第6話 カミングアウト


「えー、まず言っておきますけど」

私はもやもやする内心を抑えて彼に言い放った。

「私はチートは嫌いだし、超能力者でもありません。もちろん本当にそういう特別な力が使えたらうれしいけど」


「ふむ、全否定か。あるいは単に自分の力に無自覚なだけか。では、こうしよう」

カイルさんはどこからかカードを取り出し、空中に伏せた。全部で三枚。

「このカードの絵柄が何であるか、当ててみてくれないか。当てたらそのカードを差し上げよう」


しつこいな、この人。私を実験動物か何かだと思っているのか。

「そんな、何にも書いてないカード、私いりませんよ」

「えっ、これプラチナカードじゃないの!!」


リオが奇声を発する。私の声と若干被った。

カードには確かに、なんかごちゃごちゃと豪華な絵柄が背表紙に描かれている。

カイルさんは「ほう」と感心した声をあげてカードをめくって見せた。カードの中身はすべて白紙。


「確かに君の言う通り、これはゲームマスターのみが扱える無銘のプラチナカードだ。少し意地悪をしたつもりだったのだが、見事だ。約束通り、これは君に差し上げよう」

カイルさんは三枚とも、私に差し出す。

いらいらいら。


「いりませんよ、そんなの。それに知らない人からタダで物もらっちゃいけないって、親に言われてますから」

「ええーっ、もったいないよ、リコ。もらっておきなさい!?」

リオがお姉ちゃんみたいな声を上げる。私はリオの背に隠れて、舌を出して見せた。


「嫌。欲しいなら全部リオにあげる。私はいらない」

「ふっ、嫌われたものだな。では、リオ。このカードは君が預かっておいてくれ。リコがいつでもこれを使えるように」

「あっ、はい」


リオが受け取ると、カードは溶ける様に空中に消える。リオのアイテムボックスの中に入ったようだった。ふんっ。

「では、今日のところはこのくらいにしておこう。また日を改めて会いに来る」

「はい、さようならー」


カイルさんの姿がその場から霧散する。

入れ替わるように、システムメッセージが届いた。

『カイルさん(GM)からフレンド申請が来ています。許可しますか?』


拒否します。ぽちっ。

「わっ、カイルさんからフレンド申請来た。わーっ、どうしよう!」

リオの嬌声があたりに響き渡る。彼女は「えー、どうしよう、こまったなー」などとしばし逡巡するそぶりを見せたのち、


「えい、ぽちっ☆」

っと、申請を許可した。

私はじろーり、とリオを見る。


「ねー、リオ。もしかしてリオも、私のこと疑ってるの?」

「うん? んー、困ったな。本当のこと知りたい?」

「うん。正直に言って。怒らないから。私、嘘で傷つく方が嫌いだから」


「そうね、カイルさんじゃないけど。リコが無自覚にチートに手を出してるんじゃないかって、ちょっと疑っちゃったわね。だって今日のリコの射撃、神がかってたもの」

「そ、そう?」

「うん。あとで一緒に動画見てみましょ。ほんと凄かったんだから」


そういわれて悪い気はしない。

「で、リオの疑いは晴れたの?」

「うん。少なくともリコはチートしてないってわかったから、安心した。ゲームが大好きで嘘つく子じゃないっていうのは知ってるからね」


ほっ。ならよかった。

「じゃあ、今度はこっちの番。リオ、何を隠しているの、言いなさい」

「えー……、っと。今日は日が悪いから、リコの機嫌のいい日にまた教えてあげる。ね、そうしましょう、そうしましょう。あ、あはははは」


「私今、機嫌マックス全開元気だから。だから、今教えなさい」

「えー、ぜーったいうそ。今言ったら、絶対怒るから、また今度にしましょう、この話は、ね。そうしましょう」

「うわ、ずるーい。にげるな、こらまてー」


リオが走る。私がそのあとを追いかける。

この日はそうして、幕を閉じた。






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