第8話 異世界で出会うヒロインは基本可愛い 4

目を開けると目の前にはボロボロになった街があった。

 周りを見渡してもどの建物も壊れていて所々煙が上がっている。

 どうやら転送は成功したらしい。

 そう考えている俺は大通りと思われる石を敷きつめてできた西洋風な道の真ん中に立っていた。

 体の感覚は現実の感覚に近づいて少し重くなっていたがゲーム内のステータスを反映したおかげで身体能力が上がっている分、現実よりは軽く感じた。

 自分で見える範囲では服と装備である剣を除いて現実での自分と何ら変わっている所はなかった。

「ラミア。地上に来たんだけどここどこ?」

『そこは輝人さんと同じ人間が住んでいる国の首都ホーミルムです』

 自分の現在位置を知るのとラミアと話せるかを兼ねて質問をしたら声が頭の中に直接入ってきた。一種のテレパシーなんだと思う。

「ここにはまだ人がいるのか?」

『はい。各種族は陥落かんらくしかけている首都を残すのみですが首都には各国1番の戦力を集めていますので残っている者は他と比べて多いです』

 とりあえずここはなんとか持ちこたえてるらしい。

 人がいるとの確認も取れたので俺はとりあえず誰かを探すために移動することにした。

「あ、そういえば言語って通じるの?」

『大丈夫です。輝人さんのアバターは全ての種族の言語と全種族共通の言語に対応できますから』

「ラミアが無策なわけなかったな。すまん」

 転移そうそうとんでもない問題が起こったと思ったが冷静に考えればラミアが対策を講じていない訳が無いのだ。確かに万が一はあるだろうが綿密に練られているからそれもほぼ無いはずだし…たぶん。

