第3話 銃と剣と魔法の世界
ここは火薬と鉄とエーテル臭漂う別世界。
その中で今、私たちは戦っていた。
「リコ、左っ!」
「おっけー!」
後方に控える相方の魔法使い、リオの指示で私は対物ライフルをぶっ放す。
どおぉぉん。
放たれた質量弾は私の鼓膜とお腹のあたりを震わせたのち、遠くにいるモンスターの群れに大きな風穴を開ける。
あの弾って鉛で出来てるんだっけ、実はよくわかってない。
仕組みが分からなくても銃を簡単に扱える。ゲームって、素晴らしい。
そして今の私、すごくカッコいい。
リオの建てた魔法のお城の天辺。見張り台の上に寝そべり、城内への侵入を感知した彼女の指示で次々近づくモンスターたちを屠っていく。
このゲーム、一人称視点で自分の戦闘シーンはいちいち録画して見ないといけなかったんだよね。
だけど今回のアプデでどうやら三人称視点が導入されたらしい。
キャラの作り込みが細部まで可能だから、唯一の不満点が解消されたことで私のテンション爆上がり。
魔法使いの少女と銃使いの少年の組み合わせ。
作り込まれたふたりのキャラは仲の良い姉弟のようで、とても絵になる。
私のキャラは黒を基調としたいわゆるゴスショタ服を着せた利発そうなお子様で髪の色も瞳の色もブラック。
一方のリオは白を基調としたふんわりロリ衣装に身を包んだお姫様という風体で髪の色は金髪で瞳はブルー。
お互いその繊細な風貌に似合わないごつい銃と杖を振り回す姿は、現実離れしていてこれぞまさに幻想世界の醍醐味。
「だめだ、にやにやしちゃう」
「うん? まだ戦闘中だよ、お楽しみはまたあとで。ほら、またひだりっ」
「あいー」
どおぉぉん。
放たれた弾丸は遥か遠くに見えるモンスターを木や壁ごと貫通して駆逐していく。
隠れていても丸わかり。今の私には彼らの居場所はおろか、一歩先の動向さえ読み取ることができた。ほら、そこっ。
どおぉぉん。
「今日はリコ、なんか調子いいわね」
「えっへへ、まあね」
自撮りの手間とリアルの束縛から解放された今の私に隙はない。
なんてね、本当のところを言うとアバターの思考操作のコツは心と体の衛生面にあるんだと思う。
いつも思っていることだったけど、あとでリオにも教えてあげようっと。
「あらかた片付いた、かな?」
「だと思う。あとはお約束のボスモンスターかな? あっ」
ぎゅおおおお。
空中に、巨大なヒモ状の生き物が現れる。
全長30メートルはあるだろうか。大きすぎて距離感が掴みにくいそいつは、壮大な音楽とともにゆっくりとやってきた。
スカイフィッシュ。外部モニターにそう表示される。
「……一応聞いておくけど、攻略サイト見てきた?」
「まさか。まずは一度戦って、楽しまないと」
「だよねー」
私は対物ライフルの弾倉を交換し、リオは新たな魔法の準備に取り掛かる。
眼前に迫るそいつは、実はとんでもないスピードで近づいてきていたのだとすぐに分かった。
「援護は任せて。今よ、撃て!」
「あいさー!」
どおぉぉん。
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