第5話 GM
声を掛けてきたのは、すらりとした若い長身の男の人だった。
「話の腰を折ってすまない。俺はカイル。このゲームのゲームマスターをしている者だ。実はそっちの……」
「ゲ、ゲームマスター!?」
……ってなんだっけ。
雰囲気から、なんだかとっても偉い人のような気はするけれども。
私の疑問を空気を読んで察してくれたリオがこれに答えてくれる。
「このゲームの管理人の一人ね。カイルさん、はじめてお目にかかります。あたしはリオです」
「あ、なるほど。カイルさんは運営の人なのね」
「その通り。君がリオか、噂は聞いている。運営としても君の存在はゲームに大きく貢献してくれていると聞いている。その点は感謝したい」
なんだか、リオはどうやら有名人らしい。
私は普段のリオしか知らないから、フレンドとしてちょっと誇らしくもあるし、同時になんか悔しくもあった。
「なに、リオって意外と有名なんだね」
私の問いかけに、リオはたらーり、とまた汗をかいた。
「そ、そんなんじゃないけど。まあ、そうでもありますかしらね。お、おほほほほ」
挙動がおかしい。いつものリオらしくない。私に知られたくない一面でもある、ということなんだろうか。
「で、カイルさん。私たちに聞きたいことって?」
「ああ。俺が用があるのは君だ。リコ、と言ったか」
「ほえ? 私のこと知ってるの?」
私には、ゲームマスターの知り合いなんていない。
というか、このゲームにフレンドはまだリオしかいないのだ。
私の問いかけに、カイルさんは大きくうなずいた。
「ああ。先ほどの戦闘は見せてもらった。ふたりだというのに大したものだ。実装して間もないレイドボス相手にあそこまでやるとは」
「そ、そう? えへへ……」
「……」
褒められているようなので、悪い気はしなかった。
でも、リオの浮かない顔が見えて、私は少し不安になる。
そんな私たちの様子にも特に関心を示すことなく、カイルさんは続ける。
「ああ。そこでその件について、リコ。いくつか君に質問がある。正直に答えてほしい。悪いようにはしない」
「うん? はい、構いませんよ」
「助かる。実はさっきの戦闘、最初から最後まで記録させてもらった。それを分析した結果、いくつかの疑問が生まれた」
「はい。なんでしょうか」
「君は分裂したスカイフィッシュたちに対し、タイムラグなしにいともたやすく撃墜している。しかも空中戦闘に適していない対物ライフルを用いて複数まとめて、だ」
「はい。自分でも驚いてます。かなりラッキーでしたね」
私は正直に感想を述べた。
カイルさんは、だがしかし首を横に振る。
「幸運、では説明がつかない。君は小魚のランダム出現位置をあらかじめ予測し、その密集地帯に置きエイムしていたんだ。本来あり得ないことだ」
ほえー、あれランダムだったんだ。それ予測したってことは、偶然にしてはできすぎてるね。
……え、もしかして私って、チートを疑われてるの?
ゲームにチート使うって、私に言わせればありえないんだけど。
「情報漏洩、あるいはチートツール程度では君の挙動は説明がつかないんだ。そこで俺は君の行動に二つの可能性を見出した」
「はい。なんでしょうか」
「君が我々運営の想像もつかない凄腕のハッカーである可能性。あるいは……」
「あるいは?」
「馬鹿げていると思うかもしれんが……君がエスパーである可能性だ」
「……」
さすがに、話がぶっ飛びすぎて私は言葉を失った。
それはリオも同じだったようで、なにやら複雑な顔色をしている。
もしかして、リオ、私がチートを使っていると疑っていた……?
「もし前者なら、俺は君を運営の人間としてスカウトしたい。もし後者なら、君は人類の宝だ。しかるべき対応をしたいと思っている」
「あ、あははははは……」
もう、笑うしかなかった。
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