 とりあえず大通りでは人目というか魔界目につくので小道に入る。

 生き残ってる人々もこんな目立つ大通りにはいないだろうとの判断も含めての行動だ。決して偶然ではない。

 街並みは西欧寄りだった。実際にヨーロッパとかに行ったことないから確定は出来ないけど石で作られた(壊されてるけど)建物はそれに近しいものの気がする。

 そのまま探索は続いた。

 人は一向に見つからない。ここまでで分かったことは街がひどい惨状さんじょうという事だ。たぶん戦時中とかもこんな感じだったんだろう。

 なんにせよ時間もあまりないので早く見つけたいところだ。

 異世界を救う立場になった人間がそんなことを考えていいものか?と思うかもしれないが俺がそこまで高尚こうしょうな人間ではないという証拠だろう。

「きゃぁぁぁ」

 その時、どこからか悲鳴が上がった。しかし、ここは道幅が狭く声が反響しているのでどこからのものなのか分からない。

 悲鳴を聞いてすぐ駆けつけられるアニメのキャラ達は何かしらの訓練を受けているに違いない。

『輝人さん、そこを真っ直ぐです』

 そこへラミアからフォローが入った。ラミア、ナイスだ。

 ラミアの案内を元に俺は思ったより入り組んでいた路地を走った。

 道幅は狭かったが走れる広さではあった。途中、何回か曲がりながら進んでいくと少し大きな道に出た。

『その通りです』

 ラミアに言われるままに周りを見渡してみると一人の女の子がオーク2体に絡まれていた。

 女の子の方はエメラルドグリーンの髪と目で長い髪は下ろしている。見た感じ強そうには見えなかった。体つきも見た感じ華奢きしゃだし。

 オークの方も体つきはよくはないので強いのかはわからなかった。

『オークの方は下っ端ですね』

 そんなことを思っているとラミアから追加の情報が来た。

「腕試しにはいいかな」

 そう思うと俺は街人を助けるためにオークに向かって走り出した。


 距離は15m程で俺は腰についている剣を引き抜きながら走る。

 向こうも俺の足音に気づいたらしくこちらの方を向いた。が反応するより早く俺は片方のオークの首、目掛めがけて剣を振る。

 鎧は特に来ていなかったので剣はしっかりと刺さった。

 俺の腕にもその感触が伝わった。ゲームよりも現実味のある感触に戸惑いながらもそのまま俺は剣を振り抜いた。

 それと同時にオークの首から血が噴き出した。俺はそれに一瞬で気を取られそうになったがもう片方のオークが斧を使って攻撃してくるのが見えたので俺は迎撃姿勢に入る。

 オークの動きは比較的単調で上から振りおろされた斧を俺は横に動いて避けた。勿論もちろんこのアバターだから出来ることだ。

 オークが次の動作に入る前に俺はオークの背後に周り首の後ろを剣で斬った。

 オークも首の後ろに頸動脈けいどうみゃくが通っているのか大量の血を流しながら倒れく。

 正直かなりグロかった。もちろん人の死体など見た事もないので軽く吐きそうになる。それでも吐かなかったのはこの体がそういうものに対しての耐性があるからだろう。

 とりあえず、気をそらす為にも俺は彼女の方を見た。

「た、助けて頂いてありがとうございます」

 彼女は少しおびえながらも凛とした口調でそう言った。

 突然でてきた何者かもわからない奴、もしかしたら自分を狙うかもしれない奴なのだ。それにも関わらずこういう態度でいられる彼女は相当な胆力たんりょくがあるのだろう。

「怪しいものでは無いよ…と言っても信じられないかぁ」

 安心してもらおうにも自分が無害だと分かる決定的な証拠がなかった。オークの倒し方もいささかひどかったし。何より今のこの世界の状況をかんがみれば怪しくない方がおかしいだろう。

「どうしたらいい?」

 俺は小声でラミアに尋ねた。

『そうですねぇ。私が掛け合ってみましょうか?』

 これから困った時はラミアに頼もう。俺はこの時そう決意した。

「そんなこと出来るのか?」

『分身体を送るだけなので大丈夫です』

 とりあえず可能らしい。どっちにしろ他に手段もないのでそれをお願いすることにした。

 数秒後、俺の前に魔粒子が集まった。それは次第にラミアの形へと変わった。

『こんにちは。私はラミアです。貴女ならこの名前の意味がお分かりになると思います』

 そう聞くと彼女はラミアに向かって深々ふかぶかと一礼した。

「お初にお目にかかります。私はホーミルムを治めるメリオット家王女のメリオット・リデフ・フランシェスです」

『ええ。存じておりますよ』

 この後、ラミアは俺のことを説明して消えた。

『いざやって見ると妨害が厳しいので次からは難しいと思います』

 そして、俺はそんな報告を受けた。

つまり、ここからは自分の力で頑張れということなんだろう。まぁ、仕方がない。

「あのぉ、輝人さんでしたか?改めて助けていただき感謝します。私のことはフランシェスと呼んでください」

「じゃあ、フランシェス。俺のことは輝人でいいよ。あと、そこまで改まらなくてもいいから」

「この話し方は癖づいてしまったものなので改まっているわけでは…」

「分かった。ならそのままで構わない」

 その後、俺はラミアの説明を元に事情を説明した。神様が説明してくれていたということもあり俺は生き残っている人達の避難所に連れて行ってもらえることになった。

「あのぉー輝人さん。先程は助けて頂いてありがとうございました」

「これも仕事の内だから」

 さっきのオークの死骸を思い出し再び気分が悪くなった俺は素っ気ない返事をした。

 いずれ慣れると思うけどその時に俺は人間に必要なものの何かが欠けている気がする。

 そこまで考えて俺はその思考を意識の外に追いやった。

 この後、さっきの状況について詳しく話を聞いた。

 どうやらフランシェスは森に食料を調達しに行く途中に襲われたようだ。

 抵抗しなかったというか出来なかったのは彼女が治癒魔法を専門にしていて攻撃魔法にはうといからだった。その分、治癒魔法では凄腕らしい。

 他にもいろいろと話を聞いているうちに見るからに頑丈な建物の前に来た。

「ここが私達の拠点です」

 フランシェスはそう言うとその建物の壁に指で記号を記した。

 ガゴォン、という音とともに扉が開いた。

「どうぞ」

 フランシェスはそう言いながら俺が中に入るよううながした。

 中は暗かった。地下へと続く階段を壁の微かな光を頼りにフランシェスの後ろからついて行く。

「これ。何で出来てるの?」

 それなりな圧迫感を感じていた俺は気分をまぎらわすためにそう聞いた。

「アイフォ…と言ってもわかりませんね。簡単に言うとこの世で2番目に硬い生き物から出来ています」

 どうやら思ってた以上に堅固な建物らしい。それがどのくらい堅いかは残念ながら全然わからないけど。

「更に硬度を上げたり、魔法への耐性を上げるために結界を多重にほどこしているので安全性は保証できます」

「す、すげぇな…」

「はい。これでも一応最後のとりでとなる建物ですから」

「え?」

 どうやらこの建物が最後の防衛ラインらしい。ということは他の建物は敵によって崩されたのか。

 これで街に人がいない理由がわかった。人間はこの世界よりも絶滅寸前なのだ。そう外をうろうろできるはずもない。

 そうなるとゴブリンは一体どうなっているんだろう?

