第9話 レッスン場へ行きました その2
エレベーターで5階へ昇ると、2階より大きな広場に色とりどりのトレーニングウェアを着たアイドルたちが休憩している。そして、その奥には様々な器具が並ぶトレーニングジムが広がっていた。
「プロデューサー、ちょっと行ってくるね」
「あんまり長い時間はいられないからすぐに切り上げられるやつにしろよ」
「はーい、わかってまーす」
ことりはプロデューサーに確認を取ると、真っすぐランニングマシーンに向かっていった。体力が無いと言われたのが気になったのであろう。ことりがトレーニングを始めたのを確認して、未知のものに囲まれてキョロキョロと見渡しているサーシャに説明する。
「ここはトレーニングジム、簡単に言うと身体を鍛える場所だ。体力作りやスタイルの維持、尻や脚といった一部分だけを鍛えたりもできる」
「なんだかたくさん種類があって何をすればいいのか……」
「どう鍛えればいいかの相談や器具の使い方は、みんなとは違うトレーニングウェアを着てジムの様子を見て回ってるインストラクターに訊けば教えてくれる。そうだ、ちょっとアレに乗ってみるか」
指を差した先にはエアロバイクが並んでいた。サーシャがサドルに跨るとプロデューサーはパネルを操作して軽く負荷をかけてから、少しずつ力を込めてペダルを漕ぐように言った。
「歩道を歩いてた時、横を通り過ぎてた自転車があっただろ、あれに乗れるようになると行動範囲がグンと広がる。ここにも一人で来られるようになるだろう……電車も使った方が楽だけどな」
「なるほど、これに乗ることで自転車にも乗れるようになるということなのですね」
「ちょっと漕いだだけですぐに乗れるかどうかはわからんが、何もしないよりは感覚が掴める分上達は早くなるだろう」
(そういえば年齢だけなら車の免許も取れるのか……まずは道路に慣れるところからだけどな)
しばらく漕いだところでサーシャを止めてエアロバイクから降ろす。サーシャは何とも言えない表情で交互に太ももを上げ下ろししている。
「本来は1時間ぐらい漕ぎ続けるんだが、今日は時間が無いから5分だけな。で、初めての自転車はどうだった?」
「なんだか太ももがふわふわとして変な感じがします」
「普段使わない筋肉を使ったからだろうな、何度か漕いでいくうちに慣れてくるだろう。そういえばサーシャ、お前あっちの世界で崖に登ったことってあるか?」
「まぁ何度かは……ドラゴンの巣も崖を登った先にありましたし」
「空を飛べるようにする魔法とかは無かったのか?」
「自分を飛ばす魔法と落ちた時に地面と激突しないようにする魔法はあるんで、私たちが登ってる時に警戒をしてくれてました」
「なるほど……そういうことならちょっとあっちに行ってみようか」
奥の壁に行くと、壁に張り付いた色とりどりの石のようなものを掴んで、天井まで壁を登っている人や、天井からロープで吊られながら降りてくる人たちがいた。
「これは……何をしているんでしょう?」
「えーっと……これはボルダリングと言って安全に崖や岩を登れるようにしたスポーツ……競技? でいいんですかね?」
自信が無かったので、プロデューサーが近くにいるインストラクターに説明を委ねると、彼女は笑顔で答えてくれた。
「ボルダリングはハーネス無しのクライミングなので、この場合はロープクライミングとかルートクライミングになりますね。一度チャレンジしてみます?」
「なるほどねー、というわけでやってみようか」
「わかりました、お願いします」
「中級者向けだとどういうルートになります?」
「そうですね……じゃあ青いホールドだけ使っていってみようか」
「はい、頑張ります!」
説明を受けながらハーネスと装着してもらう間、サーシャは隣で登っているアイドルやホールドを見つめていた。そして準備が完了するとホールドの感触を確かめてから、ゆっくりだが確実に登って行った。
「へぇ……彼女経験者ですか?」
「何度か崖を登ったことがあるそうですよ」
「そういう部活をやってたとか?」
「前職の都合……ですかね?」
その後一度も止まることなく天井まで到達したサーシャは、インストラクターの勧めで、普通に登ったら手が届かないホールドがある上級者向けにチャレンジして、ゴールに到達は出来なかったものの、そのセンスを褒められていた。
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