第7話 異世界で出会うヒロインは基本可愛い 3

 数分後、トレーにティーポットとタブレットらしきものを載せてラミアが戻ってきた。

 ティーポットの中身がこぼれたらタブレットっぽいやつが壊れるんじゃないかと心配になったが神様の使っているものだからたぶん防水だろう。そもそもタブレットかすら分からないし。

 ラミアは一切の危なげを見せずテーブルまでトレーを持ってくると残り数個のクッキーが載っているお皿を端に寄せそこにタブレットっぽいものを置いた。

「紅茶の方おかわりいりますか?」

 そして、俺のコップが空になっているのを確認するとそう尋ねてきた。

 紅茶が もうなくなるし、冷めてきていると感じたラミアは再び紅茶を入れにいってくれたらしい。

 本当に気の回る子である(俺は近所のおじさんか!)。

「ああ。お願いする」

 俺は本来の神様のイメージとギャップを感じながらお願いすることにした。

 なんか神様ってもっと傲慢なイメージだったから意外。単にラミアがいい子というだけかもしれないけど。

 ラミアは俺の分の紅茶を注ぎ終えると自分の分を入れはじめた。よく見てみると紅茶を注ぐ際にも何かを注意しているように行っているので何かしらのこだわりがあるようだ。

 ラミアにやらせるのは申し訳ないけどそういうのを全く知らない俺は変わることが出来ないので仕方がない。

 注ぎ終えるとラミアは自分のイスに座った。

「それでは説明を始めますね」

 れたての紅茶を1口含んでからラミアはタブレットっぽいものを操作しはじめた。

「よろしく頼む」

 俺はそう答える。

 少ししてタブレット(もうめんどくさいからそういう事にする)から地図が投影された。

 いわゆる立体映像というやつだ。山の起伏きふくまでしっかりと表現されている。生物こそいないもののそれを除けば全て一緒なんだろう。そこの世界の周りにはオーロラみたいなものがありそれが隣との仕切りっぽくなっている。

「まずここに映し出されているところ一帯が私の管轄かんかつしている国です。その周りには魔界とかそういった別の類の世界になっていましてここにいる生物はこの境界を基本超えられないように細工をしています」

「魔界って隣なのか?」

「はい」

 スケールが違うが隣国が攻めてきたみたいな感じらしい。

 でも、細工してるって言ってなかったっけ?

「細工の方はですね。魔界の主である魔王に破られてしまいまして…現在はほぼ機能していません」

 やっちゃいました。と言わん感じの表情でラミアはそう告げた。

「細工をもっとどうにかするのは無理なのか?」

「はい。これ以上強めてしまいますと世界の方に影響を及ぼしてしまうので…」

 つまり、 魔王ってやつは相当の強者らしい。なんか倒せる気しなくなってきたなぁ。

 そして、神様も神様で大変らしい。特に力の調整とかが。

「これは平常時ですけど今はもうボロボロです。と、とりあえず種族の説明から始めますね」

「うん」

 途中落ち込みかけたラミアだがハッとして説明を始めた。

「まず、種族と大きな都市から説明を始めていきますね。まずこの地図の中央にある大きい都市が首都セントラルです」

 そう言ってラミアは地図のほぼ中央にあるひときわ大きな都市を指さした。

 セントラルとはこれまたストレートなネーミングだなと思いながらもそこはスルーだ。

 とりあえずその他で思った事を聞く。

「じゃあここに王様がいるのか?」

「いえ、この世界では全てをまとめる王はいません。その代わりに各種族ごとに王族はいますね」

「それセントラルの存在理由あるのか?」

「中心にあるので交通の要所になっています。商人のみならず遠征に向かう騎士達も利用したりしますから重要な拠点ですね。どこの国のものでもないので警備は各国の方たちから構成されている混合部隊が行っています」

 中心に位置する都市とだけあってそれなりの存在理由があるらしい。

 騎士とかという言葉も聞こえたがそれが魔界の奴らに対抗する手段なんだろう。

「次にここが輝人さんと同じような人間が暮らす国の首都ホーミルムです。際立った能力はありませんが頭脳が優れていて商業を中心に成り立っている国です。戦力はイマイチですが一応魔法が使えるものが何人かおります」

 そう言ってラミア東にある少し大きな都市を指さした。

「やっぱり人間って貧弱なんだな」

「まぁ、この種族の中だと1番弱いですね。でも参謀として活躍はしてますので戦力は他国の方たちがなんとかしてくれてます」

 それでもかなり大きい都市をもてているだけあって役には立てているらしい。

 戦力を借りているあたり日米安全保障条約みたいなものだろうか。多分違うな。

「続いてここがゴブリン達が暮らす国の首都ルピータスです」

 今度はホーミルムの少し南にある小さめの都市をラミアは指さした。

「彼らは騎士達の中でも前線として使われたりしている少しかわいそうな種族です」

「それでも人より強いだろ」

 少し哀れんだ表情でそう語ったラミアに「その種族を創ったのあなたですよ?」と言いかけたが俺は踏みとどまった。

 何故って?それは聞いたらとんでもない事が起きる気がしたからだ。ようはなんとなくです。

「それはそうなんですけど他の種族を合わせた上で見るとどうしても下の方なんですよね」

 言いかけたがためにそんなことを質問してしまった俺だがこれの答えは何となく予想できた。こう言っては良くないけどゴブリンってどうしても強いイメージ持てないよね。


「種族に関してはざっとこんな感じです」

 種族の説明が終わった。まとめるとその世界には人間、ゴブリン、ドワーフ、エルフ、ワービースト、オーガ、オークの7種類がいるらしい。他にも生き物はいるが種族は7種類だ。

