第9話 周回クエストはめんどい

 翌日、いまだ夏休みである俺は少し遅めの朝ごはんを食べている。

 メニューはトーストとジャム、それと牛乳だ。

 テレビは普段では見ないような「とくヨネ」になっている。

 昨日のことは未だに信じられない。いつも通りの生活を送っていることもあって余計に現実感がわかないのが正直なところである。

 普通の異世界転生ものなら「そうか、俺は異世界にいるんだよな」とかと感じたりするのだろうが両立をしている俺には全く感じられないのだ。

 でも、多分、現実で今も向こうはラミアが時間を止めているのだからお昼後すぐにダイブしようと俺は決めていた。

 世界を救うのはめんどくさいと思う。でも、他の作品の異世界転生もしくは転移の中にはひどい待遇を受けるものもあるのだ。それに比べたらいい方だろう。

 この後、俺はスマホなどの他のゲームのログイン等々をしてお昼を迎えた。異世界とか色々あってもやっぱりこういうのは辞められないものである。

 お昼は冷蔵庫にあるもので適当に済ませた俺はいよいよ異世界へ行くことにした。


 当然だがログアウトしたのと同じ場所に来た。

 時間はまだ止まっているらしく周りの人は一歩も動いていない。当然俺も動くことは出来なかった。

 口も動かせないので頭の中というか心の中というかとにかくテレパシー的な感じで俺はラミアに話しかけた。

『はい。なんですか?』

 俺はテレパシーが使える訳では無いのだが何故か繋がった。

「こんなでも繋がるのか?」

『はい。私の声が輝人さんの頭の中に直接くるのと同様に輝人さんの声は話しかけようとすれば念じても繋がります』

 どうやら俺が能力に目覚めたわけじゃないらしい。ふぅ…危うく勘違いする所だったぜ。

「それで、ログインしたから動かして欲しいんですけど」

『あ、はい。そうですね。それでは今、魔法を保持してくださってる方に伝えてきますね』

 ラミアとの会話はそれで切れた。

 ツー、ツーという音がないから実際どうかは分からないが多分切れている。

 それから間もなくして世界が動き始めた。

 俺は急に動けるようになって変な感じがした。

 時間は本当に昨日のままで止まっていたらしくフランシェスの周りは未だに人だかりが出来ている。

「時間を止めるのってラミア以外もやっているのか?」

 周りの風景を(昨日と何ら変わっていないが)見ながら俺はふとラミアにそんな事を聞いた。

『はい。さすがに私だけでは神様とはいえ死にかける、正しくは存在が消えかけてしまいますので議会の決議で複数の人達が引き継ぎながら行うようにしています』

 ラミアからの返事はすぐだった。実際、直ぐに伝わってるから当然だけど。

「神様って死なないんじゃないの?」

『死にはしませんよ。寿命とかも無いですし。でも、存在を消されることはあります。人々からの信仰が消えた時とか現界できないレベルまで弱らせるとかとかがその方法ですね』

 どうやら神様にも死ぬのと同じようなのが存在しているらしい。

 でも、弱らせるってほぼ不可能だよな。だって世界全体に魔法をかけてそれを数時間は耐えているんだぜ。交代も限界ギリギリまでやるはずないからそれでもなお余裕があるはずだ。

