第3話 ゲームにバグはつきもの 3

ヴオオオオオ

 金色へと全身の色が変わった雷龍の鳴き声が広場に轟いた。

 それに合わせて快晴とまではいかないが霧が晴れてそれなりによかった天気が黒い雲に覆われていくことで悪くなっていく。

 さっきの攻撃の上位互換がくると俺は思い身構えたが意外にもゴロゴロ音がなり雲が光るぐらいで雷は落ちてこなかった。

 俺は雷龍が覚醒したことによるステージの変化だと納得した。

 ラスボスがさらに強化されることによるステージの変化はよくある事だ。

 ステージ変更も終わったことだしこれからが本番だろう。

 俺は集中力を高めた。

 雷龍が黒雲のところまで飛び上がった。

 ビュオオオオオ

 それに合わせて風圧が押し寄せてくる。

 さっきよりもすごくはなっているがあまり邪魔にはならない。

 雷龍の前足に電気が集まりバチバチと音をたてる。

 前の状態でいう前足の攻撃が2本に増え、突撃が追加されたといった感じだろう。

 ここまでくるともはや別技か。

 そんなことを考えながらも俺は意識を雷龍の方に向ける。

 かなりの電気が足に集まったところで雷龍がこちらに向かって突撃してきた。

 俺は雷龍が突撃をはじめた瞬間、神速を発動して真っ直ぐ(この場合だと雷龍が突撃してくる方向)走り出す。

 この場合だと空中からの突撃なのでぶつかることは無い。

 電撃が広がる範囲が分からなく、できるだけ距離をとりたかったので最短で行けるルートを選択したのだ。

 神速をギリギリに発動したのはMPの消費を極力抑えるためである。

 俺が元いた場所から20メートルは確実に離れたところで後ろを振り返った。

 どごおおおおおおん

 そのすぐ後に雷龍が地面に突撃した。

 衝撃で地面が少し沈み、砕かれた地面が周りに飛び散っていく。

 それと共に地面が黄色く光った。

 さっきの攻撃とは威力が全然違った。

 多分あれが直撃したらHP全部もっていかれるだろう。

 雷龍は攻撃が不発と気づくや否や俺を探し、見つけると咆哮を放つ準備をした。

 念のために再び神速を発動させた俺は直ぐに回避行動に移った。

 さっきは5秒ほど時間を要した咆哮は今度は2秒ほどで放たれた。

 バチバチバチバチ

 今度は右から左に咆哮が放たれる。

 円形の広場に沿って走っていた俺は直ぐに追いつかれると判断し、上に高く跳んだ。

 そのすぐ後に体のギリギリ下を咆哮が横になぎ払われて行った。

 咆哮の周りに放出されていた電気に少しあてられたがその先の行動に支障はきたさなそうだ。

 俺はそのまま着地した。

 ここまで避けに徹して変化したであろう雷龍の攻撃を見てきたがさっきよりも断然に隙が少なく、持久戦での武がより悪くなっているのは明らかでしかない。

 一気に押し込みたい所ではあるがそれにしても次の攻撃に入るまでが早くなっているので厳しいと思う。

 一撃、悪くても3回で削りきれるほどの威力がある技で行くしかないようだ。

 俺はソードスキルを覚醒させることを決めた(ソードスキルの解放を極めると覚醒という次のステージに進める。なお、上位のドラゴンでつくった武器のみ)。

 そんな強い技があるならたくさん使えばいいじゃん。と思うかもしれないが覚醒はMPとスタミナの持っていきようがエグいのだ。

 残りのMPは約半分でスタミナは3分の2ほどなので持って5秒から6秒が限界だろう。

 完璧な状態でも15秒が限界なのでいざという時にしか使えない代物だ。

 覚醒にあわせて鱗の方も取れていたので防御の方は低下しているだろうから数発で削り取れるには取れるだろう。

 確証はないが失敗するとスキル無しでの対峙となるので負けは確実だ。

 今回の賭けは今まで以上に綱渡りなところがあるのでそれぐらいの気持ちじゃないもやっていけない。

 そして、この技にはもう1つの問題点がある。

 それはために必要な時間だ。覚醒には溜に5分を要するのでそこら辺も含めてよりリスキーになっている。

 咆哮も途切れ、雷龍は次の攻撃に入ろうとしていたので俺は腹を決めた。

「ソードスキル、アウェイク」

 そう言うと同時に俺の剣が解放のとき同様青白く光り始める。

 ギャオオオオオオオオオオオオオオオ!