 それぞれの特徴は人間は知能に長けていて、ゴブリンは平均的、ドワーフはものづくりの達人でエルフは薬草の調合と魔法がずば抜けている。ワービーストは身体能力が高く、オーガは…よくわかんないけど近接戦闘ではワービーストに引けを取らない。オークはタフといった感じだ。

 まぁ、どれも予想通りではあるので覚えれた。首都の名前とかはもう忘れているというか一気に言われすぎて覚えれなかったから必要な時に場所を含めラミアに聞こう。

 とりあえずこれで種族に関しての説明は終わりだ。長くはないけど情報量は多かった。

「それでは今度は現状に至るまでの経緯と現状を簡単に説明していきますね」

 ラミアは紅茶で口を潤してからそう切り出した。

「あ、ここまででなんですけどついてこれてますか?」

 さっき一気に話して行ったからかラミアは俺を気遣ってそんなことを聞いてくる。

「ある程度はな。種族の特徴ぐらいなら何とかなった」

「色々言いましたからね。これからもそういったアドバイスは出来ますので覚えきれてないところはその都度聞いてください」

心の中で「二度手間覚悟で説明してくれてるラミア何者だよ!」と俺は感心した。

 神様に感心するとかおかしいのは分かっているがラミアはどうしても神様に見えないのでどことなく親近感を覚える。

 なお、会ってすぐにここまで俺が距離を詰めれるのはゲームだからだ。通常、今回のようにラミアが話しかけてくれたとしてもここまで行くのに1ヶ月はかかると思う。

 そもそも、そこまでしてくれる相手は友達ではいないので実際のところどうなるかはわかんないんだけどな。

「なんか悪いな」

「いえいえ、迷惑をかけるのはこちらの方なので」

 そういうの諸々含めて、もちろん感謝も含めて俺がそういうとラミアからきっちりプレッシャーのかかる答えが帰ってきた。

 本人はそんなことを考えていないだろうが俺の今までの人生がさっきの言葉を「クリアしてもらうためにも必要なことですから」と解釈してしまっている。

 素直な思いを素直に受け取れていない俺は多分どこかが歪んでいるんだろう…。

「さて、それではとっとと終わらせましょうか」

 その言葉が俺の負の思考の連鎖を断ち切った。

「おう。頼む」

 とっとと終わらせていいものかという思いをいだきながらも説明に集中するために気合を込めた答えを返した。

「さっき説明したことですがここには計7種類の種族が共存していました。どの種族もお互い助け合って生活していて基本的に平和でしたね。そんなある日、魔王率いる魔界の軍勢が攻め入ってきたわけです。世界の一大事とあって各種族は各王を主軸に抗戦こうせんしました。最初のうちは圧勝とまではいかなくても追い返せるほどには優位に立っていたのですが魔界とオーク、オーガ達が手を組んでしまったせいで形勢逆転。一気に壊滅に追い込まれたという訳です。めでたしめでたし」

 全然めでたしじゃ無かった。てか、その状況、現在進行形で進んでいるらしいし。

 まぁ、ひとまずそこは触れない方向で行こう。

「なんでオーガとオークは魔王に手を貸したんだ?」

 とりあえずはこれだ。なんの理由も無しに侵攻目的のやつと手を組もうなんていう物好きはそうそういないはずだ。

「手を貸したのはあくまで一部というか一派なんですけどそこの派閥はどちらも好戦的な感じだったんですね。当然そんな考えは通らない訳でして、今回の魔界の侵攻に乗じて都市の行政を奪う目的だと思います」