 力つかせるためにはこの世界がいくつあっても足りないだろう。いや、いくつかあれば足りるかもしれない。でも、どっちにしろ一つでは足りないはずだ。

 俺はそんな途方もない事を考えていた。結論としては神様を無下むげにしてはいけないということだ。

 かの有名なギリシャ神話にも神をバカにして酷い目にあったやつは何人かいるからそこを見ても明白な事実だと思う。

 そこにようやく人だかりがおさまったのかフランシェスがこっちに来た。

「どうしたんだ?」

「これから共に戦うにあたり騎士達といった戦闘に関わる人たちを紹介したいのですが大丈夫ですか?」

 フランシェスは疲れてはいないかと気遣いながらもそう話した。

「問題ないよ」

 俺は実際ゆっくり休んでいて疲れはないからから快諾した。

 あくまでも休んだのは俺の精神であってこの体自体はそこまで休息を取っていないがそれでも断る道理はないだろう。

 それにこれからともに協力する人達だこういうのは多分早めにしておくべきだと思う。

 正直なところあまり人から気を遣われないので嬉しいというのが一番の理由なんだけど。

 フランシェスの後について行くとその歩みの先に何人か人の騎士が歩いていた。たぶん、このことを見すえてフランシェスが先に集まるよう呼びかけておいたのだろう。

 場所はさっきの広場からもう少し進んだところだ。

 見渡すと壁に地図や様々な紙が貼ってあったりする。そういったものがあるという事はここは作戦や方針といったことを決めるための会議室といった所なのだろう。

 集まっている人は騎士だけでなくごつい体格のおじさんなどもいた。

 ここに来る時、王や女王は他国の王たちとの会議のため留守と聞いていた。だから国王に会うのはまた今度になるだろう。

 何しろ緊急事態のために各国の王がセントラルにこもりきりで対策会議を開いているらしいのだ。会うのはかなり先になるとみていいだろう。

それと、王たちの護衛には魔導師がついていっているらしい。話によるとそれなりな体術と魔法力で騎士たちと双璧をなしているとか。

「皆さん集まりましたね」

 どうやら前を歩く騎士達が最後だったようだ。

「皆さんに集まってもらったのはさっき話した通り共闘にあたっての顔合わせです。他にも今後の予定などを決めたりしますがメインはお互いの紹介ということになります」

 フランシェスの口調は王族たる威厳のあるものになっていた。こう見るとやはり人の上に立つ人間なんだなと感じる。

 まぁ、日本に王様いないから(天皇はいるけどあくまで象徴だからな)2次元で得たイメージなんだけど。

「それではまず輝人さんについて先程の説明では納得できないところもあると思うので私の知る限り詳しく説明します」

 この後、先程の説明よりも詳しくフランシェスは皆に話していった。

 その話で一部理解しきれない人もいたが大半は納得をしていた。これはフランシェスの人望のおかげという面も少なからずあるのだろう。

 そもそも不安を極力拭ぬぐうために俺の説明を詳しくしたのだろうからその手腕を見れば人望の厚さは容易に想像出来る。

「それでは輝人さん今度はこちらの者達を紹介します。まず、この方達は見てわかる通り我が国の騎士達です」

 フランシェスは複数の騎士達の方を指してそういった。

 これは何となくわかる。理由は鎧を着てるから。

「これまでの戦線で何人か減り現在はここにいる20名だけです。そして、彼がこの騎士のリーダーです」

「輝人君。よろしく頼む」

 フランシェスにリーダーと紹介された男は鎧は他の騎士との違いはないが彫りの深い顔をした眼光の一際ひときわ鋭い人だった。

「こちらこそお願いします」

 値踏みされているような視線にそもそもの眼光の鋭さも相まって少し怖かった。それでも俺は少しビクビクしながらも握手に応じた。

「数はあまり多くないですが実力においては申し分ない者ばかりですよ」

 フランシェスは最後にそうつけ加えて騎士達の説明を終えた。

 確かに皆、体格がいい。雰囲気で強さがわかるという訳では無いからあくまで見かけ上でしか判断できないが、ここまでの戦線を乗り越えてきているというところを加味すれば見かけ倒しということはまずないと思う。

「次にこちらの方は鍛冶屋を営んでいたフェイルです。今はここに設置されている機材で騎士達の鎧や武器の修理、作成をしてもらってます」

 フェイルと紹介された男は日焼けした陽気な雰囲気のおじさんだ。

「よろしくな坊主」

「よろしくお願いします」

 俺の事を坊主と呼ぶあたりも含めイメージ(俺の想像だけど)にあった人だなと思った。

 続けて、戦略を考えたりする参謀的役割の人や武具などの材料となる物資を収集する人、敵陣の動向を探る人達が紹介された。

 みんながみんなそれなりに癖のある人だが悪い人たちではないと感じていた。

 この後は定例会議みたく状況の報告と今後の方針に細かな修正を加えて終わった。

「輝人君これから共に見回りでも行かないか?」

 俺はここに居ても邪魔だろうと思いさっきの広場もとい部屋に戻ろうと会議室をあとにしようとするとリーダー(本名を知らないからそれ以外の呼び方がない)からそんな誘いを受けた。

