第41話『きみの答えを聞かせてほしい』


     3.


 秋冬春子、宝籤甲斐、廿日十夜、般若亜紀、鎖理りりす――そしてこの僕、定刻刻樹がこの事件における容疑者だ。

 もっと候補を広げると辻井教頭、大西先生、三ツ木先生の三人も容疑者に含まれた。

 風水水海を殺すことは誰にでもできることだ。

 誰だって体育館の窓を開けておくことはできるし、誰だって足場を確保して風水水海を移動させることができる。

 だが、今回の件からりりすちゃんが容疑者としてピックアップをしたのは僕を含めた中学校が同じだった五人だ。

 僕は教員でさえ容疑者のひとりではあると思ったが、りりすちゃんはそれを候補には含めなかった。僕はりりすちゃんの考えを尊重することにした。

 だから僕は、四人に絞った。

 秋冬春子、宝籤甲斐、廿日十夜、般若亜紀。

 この四人を疑うことにした。

 省いている定刻刻樹と鎖理りりすも容疑者として十分だ。

 定刻刻樹に風水水海を殺すことは可能だろうか。

 もちろん可能だ。

 犯人に対して糾弾した半法方法を、僕は実行することができる。だが、僕が犯人である可能性は、僕が被害を受けたことが否定している。捉え方によっては、僕自身が自作自演をしたというものだが、それをしていないのはほかならぬ僕自身が知っているし、更に僕が受けた攻撃を調べてもらえば、自分自身でどうにかできるものではないことが明々白々と明らかになるはずだ。

 だが、完璧に否定する術を持っていない。

 僕が説明できるのは僕が被害者であるということだけで、風水水海を殺していないことを証明することはできない。

 鎖理りりすに風水水海を殺すことは可能だろうか。

 もちろん可能だ。

 犯行方法はどうであれ、上述の同じことで成立する。しかし、僕を含めて、りりすちゃんも犯人である可能性は低いだろう。

 いや、低いも何も犯人ではないことはよくわかっているのだけど――あくまで客観的な視点から、だ。

 彼女が犯人である可能性が低いのは、何たって探偵気質として今回の事件に対して向き合っていたことにある。とはいえ、そんな表面上だけの情報なんて一蹴することが容易である。

 だが、彼女は僕と同じく被害者だ。

 自分自身で意識不明の重体にまで追い込むなんて不可能だ。一応考えられることとして挙げるのであれば、僕とりりすちゃんが揉めて、そして双方が怪我を負って池に沈んでしまったというものである。

 まあ、この可能性は零だ。

 何故ならば、りりすちゃんの身体が引きずられた跡があったとのことだ。

 まだまだ思考に抜かりがあるが、それくらいにこの事件は誰にでも完遂できる事件ということだ。

 あくまで一般人でしかない僕に犯人を特定する術はない。

 推理なんて、ろくにできない。

 だから僕は考えた。

 僕とりりすちゃんの敵を討つために。

 犯人を討つための方法を。

 犯人を特定できずとも、犯人を浮き彫りにさせる方法を。

 それは。


 容疑者を全員呼び出すという手法だった。


 各々別々に呼び出して、犯人に対して糾弾しているようにも、ほかの関係者に協力を要請しているようにも聞こえる言い方を、秋冬春子、宝籤甲斐、廿日十夜、般若亜紀の四人に対して行った。この中に犯人がいたならば、自分のことを言われていると思って、何かしら普通ではない行動を起こすはずだ。

 もし起こさなければ、僕の言葉は犯人に行動を起こさせられるほどのものではなかったということだし、あるいは犯人がいなかったことになる。

 駄目元だった。

 駄目なら駄目でいいし、上手くいけばそれでいい。

 そう思っていた。

 どうであれ、結果が出るのは翌週の月曜日だ。

 土曜日曜と過ごして迎えた月曜日。

 結果は出た。

 その結果。

 上手くいった。

 四人の中にいた犯人は行動を示した。

「…………」

 月曜日。

 体育館の脇にある池は凍っていた。

 それも真っ赤に凍っていた。

 手首を切った人物が溺死していて、血だまりとなった池は凍っていた。


 ……これが犯人の返事。

 僕の言葉に対する返事。


 桜庭谷高校で起きている連続殺人事件、五件目の犠牲者は秋冬春子だった。彼女は無残な死体となって、体育館脇の池から発見された。



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