攻撃を開始しかけていて片方の攻撃は避けれたものの、もう一体の攻撃は大剣で受け止める形になった。

 当然オークの攻撃は重く俺は吹っ飛ばされ建物の瓦礫に激突した。

 追撃とばかりにオーク2体が迫ってくる。俺は痛みを堪え遠心力を使って重い一撃をオークの片方に加える。あいにく、金棒に防がれたが横からの攻撃を予想していなかったのか金棒の先が顔の横に当たる。そして、そのまま倒れた。

 よし、行ける。とそう思った矢先、もう片方のオークからの攻撃があった。

 俺は重い大剣での攻撃を終えたばかりで反応出来ず金棒が俺の体をさっきよりも吹っ飛ばした。

 ただでさえ、体のあちこちが痛い中トゲが食い込みさらに痛みが走る。そのまま、瓦礫に衝突した俺はぶっかった衝撃で意識を失った。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る