「敵の戦力を落とす為にオークの何体かと戦うと思うのでお互いの力量も多少ははかれるでしょう」

 この誘いには俺の力を測る目的があるようだ。まだ、値踏みの段階なのだろう。

「いいですよ」

 逆にこちらも騎士達の戦いを見れるので断る理由はない。むしろ、リーダーの実力には少し興味があったから望んでもないことだ。

 俺は自分がメインで戦うことも忘れてそんなことを考えていた。

「そういうことで、よろしいですか?」

「ええ、構いませんよ。お互いの力量を知ることは共に戦う上で大切ですから」

 リーダーはフランシェスに許可をとるとこの場に残っている騎士のうち何人かに声をかけた。

 そして、リーダー含めた騎士4人と俺の計5人で見回りに行くことになった。

 その後、来た時と同様に少し長い階段をのぼり俺達は外に出た。

 あくまでも見回りだからそこまで遠くへは行かないだろう。

「ここからは気を引き締めるように」

 リーダーはそう言って歩き出した。

 俺はリーダーの一言で緊張感が高まったのを感じた。


 この街に来たばかりで土地勘がない俺は今どこを歩いているのか分からなかったがそれなりな距離は歩いたと思う。

 ここまで3体で街を徘徊はいかいしていたオークと1回、遭遇しただけで他に戦闘になるような場面はなかった。

 その戦闘も騎士達がものの数分で倒してしまったので俺は特に何もしていない。

 つまり、今現在では騎士達の強さを一端ではあるかもしれないが知っただけだ。

 騎士達は普通に強かった。個々の技量ももちろんだが何よりも動きに統制が取れていた。

「リーダー。この力量さなら敵の本陣に攻め込んでもいい気がするんですけど…」

 俺はなぜ攻めないのか聞いてみたが理由があるから攻めれてないということに途中から気づいたので俺の声はだんだんと小さくなっていった。

「今回は4対3と数の有利を生かせたが敵の4つほどある各拠点でさえ50から60体。本拠地に関しては現在の情報で90体ほどのオークに加えオークの王であるオークキングがいるから戦力的に厳しいところでな…我々もこの国をいち早くオークから奪還したいとは考えているんだが見回りに出ている数を抜いても本拠地には50体、しかも通常のオークの数倍の力を持つオークキングやその他の強化個体を含めるとまだまだ難しいのが現状だ」

「そうですよね」

 多勢に無勢ということわざがあるくらいだ。この国が圧倒的に追い込まれていることがよくわかった。確かにそうでなければ街もここまで壊れてはいないだろう。

 この国の騎士は強いでも複数体のオークを相手に勝てるほどの力量差はないのだと思う。

「ええ。私でさえも1度に4体が限界だ。他のものも3体でギリギリと言った感じだろう。場合によっては奇襲きしゅう等でそれ以上を倒せるかもしれないがな」

 確かにそれはきつい。敵の数を1番最低で見積ってもオークに数で負ける。正面からは控え不意打ちでできるだけ削ってから攻めるべきなのは俺でもわかった。

 そして、この見回りで確実に敵の数を減らしていくのは根気がいるが最善だと思えた。

 そのあともこのまま見回りは続いていく。やはりどこも俺が最初に転送された場所と同じように建物は崩れかけ所々から煙が上がっていた。

 血痕けっこんこそ見当たりはしないものの壊滅状態であることに違いはない。

 当然、人は居ないので俺がフランシェスに会えたのはとてもラッキーだったと思う。

 いや、これもラミアが気を利かせたが故なのかもしれない。

「ラミア。ちょっといいか?」

 そう考えると変に気になってきたのでいっそ本人に聞くことにした。

『はい。なんでしょか?』

「少し気になったんだけど転送先ってフランシェスと出会えるようわざと近い場所にしたのか?」

『…結果的に会えはしましたが特にこちらの意図はありませんけど…』

 どうやら、たまたまだったらしい。

 それどころかラミアはそういった配慮をしていなかった事に気付いてか落ち込んだ声になっていた。

「ラミアは十分助けになってるから大丈夫だよ。それに実際こうしてどうにかなってるんだからいまさら落ち込む必要は無いって」

 俺はなんとか元に戻ってもらうように慰めてみた。

 元はといえば俺の軽はずみな発言原因なんだがそれは棚に上げておこう。

 慰めると言っても現実で友達皆無だから慰める経験はない。

 でも、 色々と大変なラミアにこれ以上負荷をかけるのがどうしても気が引けてしまう。というかいたたまれなくなってしまうのでやらずにはいられなかった。

『そうですね。結果オーライですよね』

「ふぅ…」

 不慣れなことをすると失敗するのがつねではあるが今回はなんとかなったようだ。

 それを受け俺はつい安堵の息をついた。

「とりあえず、ありがとな」

 俺はそう言うとラミアとの通話?を終えた。

 これプー、プー、とか音がしないから切れてるかわからないんだよな。

 どっちにしろ、こちらの会話は向こうに筒抜けなのだろうが(そっちの方がラミアがフォローしやすくなるし)どうしても違和感が拭いされなかった。

「リーダー!前方にオークを数体確認しました」

そんな事をしていると急に騎士のひとりが声を上げた。 

俺達は少し広い通りに居るのだが言われた方を見てみるとその少し先にオークらしき影があった。

「俺も見えている。全員、迎撃準備。輝人君、ここでは君の力も見させてもらうよ」

「はい」

 リーダーの掛け声で皆一斉に戦闘態勢に入った。俺も戦うと言われたので剣を抜いて意識の焦点を前方のオークたちに注いだ。

 リーダーの声はハッキリしていながらも小さいものだったので向こうのオーク達には気づかれてないようだ。

「敵のオークの数はこの距離では不明だ。よって慎重に近づき場合によっては逃げれるように」

 リーダーの指揮の元、俺達は通りの脇道に入った。















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