「着きましたよ」

 そんなことを考えていると広い空間に出た。

「ここか?」

「ええ。正確にはこの先の扉の奥ですけど」

 つまり、ここは最後の最後で敵の進行を防ぐための場所ということだろう。

この建物に入った時と同じようにフランシェスが扉にさっきとは違う記号を記す。

すると、ガゴォンというさっきと同じような重層な音とともに扉が開いた。

中はこれまでとは違い生活感を感じた。要は雰囲気があまり重苦しいものでなくなったという事だ。ただ実際の居住空間はまだ先のようだ。ここは所謂いわゆる玄関みたいなものなのかも知れない。

「お帰りなさいませ。フランシェス様」

入っていくらかも経たないうちに複数の鎧をまとった騎士と見られる人達が奥から近づいてきた。

一般市民がいないのは入ってきたのが万が一でも敵だという可能性があるからだろう。

「私がいなかった間になにか変動はありましたか?」

「いえ、いまだここは安全を保っております。見張りからもここへの侵入をはかるオークは見られないとのことでした」

フランシェスが問いかけた答えに普通の騎士よりも威厳いげんのあるリーダーらしき人が応えを返した。

「ところでそちらの方は何者でございますか?」

その人は当然するであろう質問をしてきた。

「説明がまだでしたね。この方は輝人さん。先程、色々あって私を助けてくださった人です。敵ではないか?という疑問に対しては女神ラミア様の命によって現界げんかいされたとラミア様自身からうかがったので問題は無いでしょう」

「輝人様と申しましたか?貴方に感謝致しますと共に先程の無礼な質問をどうかお許しください」

俺はその場の騎士全員から一礼を受けた。

誇ってもいいことなのかもしれないが俺は騎士の人達の迫力に呆気に取られていたので「大丈夫ですよ」と返すのが精一杯だった。

「下がってもらって結構です」

フランシェスがそう言うと騎士達は奥へと引き返して行った。

さっきまでは比較的砕けた話し方をしていたのですっかり忘れていたがこれでもフランシェスはこの国の王女だ。

俺はそう思いながら彼女から威厳というか風格とかといった類のものを感じていた。

「それでは行きましょうか」

「あ、はい」

フランシェスは通路の奥へと進み始めたので俺は遅れずついていく。

こう話しかけられるとどうも王女と言う感じには見えない。

直ぐにまた広場に出た。今度はそれなりに広くダイニングテーブルなど生活用品が置かれていた。

そして、住民と思われる人達が多く集まっもていた。

俺の服装は他の人と大して変わらず目立つものでは無いが多くの視線が自分に向けられているのがわかった。

まぁ、このご時世じせいだ。敵の回し者の可能性もあるし見ず知らずの人に警戒をしない人は住民であろうとほぼいないだろう。

「皆さん、ただ今戻りました。食料に関してはこちらに」

フランシェスはそう言うと腰につけていたいくつかの巾着を近くの騎士に手渡した。

「そして、この方についてですが道中、私がオークに出くわしたところを助けてくださった方です。安全性に関しては王族であるフランシェスの名にかけ保証しますのでどうか信じて下さいますようお願いします」

フランシェスの方も俺への警戒感に気づいたのか弁明をしてくれた。

この後、自由に過ごしてくださいと言われた俺は隅の方へ行って座った。特に疲れたという訳では無く最初は大人しくするべきだろうと思ったゆえだ。

住民の人達はフランシェスの事を尊敬しているらしく俺の事についてよりも道中オークに会ったフランシェスのことを心配していた。

自ら進んで危険な事にも身をさらしていけるフランシェスは今更だが本当にすごい王女だと感じた。


「もうそろそろ帰りたいんだけど」

いくらか時間が経ったあと俺はラミアにそう話しかけた。

一応、小声でだ。理由は単に変なやつというレッテルが貼られたくないからだ。

『分かりました。では、時間の停止と魂の移動の術式を準備しますので少し待ってて下さい』

予想よりも反応が来るのが早かった。

まぁ、直接声が頭に入ってくるから当然と言えば当然なんだが。

『準備が終わりました』

ほんの数分でラミアからの応答があった。

「かなりすごい魔法なのに準備の時間短くないか?」

俺はラミアの仕事の早さに感心した。

神様にそんな上から目線な感想をうかべる俺なのだった。普通だったら天罰だよな。コレ。

『準備では輝人さんの体と精神にパイプを繋ぐことが少し手間がかかるだけであって時間停止に関しては今回は世界全体なので結構すぐに使えるんですよ』

「そうなんだ。それじゃあ頼む」

神様クラスだと手こずる事の難易度がおかしいらしい。

直ぐに魔法は発動された。

それに伴い俺の視界は真っ暗になった。

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