 さっきとは違う声で、またさっきよりも長い雷龍の鳴き声が響いた。

 それに反応するように上空の黒雲がより一層ゴロゴロと音をたてる。

 どうやら雷が降り注ぐさっきの攻撃と似たものが来るらしい。

 俺がそう考えた直後、一斉に雷が地面目がけて降り注いだ。

 俺は降り注ぐ雷をさっきと同じ地面からの青白い光を元に少しずつ前に進むようにして避けていった。

 後ろに回避をとらないのはそこが雷が落ちてくるポイントになっているか分からないからだ。

 さっきよりも雷の量が明らかに増えていて回避できる場所が少なくなっているので神速を使ってらくをしたいが覚醒のために我慢だ。

 さすがに死ぬ。みたいな時はやられたら元も子も無いので仕方なく使うが今のところはステータスを高くしたおかげでなんとかなっている。

 この攻撃が数分間続いてくれれば5分凌ぐのがある程度楽になるんだがそうはいかないだろう。

 予想通り雷龍は雷が降り注ぐ中、次の攻撃に入った。

 といってもその場から動いた訳ではなく体が雷を帯びていくと言った感じだ。

 今まで流れるには流れていた電流が見える化したのだろう。

 バリバリバリバリ

 と空に向かって(正確には黒雲に向かって)雷龍が雷撃を放った。

 黒雲は雷撃を受けたことでより活発になり俺の頭上で黒雲がぐるぐると渦巻きはじめた。

 とその瞬間俺の居る位置をほぼ中心として広い範囲で地面から青白い光が放たれた。

 ここ一帯に強力かつ広範囲の雷撃が落ちることは容易にわかったので回避行動をとる。

 俺は回避行動をとり始めてすぐ間に合わないことに気付き仕方なく神速を発動し、一気に範囲の外まで駆けた。

 ゴロゴロゴロゴロ ドゴォン

 青白く光る地面を抜けた後すぐ空から巨大な雷が降ってきた。

 雷というよりは電気タイプのビームだ。

 耐雷性を強化しているにも関わらず雷撃の纏う電気の余波で少しダメージをくらった。

 少しクラっときたが俺はそのまま雷撃から距離をとるように移動した。

 といってもまだ雷の降り注ぐ攻撃は続いているので一直線ではなくジグザグにだ。

 ある程度距離を確認して後ろ、つまり雷撃があった方を見た。

 さすがにもう雷撃は続いていなかったが落下地点と思われる場所は黒く焦げ、煙が何ヶ所からか上がっていた。

 覚醒したことで雷を遠距離からでもある程度操作できるようになったと俺は推測した。

 それにしても 耐雷性を強化してあれなのだ。もろに当たっていたら確実に死んでいただろう。

 溜ににいる時間は残り3分程だ。

 さっきは神速を使ってしまったがここからは覚醒を少しでも長く使いたいので多少のダメージは大目に見ることにした。

 さっき俺がいたところの黒雲はもう渦巻いてはいず、今度は雷龍自身の頭上で黒雲が渦巻いていた。

 とそこで雷龍に向かって雷が落ちた。

 さっきよりは大きくないが今も降り注いでいる雷に比べると2倍から3倍ほどの大きさだ。

 バリッバリバリッバリバリバリバリ

 すると今度は雷龍の周辺にしきりに雷が流れはじめた。

 それに合わせてより雷龍が輝いて見える。

 次の瞬間今までとは比にならないスピードでこちらに向かってきた。

 俺は慌てて左側に跳躍して5メートルほどの距離を置く。念のために着地後直ぐに俺は走ってさらに距離をとる。

 俺の居た場所まで来た雷龍は振り上げた片方の前足を地面に振り下ろす。

 バチバチバチ

 さらに地面にあたると同時に半径5メートル程に雷が吹き荒れた。

 雷龍と10メートル程は離れていおかげで5メートル以上は確実に離れていた俺は放電に巻き込まれなかった。

 余波はきたがその程度で済んだ。

 さっき雷龍が自分に雷を落としたのは自らの速度と体に流れる電気の量を増やすためのものだったらしい。

 攻撃する度にあれぐらいの雷が来るとすると覚醒でごり押すためには体力の温存も必要なようだ。

 数秒後こちらに狙いを定めた雷龍が再び向かってくる。

 さっきは速度が上がっていることに驚いて回避に入るまでに少しラグがあったが今回は来ると思うやいなやすぐに回避に移った。

 雷龍はさっきよりも攻撃と攻撃の間が短くなっていた。これもさっきの技の効果だろう。

 バチバチバチ

 再びの雷龍の攻撃。

 距離的にはさっきより10メートル以下という近い距離だったが早めの回避のおかげで当たることは無かった。

 続けて同じ攻撃が2回、3回とくる。

 俺はそれを全部避けきった。

 時間にして10秒弱。スタミナが尽きるんじゃないかとだんだん心配になってきた。

 突撃をやめた雷龍の周りに今度は何本かの雷の槍が形成されていく。

 そして、数秒後一斉に俺の方を目がけて飛んできた。

