第5話 異世界で出会うヒロインは基本可愛い 1

 俺は真っ暗闇の中をグルグルと体が回転しているのを感じながら進んでいた。

 正確には吸い込まれているといった感じだ。

 どうでもいいことだが周りが暗くて何も無いと目はまわらなようだ。ゲーム内でも目はまわるのだがそういった現象は景色がないと起きないらしい。

 そして、ドラム式だが洗濯機の中はこんな感じなんだろうなと感じていた。

 ほんとに洗濯物になった気分だ。これは貴重だ。普通できない。いや、やろうと思うやつがいないの間違いか。

 数秒後、俺はある部屋の中に立っていた。

 白を基調とした部屋なのだが家具などは一切置いていなかった。目の前にドアがあるだけで窓すらもない部屋だ。

 どうやら俺はここまで飛ばされたらしい。その証拠に足元に魔法陣らしきものが書かれている。俺はその上に見事召喚されたわけだ。

 俺はいまいち状況を理解できずにいた。これは雷龍のクエストの続きなのだろうか?

 とりあえず運営に聞いてみようとアイコンを開いたが繋がらない。いっそログアウトしようかとも思ったが反応しなかった。

 なんかこういうことが起こったアニメを見た気もするがここは現実だ(正確にはダイブ中だから仮想空間だけど)。

 落ち着いてまず人を探すことにした。

 いるかどうかは分からないがとりあえずだ。

 そう思ってドアを開けると広いリビングみたいな部屋に出た。

 ここも白を基調としているのだがさっきの部屋と違って家具が置いてある。近づいて見て見てもほこりをかぶっていないので人が住んでいるかもしれない。

 まぁ、この場所に埃が存在しているのかわからんけど。

 リビングには窓もあるが外は真っ暗だ。

 部屋の2面が全部窓みたいな感じになっているがそこからは建物ひとついや、明かりひとつも見えない。それでも部屋の中は明るいので不思議なものである。

 カチャン

 窓の方から物音がした。

 少し怖くもあったが埒が明かないので俺は窓の方へ近づいていく。

 すると、窓の外はバルコニーになっていた。俺は窓を開け、バルコニーに出た。

 え?

 周りを見てみるとヘッドフォンを付けて白いカップを口元へ運んでいる女の人がいた。

 女の人は肩まである真っ白い髪をしていて顔は童顔だ。服装は白いワンピースでこれに麦わら帽子を被せたらテンプレの完成といった感じだった。

 それにしてもここにはヘッドフォンが存在しているらしい。白龍物語ではそんなものはなかった。ならここは白龍物語の中ではないのだろうか?

 相手の方は目をつむっているせいでこちらには気づいていないらしい。

 ティータイム中みたいなようだが(こんな優雅なティータイムはアニメの中でしか見た事がない)かなり不安になってきている俺は一刻も早く自分の置かれている現状を知りたかったので話しかけることにした。

「あのぉー、少しお聞きしたいことがあるんですが」

 ヘッドフォンをしていてこちらの声が届きずらいと思ったので俺は近い距離から大きな声でそう聞いた。

「ふえ!?」

 がっしゃあああん

 彼女はよっぽど驚いたらしく椅子とともに後ろに倒れて行った。

「大丈夫ですか?」

 俺は慌てて駆け寄った。やっぱり急に声をかけるのは良くなかったようだ。

「ええ。特に怪我はしてないようです」

 彼女の方はそう言って、自分と一緒に倒れた椅子をなおしていた。

「それで私になにか御用ですか?」

 服を軽くはたいて一段落したのか再び椅子に座り彼女は要件を聞いてきた。

「ここはどこですか?」

 俺も気を取り直して質問をした。

「ああ、この場所ですか。ここは空間の狭間です」

「は?」

 あまりに意外というか理解が追いつかない答えに俺の返答は失礼なものになってしまった。

「あのぉ、もう一度聞きますけどここはどこですか?」

 聞き間違いの可能性も考えた俺は再び同じ質問をした。

「さっきお答えした通り空間の狭間です」

「・・・・・」

 俺は絶句した。正直言おう。こんなの現実でありえるはずがない。

 しかし、このままでは結局何の解決にもならないのでとりあえずここが空間の狭間だと納得して(一切納得できてないし、そもそも何かすらわからないけど)話を進めることにした。

「俺、気づいたらここにいたんですけど」

「あら、ここに迷い込む人なんて皆無なのに。今日はとっても珍しい日なのですね」

 そんな事俺が知るわけないが彼女いわくここには人がめったにこないらしい。でも、見渡す限り何も無いから当然かもしれない。

 俺はひとまずここまでどうやってきたのかを説明した。ここにいる人なら解決方法を知っているだろうし、それにはまず現状に至るまでを報告した方がいいと思ったからだ。

 彼女は随分親切な方らしく真剣に自分の話を聞いていた。

「と言った感じなんです。どうしたらいいですか?」

 一通り話し終えた俺は再び彼女の方を見た。

 すると何故か彼女は汗をかいていた。

 俺は不思議に思いながらもどうしたらいいんですか?と再び聞く。

 彼女は言いたくなさそうな感じだったけど仕方なく言うことを決めたようだ。

「あのぉ、その事についてなんですけど。それ私のせいなんです!」

 後半やけになったのか彼女の声がひときわ大きくなった。

「え?」

 俺は普通に驚いた。が彼女がここの住人で俺がその家の一室にいたことを思えば納得できなくもない。まぁ、それはここで魔法とかといったたぐいのものが存在することをを信じた前提で成り立つものなんだけど。

「申し遅れました。私はラミア。ここで女神をしております」

 俺からの反応が全くないからか落ち着きを取り戻した彼女ことラミアはそう名乗った。

「お、俺は若竹輝人です」

 つられて俺も自己紹介した。

 それにしても彼女は女神なんですね。ここまで予想外の事が起きすぎて俺はあまり驚けなかった。なんかもうなんでもありなのではといった心情だ。

「輝人さんですね。私のことはラミアと呼んでください」

「え?女神なのに呼び捨てでいいんですか?」

 彼女からラミアと呼んでくれと言われたが女神も神様だよね。呼び捨てにしたら天罰とかくだってしまうんじゃないかな。

「私自身が許可していることなので大丈夫ですよ。他の神がとやかく言おうが問題無いですし。あと口調も敬語じゃなくて大丈夫です」

 天罰関連でビクビクしていた俺を安心させるためか彼女はいや、ラミアはそう言った。

「じゃあ、ラミアと呼ぶな。まぁ、色々聞きたいことはあるけどまず最初に俺は呼び捨てでタメ語なのにラミアは敬語でさん付けなのは女神の立場としていいのか?」

 女神にタメ語でと言われたので一応タメ語で話しながらも俺はそう聞いた。

 確かに現状を把握するための質問は大切だ。聞くべきことも沢山ある。でも、目の前に生死の関わる問題があったらそっちが優先になるはずだ。

 ラミアのミスみたいな感じで天罰来たら嫌だし。

「ああ、大丈夫ですよ。このしゃべり方はもう癖づいちゃってますし、私はあなたにお願いごとをする立場なので」

「とりあえず納得した」

 これでひとまず命は確保された。

 神として人に敬語で接するのは威厳というかそういった感じのものが崩れ落ちてしまうようにも思えたがそこはとりあえず保留にしておく事にした。

 

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