『後日談』


     3.


 中学生のときの話だ。

 風水水海と岸井美多、小面表子の三人は仲良くしていた。この小面表子と岸井美多が嫌いだった。当時はどうして嫌いだったのかわからなかったが、

 今思えば喋り方や、立ち振る舞いなどが気に喰わなかった。

 どうしてそんなふうに迷惑をかけられるのか。

 どうしてそんなふうに無駄なことができるのか。

 僕の価値観では合致することができず、ただ気に喰わなかった。それは一年生のときからだった。

 この三人のグループと対立する形にあった秋冬春子を始めとする三人のグループ。明確に対立していたわけではなかったが、あいまみえることがないグループだった。

 初期段階から小面とリーダーとして成り立っている小面グループは、随分と敵意剥き出しだった。

 誰に対しても突っかかっていく体制でいた。だから僕は秋冬春子を始めとする秋冬グループと接点を持った。

 三年間かけて、僕は秋冬グループを小面グループと明確な対立関係においた。対立関係におくだけでは、相殺し合うだけだ。だから、周りから力を削いでいくことにした。

 小面グループの人間と仲のいい人間を懐柔した。

 懐柔とまでは言い過ぎだが、なし崩し的に、小面グループと関わらなくさせた。思春期も相まって人間関係に対して過敏だったこともあって、すぐに落ち込んでいき、不安になって自信がなくなっていった。

 これに加えて秋冬グループが勢力をつけた。

 そのこともあって、秋冬グループが優位に立ち、露骨に敵意を持つ秋冬グループは小面グループに対して強く当たり始めた。当初は秋冬春子を除くふたりも加担していたが、いつの間にか離れていった。それでも春子さんによる当たりは続いた。それは次第に苛めになっていき、三人を追い込んだ。

 岸井美多と小面表子は学校からいなくなった。岸井は転校して、小面は引きこもった。

 残るは風水水海だけだったが、元々風水水海を僕は嫌っていなかったので、秋冬春子と風水水海の間に這入って仲を取り持った。

 高校一年生のときの話だ。

 太田時勇という奴がいた。中河友二みたいな奴だった。嫌いだった。こうして考えれば岸井美多、小面表子、多田時勇、中河友二は一致している。

 ともあれ、太田時勇について。

 こいつは授業中にキレて殺人未遂になって退学になった。

 元々些細なことでキレる奴だったので非常に扱いやすかった。陰口を言われている。悪口を言われている。そんな噂を流して軽いノイローゼ状態に陥らせた。ちょっと笑われただけでも、キレるほどだった。だから度々キレていたのは確かだった。

 キレることに慣れ始めたとき、授業中にキレた彼を見ても、みんな『ああ、まただ』と教室内の各所で嘲笑われ始めた。

 それがきっかけで、目についたであろう人物に殴りかかって首を絞め始めた。こうして彼は退学となった。

 そして今回の一件。りりすちゃんや衣織せんぱいが言ったことで間違いはない。

 自殺志願、希死念慮、好奇心。

 死にたいと思い詰める自殺志願。

 死にたいと曖昧に思う希死念慮。

 死に向けられる思春期の好奇心。

 ここにかてて加えて、七不思議、殺人方法、殺害動機が与えられた。

 殺人の見立てとなる七不思議。

 見立てが再現できる殺人方法。

 人殺しに必要となる殺害動機。

 これらが相まって、この一連の事件が起きた。偶然上手くいっただけだ。実際に五百人近くの生徒がいながらにして、発端となった事例はふたつだけだ。

 しかも、新しく根を張って上手くいったのはひとつだけで、ふたつ目のほうに関しては過去に張った根が偶然芽を出したに過ぎない。

 別に操っていたなんてことを豪語するつもりはない。ただただ、偶然が重なりやすい環境を整えていたら、偶然が重なったというだけのことである。

 県立桜庭谷川高等学校連続殺人事件。

 これは僕が在学している高校で、十月から二月にかけて起きた殺人事件である。

 事件を終えた今だからこそ思うのは、あの事件は様々な偶然が、数奇な運命の元で絡み合っていたからこそ起きた事件なのだと。僕は思う。

 やっぱり、平和が一番だ。



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