 俺は雷の槍を形成している間も雷龍から距離をとるように走っていたので槍が来るまでに時間があったが、速度は雷だ。一瞬で近づいてきた。

「うぉっやべ…」

 ドゴォン、バリバリ、ドゴォン、ドゴォン、バリ、バリバリ

 スキルなしでは当然どうにも出来ないので俺は神速を発動して全力で走った。

 その判断がよかったのか直撃することは無かった。

 何発かかすったり、被弾後の放電を何回かくらいながらも俺は無視してとにかく走った。

 音から槍の攻撃が終わったと判断して俺は神速を解除し、雷龍の方に向き直った。

 放電とかを何回かくらったせいか体から少し電気が放電されていた。

 麻痺はしてないことから雷系の攻撃で受けるダメージが上がるものと判断した。

 覚醒までまだ2分は確実にある中、雷龍は続けて前足に電気を集めはじめた。

 突撃攻撃だろう。

 俺はそこでもう雷が降っていないことに気がついた。

 さっきから威力が高い技ばかりに気を取られていたので気づけなかった。詳しくはわからないが雷の槍の時にはやんでいただろう。でなければ今頃、雷が直撃している。

 それにしても雷がやんでくれたことはありがたい。もう一度発動ということもあるが少しの間でも無くなれば意識を完全に雷龍に向けられる。

 それはスキルなどといったものの温存や覚醒までの生存率の上昇にも繋がるから嬉しい。

 そう思いながらも俺は雷龍の攻撃を回避した。雷龍がこちらに向かって地面を蹴ったのと合わせてこちらも回避に動いたので5メートル程の放電範囲からもスキルを使うことなく避けれた。

 続けて2発、3発と同じ攻撃が来るが周りに意識を割かなくてよくなった分、回避にさっきよりも余裕が出来た。といっても攻撃に転じられるほどのものじゃないけど。

 雷龍の方も当たらないと覚ったのか今度は雷龍の周りに電気がしきりに流れる。

 直感から俺は雷龍から離れるようにして駆けだした。

 バリ、バリバリバリバリ、バリバリバリバリ

 数秒後、雷龍の周り10メートル以上に渡って放電が起きた。

 「あ、危ねぇ。」

 直感が当たってくれたおかげで何とかなったがこれは完全に初見殺しだろう。

 当たりはしなくても放電によって地表が砕けて平らじゃなくなっている。

 (タチ悪いな…)

 これが俺の正直な感想だった。

 雷龍は再び前足に電気を集めて突撃してくる。

 俺はそれをさっきまでの走り主体ではなく、大きく跳ぶことで回避をした。

 でこぼこになった地面を走るよりもジャンプしながらの方が速く移動できるだろうという俺の判断だ。

 走る時よりも直線で移動できないジャンプは距離をとるのに時間がかかるが雷は相変わらずやんだままなので回避はできる。

 数発また同じ攻撃がきた後、俺が雷龍と正面から向き合うようになったところで今度は雷の咆哮が放たれる。

 俺は咆哮が発射されるまでの時間で雷龍の正面から縦横どちらの咆哮にも避けられるよう右上に向けて思いっきり跳んだ。

 ここまでの攻防で約3分程。溜の時間が半分を切った。

 あくまでも感覚なので正確ではないけれど5分経てば視界に使用可能のアイコンが出てくるのであまり問題ではない。

 ここまで様々な攻撃を対処してもまだアイコンが出ていないことからかなりスピーデイーだったのだろう。

 着地後、さらに距離をとるように跳んでいた俺はある程度距離が取れたことを確認して移動をやめた。

 バチバチバチ

 咆哮を放ち終わった雷龍の周りに再び雷の槍が形成されていく。本数は10本弱といったところか。

 俺の感覚だが雷龍との距離は30メートル前後だ。がこの攻撃に関しては距離は意味をなさない。近かろうが遠かろうがスキル無しでは発射されたと認識してから避けることは不可能だ。神速を使っても危うかったから確実だ。形成から発射まで10秒ほどなので俺は10秒と同時に跳ぶことにした。

 とりあえずだが俺は狙いを完全に定められないように走る。あんまり意味は無いだろうがとりあえずだ。

 そして、体内で10秒数え終わると同時に高く跳んだ。

 ドゴォン、ドゴォン、バリバリ、ドゴォン、バリバリバリバリ

 そのすぐ直後、雷の槍が一斉に発射された。正確には着弾が同時じゃないので少しずらしているんだろうが正直言って槍を目で追えないので分からない。

 直撃は避けたものの放電はしっかりとくらった。

 HPがここまでで3分の2程になったがまだ許容範囲だ。

 それより、直撃してないのにそこまで削られるって恐ろしい。

 なんとか着地した俺は雷龍と再び向かい合った。

 













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