第40話『稚拙な推理と幼稚な犯罪』


     2.


 この翌日、十三日金曜日。

 僕は学校に登校した。

 そして、その日の放課後に、犯人を呼び出した。

 呼び出した場所は体育館の傍らにある池の前。

 決着をつける場所としてはうってつけの場所だろう。

「風水水海が殺害された十二月三日の火曜日――その前日の十二月二日月曜日の行動から順番に追って考えてみる」

 僕は精一杯、りりすちゃんのように話す。

「まずは月曜日、彼女はちゃんと丁嵐学園に登校してきていたみたいだ。しかし、その日の晩は帰ってこなかった。彼女が帰ってこないのは別に不思議なことではないらしく、日常的なことだそうだ。この翌日の火曜日は大雪で丁嵐学園も休校となっていたため、風水水海の友人は彼女の姿を一日通して目撃していない。次に風水水海が発見されたのは水曜日の早朝、桜庭谷高校の体育館だ」

「…………」

 犯人は何も言わない。

「十二月二日月曜日の午後から十二月四日水曜日の午前中に殺されたものとして考えられるが、これには死亡推定時刻というものが出ている。死亡推定時刻は三日の午前十時から十二時の間とのことだ。しかし、七時、十二時、三時には、三人の先生が別々に体育館へと立ち寄って調べている。そして体育館には変わった様子はなかったとも証言している。先生方の証言が虚実である可能性も十分に考慮しながらも、この証言が正しいものとして考える。すると、ここから考えられることは十時から十二時の間に殺されて、三時以降に体育館に移動させたというものだ」

「…………」

 犯人は何も言わない。

「しかし、これに該当する容疑者たちの三日火曜日の十時から十二時のアリバイに問題らしい問題はなかった。だけど、死亡推定時刻もアリバイもこの場合は何の意味もない。風水水海は三日の十時から十二時の間に殺されたのではなく、死んだだけなんだから」

「…………」

 犯人は何も言わない。

「アリバイがあろうとも、そもそも行動した時間が違うのだから、あのアリバイなんてあってないようなものだ。体育館の鍵は閉まっていようと開いていようと、監視カメラのある扉前からの侵入は不可能だから、別の侵入経路を使ったと考えるべきで、体育館の扉に施された鍵なんてどうでもいい」

「…………」

 犯人は何も言わない。

「月曜日の放課後、学校に風水を呼び出して、そこで殺さない程度に身動きが取れない状態にした。死因として絞殺が考えられているようだ。首を閉めて意識を奪ったのかもしれないけど――結果、死ななかっただけで、その時点で死んでいたら死んでいたらで相応の処置を取るつもりだった。絞殺で死ななかったみたいだから身動きが取れない状態にして、体育館に移動させる。この時点で鍵が閉まっているかどうかわからないけど、体育館の正面はなにぶん監視カメラの圏内だから、前もって用意しておいた侵入経路を使用したんだろう。この場合における侵入経路はトイレと体育倉庫に繋がる窓のふたつだ」

「…………」

 犯人は何も言わない。

「人ひとり分の高さがあるから、苦労はするだろうけど、それでも足場になるものを調達すればできることだ。死体を体育倉庫なりトイレなりに放り込んで、身動きが取れない状態にして、更には声もあげられないようにして放置する。これが月曜日の放課後だ」

「…………」

 犯人は何も言わない。

「続いて翌日の火曜日。何食わぬ顔で学校に登校して来て、そのまま普通に帰宅する。これはあの大雪の日だ。そして午後三時以降、いや、教員が帰宅した時刻、それこそ五時以降に学校へ向かう。校内の監視カメラに関しては学校の周りにあるフェンスを辿って体育館まで行けば基本的に映り込むことなく移動できる。そして、体育館内に再度潜入して風水の様子を伺う。極寒に適度な栄養も摂らされることなく放置されていたのだから衰弱しているだろうし、それに極寒の環境下なんだから死亡している。ここで死んでいなければ首を締め直して殺せばいいだけだから、死んでいようと死んでいなかろうと関係はない。ただこのときは死んでいたというだけだ」

「…………」

 犯人は何も言わない。

「これが僕なりの事件に対する推理とやらだ」

 僕は言う。

 風水水海を殺した殺人者で、定刻刻樹と鎖理りりすの殺人未遂者に対して僕は言う。

「きみのこの事件に対する答えを聞かせてほしい」

 それじゃあ、まだ月曜日。

 僕はそう言って、犯人を残して帰宅した。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る