 やはり争いが好きなやつはどこの土地にもいるらしい。

 確かにその世界に不満を持つ奴ならこの混乱に乗じて何かをしようと考えるやつは少なくないだろう。実際、現実の歴史にも煽動家せんどうかとかと言った人達は存在する。

 ラミアにしてみたらそれで自分の世界が壊滅しかけてるんだからとんだ迷惑だろう。

 実際そう思っているのかラミアはなかばあきれ顔だった。

「それなら納得だな」

「はい。そいつ等のせいで滅びかけています。結局、滅んでしまえば行政も何も無いのにそれを考えられないなんてブツブツブツブツ…」

 俺がなにかスイッチを押してしまったらしくラミアから愚痴ぐちがどんどん出てくる。

 さえぎるのは躊躇ためらわれるがこのままだと話が進まない。仕方がないがこちらに戻ってきてもらおう。

「ラ、ラミアさーん?」

「あっ、はい。すいません。お見苦しいところをお見せしてしまいました」

 俺がそう声をかけるとラミアは現実に戻ってきた。そして、戻ってくるやいなや恥ずかしさに顔を赤らめている。

 真面目ゆえにストレスも溜まりやすいがこうなったらこうなったで今度は恥ずかしくなるのだろう。

 俺が現実でそんなことを学校でやったら家のベッドでもだえること間違いなしだ。

「大丈夫。この話が一段落したら話は聞くから、今は話を進める事を意識してもらうとありがたいかな」

 それは置いといて、ラミアの苦労はその一端かもしれないがここまでで垣間見ることが出来たので話ぐらいは聞いてあげようと俺は心に決めた。

 もちろん今回だけでなく異世界に行ってからもだ。

「じゃあ、お言葉にお甘えしますね。コホン、それではさっきの続きですが色々あった結果。現在は各都市の王が住んでいる王宮付近以外は壊滅的です。その王宮も時間の問題だと思われます。つまり、侵攻完了の3秒前です!」

「や、やばいな」

「はい、すごくやばいです!」

 ラミアはさっきの事があってか開き直ったらしく堂々としていた。

「自信無くなってきたなぁ」

 俺は救える自信がなくなってきた。だってニートだよ?引きこもりだよ?ゲーマーだよ?普通の人よりも下なのに普通の人ができないことなんて…。

 まぁ、当たって砕けろだ。

 俺は開き直った。だってもう何がなんだがよく分からないんだもん。

 ふと俺の目が視界の隅にある時計を認識した。時刻は18時もうすぐ夕食だ。俺の家は19時夕食と決まっていて間に合わないとお袋に無茶苦茶怒られる。

 それはさすがに嫌だ。なのでとりあえず異世界に飛ぶだけ飛びたかった。

 優先順位が完全に間違っていると冷静に見たら分かるだろうが俺はそこまで思考が働かなかった。

「とりあえず、向こうに行きたいんですけど…。あ、お話は向こうに行ってからでも聞けると思うからそこで聞くってことで」

「あ、はい。そうですよね」

 ラミアも話が長くなったと感じたのかせかせかと転送準備と思われることを始めた。

「あ、アバターまだ創ってませんでした」

 そういうとラミアはこちらへ近づいてきた。

「そう言えばさっきゲーム内でのステータスに合わせるって言ってたけどどうやって創るんだ?」

「魔法で正確には魔法を構成している魔粒子で解析させて頂いて神にのみ許される命の創造をします。今回の場合は中身が空なんですが…まぁ、そんな感じで創って行きます」

 原理は詳しくは理解できなかったがようは神様のチートを使うということらしい。

「とりあえず頼む」

「はい」

 次の瞬間ラミアから緑色の光が放たれた。

 これが魔粒子というもののようだ。詠唱は行っていないからこれは術の部類に属さないんだろう。

「はい。終わりました。肉体の方は地上の方に形成済みです」

 ラミアがそういうのに合わせて緑の光が霧散した。

 かかった時間は数秒程だ。今回の場合はコピーだからかもしれないがこの一瞬で仕組みが複雑な生物を創り上げてしまうのは神業だと思う。実際ラミアは神だから神業という表現は間違ってないんだけど。

「ついでに装備の方も造りますね」

「助かる。防具は要らないからとりあえず片手剣を造ってくれ」

「分かりました」

 そのままラミアは装備のほうの製作に取り掛かった。再びラミアを魔粒子が包み込む。

 次の瞬間前にかざされたラミアの手のところに次々と魔粒子が集まり、やがて剣へと変わっていく。

 こちらも数秒ほどで完成した。

「とりあえず材料がないので魔粒子を使いました」

 ラミアはそう言って緑色の剣を俺に差し出した。物質を創造して作ればいい気もするがなにか他にも理由があるんだろう。ほら、神様に定められたルールとか。

「ありがとう」

「いえ」

 剣は結構軽かった。渡したのは重さとか形とかそういった確認のためだろう。

 俺の装備している剣の形を元にしているのか長さなどの見た目は色を除いてほぼ一緒だった。

 特に問題は無いので俺はラミアに剣を返す。

 すると、ラミアは何やら詠唱らしきものを始め、それが終わると剣が消えた。

 詠唱の方は全く聞き取れなかった。あれ何語?

「それでは輝人さんを地上へ転送しますね」

「分かった」

「最後にですがこれからゲームを始めるとこの世界へ転送されるようになるのでそこ気をつけてください。あと、ログアウトの場合は私に言っていただければ取り掛かりますのでその時は言ってください」

「ああ。分かった」

 俺が了解を示すとラミアは先ほどと同様に詠唱(多分あってる)を始めた。

 次の瞬間俺の目の前は再び真っ暗になった。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る