第2話 天界でお茶会しました
気が付くと花畑の真ん中に立っていた。
天界……神々が住まう場所であり、英雄が死んだのち神に呼ばれて使徒となり、神に仕えて新たな神を目指す場所であると伝えられている。
おとぎ話や神話で聞き、自分がイメージしたそのものの場所に立っていることで、自分が死んだのだということがいやでも実感させられた。
ぐるりとあたりを見回すと自分の背後に白いテーブル、そして白い椅子に座ってお茶を飲んでいる白いドレスの女性がいた。
紫がかったロングのウェーブヘアに優しげな神気と表情、初めて会ったはずなのにサーシャには相手が自分の信仰する慈愛神シルヴェリアであるとハッキリ認識できた。
どうしていいのかわからず立ち尽くしているとシルヴェリアはにっこりと微笑みながら手招きする。手招きに応じ、促されるままにサーシャが椅子に座るとどこからともなく紅茶を差し出しながら優しく語りかけた。
「天界へようこそ我が娘サーシャ、さぁ冷めないうちに飲んでちょうだい」
「はい……ありがとうございます」
緊張しながら紅茶に口をつけホッと一息つくサーシャに目を細めてシルヴェリアは本題に入る。
「あなたが輪廻の輪に入らずここに来たということは使徒となる資格を得たということね……できればもう少し経験を積んでほしかったところだけれど」
「あの……申し訳ありません……」
「ああ、そういうつもりじゃないのよ、運命に抗うことは誰にだってできないわ。それが英雄であろうと魔王であろうと……」
悲し気に碧の瞳を濡らすサーシャをそっと抱きしめ、シルヴェリアは諭すように語り掛ける。
「そう、これはきっと運命なの。あなたが今ここに来たのも復活するための身体がロストして帰れなくなってしまったのも……そ・こ・で☆ サーシャ、あなた試練を受けてみない?」
「試練……ですか?」
「本来使徒になれるのにもう一度転生してやり直しってのもかわいそうでしょ? だから異世界に転生……いえ、その姿のままだから転移かしら? とにかく新たな世界で続きの人生を送るの。大丈夫よ、向こうの神様には話を通してあるから」
いきなり変わった空気に戸惑うサーシャを見つめながら、シルヴェリアは提案を続ける。その表情はそれまでの慈愛に満ちた表情から、乙女のようなキラキラとした表情になっていた。
自分の信仰する女神の意外な一面に戸惑いつつ疑問に思ったことを尋ねてみる。
「先程続きの人生とおっしゃられてましたが、身体はどうされるのですか?」
「こっちの世界のあなたの身体はドラゴンのブレスで消し飛んでしまったから、もう一度産まれるところからしか用意ができないの。でも別の世界ならそこの神様が用意した身体にあなたが入ることで転移することができるわ」
(こっちが本来の姿なんだろうな……)
まだ暖かい紅茶を飲みながら、すっかり気さくに話すようになった慈愛神の話を聞いていた。
「逆に異世界からこっちに来た人も何人かいるわ。身体を作ったのは私じゃないけどね」
シルヴェリアは残っていた紅茶を飲み干すと、サーシャに向き合い改めて尋ねた。
「さて、試練受けてみる? それともこのまま使徒になる?」
「試練……受けさせていただきます!」
サーシャは紅茶の残りを飲み干して、真っすぐにシルヴェリアを見据えて返事をした。
「いい返事ね。向こうで魔法を使うのか、隠すのか、何のために使うのか、その結果どうなるのか、どう生きるのか、全てはあなたが考え、判断しなさい」
「はい!」
「そのままでは色々と大変だろうから最低限の支援はするわ」
「ありがとうございます!」
「いってらっしゃい、あなたを見守っていますよ」
「いってきます!」
そうして再び意識が光の中に消えていった。
しかしドラゴンのブレスと違い、暖かく柔らかい光だった……
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