第7話 夢の国
それは私がリオと出会う少し前のこと。
新作VRオンラインゲームが出来ると聞いて、飛びついたのがすべてのはじまりだった。
謳い文句は「なんでもできる」「君の選択が世界を変える」。
それは一体どういうことなのか。
成績が落ちないことを条件に親を納得させ独り暮らしを始めた私は、気分転換にとこのゲームをプレイし始めた。
いや、ちがう。このゲームをするために、私はなけなしのお金を使い切ってしまったのだ。
つまり、私にはこのゲームしか娯楽がなかったというわけで。
独り暮らしと勉強の合間を縫って始めた、初めてのオンラインゲーム。
その日のことは、今でも忘れられない。
「よし、キャラ作成おわりっ、ふーっ」
数時間かけて作った我が分身は、満足のいく出来栄えだった。
まあ、性別は違うけど。可愛いからおけ!
『あなたご自身との性別が違いますが、よろしいですか?』
「よろしいです。問題ありません!」
『はい、承りました。では、プレイを開始します。ゲームをご堪能ください』
アナウンスへ返事をする暇もなく、私は世界へ投げ出された。
荘厳な音楽。リアルなグラフィック。そして、視界には、はるか上空から見た世界。
「わあ……」
思わず漏れる声。
買ってよかった、と心から思えた。それほど世界は美しかった。
やがて選択肢が現れる。
『あなたの生まれる世界をお選びください』
ひとつは人間の世界。もうひとつは、それ以外の生き物たちの住む世界。
私は人間のキャラクターを作った。だから住む世界も、人間の世界。
普通ならば、そうするところだろう。
だけど、私はもう一つの世界、というのがどうしても気になった。
一言で言えば好奇心、なんだろうけど。
私はそれ以外の生き物たちの住む世界、の前でどうするべきか考えていた。
そして、それは訪れた。
私は、触れていない。なのに、選択されてしまった。
『はい、承りました。では、プレイを開始します。ゲームをご堪能ください』
「えっ……?」
呆気にとられた私を、暗闇が覆った。
気がつけばそこは、荒野だった。
何もない。生き物の姿も見えない。
あるのは、ただ目の前の世界と、太陽と、裸の私の姿だけ。
「えっ……、えっ……?」
恥ずかしい、と思う暇さえなかった。
がぶり。
何の気配もなく、私の首を何者かがかぶりつき、世界はぐるぐると回転した。
ごきり、という鈍い音がした後はもうなす術がなかった。
私は捕食者にされるがまま、ただ自分が食べられる様子をただ見ていることしかできなかった。
どのくらいの時間が経過したのか。
周囲に生き物の気配がないことを確認した私は、再び活動を開始した。
リスポーン、という言葉の意味さえ私は知らなかった。
とにかく理解できたのは、この世界では私は最弱であること。
そしてまた同じ目に遭うのは二度とごめんだ、ということだ。
そのためには何でもする。今私がしなければならないこと、それは。
逃げることだ。
私は自分の知覚を最大限に生かし、周囲に敵がいないことを確認すると、音をたてないように警戒しながら移動した。
私は眠っていた野生を無理矢理起こして、安全な場所へと避難した。
次に私がしなければならないこと、それは。
食べることだ。
私は無理矢理起こした野生の勘で、自分が捕まえられる生き物を片っ端から捕食した。
音を立てないと、世界の音は私にいろいろなことを教えてくれる。
草木が風になびく音。小川のせせらぎ。そして生き物たちの気配。
強いもの、そうでないもの。そしてその中にいる私。
美味しいもの、不味いもの。良い匂いがするもの、臭いもの。
美しいもの、醜いもの。可愛いもの、恐ろしいもの。
すべて私とともにある。私という存在が、この世界とともにある限り。
ああ、なんて素晴らしい。これがオンラインゲームの、醍醐味なんだね。
数カ月が経過したころ、私はようやく理解していた。
生きるための安全な場所の見つけ方、罠の作り方。戦い方、武器の作り方。
初めて降り立った荒野には、もう私の敵はいない。
すべて私のごちそう、私にとっての遊び場だ。
私は睥睨するすべての存在を屈服させ、今はご満悦だった。
だが、どこか空腹だった。満たされなかった。
私は空腹の原因を探すため、荒野を離れ旅立った。
しばらく行く当てもなく放浪し敵と戦いそれを食べ、お腹いっぱいで休憩していた時のこと。
風の中に、良い匂いが紛れ込んでいた。
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