第4話 告白


「負けた負けたー」

「惜しかったねー、あと少しだったのに」


ふたりでボロボロになりながらの帰り道。

いや、ほんとに惜しかった。本当に、あとちょっとだったのに。

まさか巨大モンスターに見せかけて、実は群体で群れに分裂するとか、あり!?


「それでもあいつらを逃走させたんだから、あたしたち大したもんよ」

なでなで。

リオが私の頭を撫でてくれる。そこで慰められると、余計に悔しさがこみ上げてきちゃうじゃないか。うがー!!


「えーい、くやしいくやしいくやしいくやしい!!」

「はいはい」

せっかく二人で考えた戦い方で、今回も行けると思ってたのに!


「まさか運営、私たちのことどこかでリアルタイムで見てるんじゃないの!? こんなに早くあの戦法が攻略されるだなんて!」

「まさか、それはない、と思うんだけど……」

リオの視線がそれる。うん? この反応は……。


「リオ」

「はい?」

「なにか、私に隠し事してる?」


たらーり、とリオに大粒の汗のエフェクトが流れる。

うーん、分かり易い。

リオは慌てて手を振った。


「た、大したことじゃないのよ、ちょっとした悩み事でね」

「はあはあ、なるほど。まあ、私に直接関係なければ、それでいいんだけど。それってたぶんリアルで個人の悩み事でしょ?」

ネトゲで見ず知らずの他人のことをあれこれ詮索するのは、ネチケットに反する。


「関係ないわけでは、ないんだけれど……」

「おおう……」

でも、リオのリアルに関係していて、ネットのみの付き合いの私に関係のある悩みって……? ……はっ。


ほわんほわんほわん。

『あたし、いや僕。実は……今まで隠してたけど、リアル男の子なの! リコ、大好き。僕と付き合って!!』

『ええーっ、どんびきー(棒)』


……ないわ。

だいたい、今の私の体は男の子だ。男の子のアバ使いに告白する勇者はいないだろう、……たぶん。

その手の噂話は結構耳にするが、幸か不幸かいままで私にはソウイウ浮いた話は一切来なかった。


それにリオが仮に男子だったとしても、正直どうでもいい。彼女の自キャラに対する愛は本物だ。これは私がそうだから断言できる。

だから、もしリオの悩み事が私に関係しているのだとしたら。

もしかして、リアルの用事でしばらくインできなくなる、とかではなかろうか。急な転勤とか、お引越しとか。それは……やだな。


「リコ、泣いてるの?」

「え」

「ほら、鼻出てる」


ふきふき。

綺麗なハンカチでリオが私の鼻水を拭いてくれる。

彼女は本当に、よくできた実の姉のようだった。


「ち、ちげーし! ちょっと寒いだけだし!」

「急に男の子ぶるのやめて、おかしいから」

彼女が笑う。私も笑う。


この時間を、一秒でも長く大切にしたい。

だから、言いたいことがあれば、ちゃんと言っておかないと。

あ。そうだ。


「ねえ、リオ。いいこと教えてあげる。内緒なんだけど」

「ん? なに?」

彼女の顔がこわばる。ん? 私今何かまずいこと言ったかな?


「えっと、あのね」

「うん」

その時だった。


「その話、ぜひ俺にも聞かせてくれないか」

男の人の声が、私たちにかけられた。






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