第10話 世界


プレゼントボックスの中には私の現状と謝罪を記したメッセージカードとアイテム、いくばくかのゲーム内マネーが入っていた。

「リオ、これ読んでみて。分かる?」

「どれどれ? ……うーん、なるほどね。ちょっとネタバレも入ってるし、初心者さん向きの対応ではないかもね、これ」


私は金貨の入った袋を抱えて、ベッドに座った。

「どういうこと?」

「えっとね。簡単に言うとリコは今普通に遊べる状態ではないので、対応できるようになるまでしばらくお待ちください、って感じかな。そのカバンはアイテムボックスの代わりで見た目より多くの物が入れられる。たぶんNPCの行商人とかが持っているやつと同じだね。それを使ってくださいって」


「へえ。……ほんとだ、入った」

「うん。メインストーリーも進められないからそこで得られるアイテムもカバンに入ってるって。いやー、どうなのかなそれって。あたしなら「ああ、はいはい」ってなるけど。うーん」

リオがなんか代わりに怒ってくれているみたいなので、私は逆に冷静になれた。


私はカバンの中をガサゴソとまさぐり、色とりどりの卵のようなものを取り出す。

「これは?」

「……うわっ、そんなものまで。えっとね、ヤオヨロの卵。アイテムに精霊を宿らせられるものなんだけど、ひとりのプレイヤーにつき一つしか持てない貴重なものだから、宿すアイテムは慎重にね」


感慨深げにリオは言う。私はリオの反応が面白くなって、さらにカバンをまさぐる。

「じゃあ、これは?」

「……あちゃー、それ恋神の実じゃないの。好きな神様のひとりをたぶらかしてその力を自身に宿す便利なアイテム。それもひとりのプレイヤーにつき一柱神にしかモテないから、神様選びは慎重にしないとね」


ふんふん。浮気はだめってことね。じゃあ。

「これは?」

「……」


リオが押し黙る。何かものすごいアイテムなのかと思ったら。

「リコ」

「うん? なに?」


むにむに。私はほっぺを両手で揉まれた。

「あうあう」

「……あたしがネタバレしてるじゃないのー!」


あ、ばれた。私はリオの表情がくるくる変わるのを楽しめただけで、とても満足していた。

「ちなみに、これはなんだったの?」

「それは……言っていいのかな。それは七言の短冊。どんな願いも叶えられる最強のアイテムなんだけど、七言っていうのが食わせ物でねー」


「なにそれ、面白そう」

「うん。漢字を使えたらいいんだけど、私たちが使う場合はひらがなで七文字なの。神の言葉を使えばたいていの奇跡は起こせるんだけど、それは大体実現可能なものだし。まあ、人柱待ちかな。ほとんどの人は使わずにとってあるはず。だから別名「アイテムボックスの肥やし」」

「あはは」


うん? まてよ。だとしたら……。

「これを使えば、私の呪いも、解けるんじゃない?」

「あー、どうかな。……うん、リコがいいなら、物は試し。やってみるのもいいんじゃないかな。短冊に書くときは指でなぞるだけでいいからね」


リオはお母さんみたいな表情になって、私を見守った。

「りょーかい。じゃあ、いくよ。『のろいをといて』っと」

願い事を書いた瞬間、短冊が光を発し――何も起こらなかった。


「どう? インターフェースは開けるようになった?」

私はリオがやるように、空中に手を差し伸べてみたりしたが、特に何も起こらなかった。

「だめみたい。いつもと変わらず。ログアウトは普通にできるのになあ……」


私は愚痴ると、短冊を見た。さっき書いた文字は消え、短冊自体に変化は起きていない。

「へえ。願いが叶うと短冊は消えるって聞いてたけど。ってことは、いろいろ試せるかもね」

リオが目を輝かせる。リオが楽しくなると、私も自然と楽しくなる。


「そうだね、いろいろ試してみようか」

『のろいをさぐれ』『ばぐをなおして』『ばぐをつくるな』……などなど、いろいろと試してみたが、結局のところ私の呪いが解除されることはなかった。

そしてもう願い事を108つは試しただろうか。


「あれ、お客さんだ。ああ――」

リオがひとりごちる。いつものタブレット型のUIを開いて対応している。

3分間ほどして、作業を終えたリオが「ふーっ」と息をついた。


「お客さん? 私はひとりで大丈夫だから、行ってきて」

「ううん、違うの。いえ、違わないんだけど、平気。大丈夫だから」

リオの曖昧な言い方に、私はすぐにピンと来ていた。


「もしかして……私にお客さん、とか?」

「え、あー……、……うん、まあ、そんな感じ」

なにそれ。それでどうしてリオが私をかばう必要があるのだ?


もしかして、またあの男か、それに似たような者どもがこの城にやって来たのだろうか。

「リオはここにいて。私が行ってくる」

「いや、ちょっとまっ――」


私は風のように走り、あっという間に城門までたどり着いていた。

門を抜けると景色が揺らぎ、数日前私が入ったときに来た場所に立っていた。

そしてそこにいたのは――羽の生えた子供……?


「あなたが新しい『荒野の主』でしゅか?」






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