第五章『いえ、なんでもありません』
第39話『考えろ、考えろ、考えろ』
1.
退院したのは十二月十日火曜日のことだった。命に別状はなかったみたいなので、必要以上入院している理由もない。
僕が目を覚ました情報は学校側に行き届いているみたいだが、それでも生徒間には漏れないように配慮してもらった。
警察側からの配慮も相まって学校は口を紡いでくれた。
「…………」
退院後、その翌日。
十二月十一日水曜日は部屋に閉じこもった。
朝食も昼食も夕食も摂らずにずっと部屋にこもった。
第一の殺人事件について。
第二の殺人事件について。
第三の殺人事件について。
考えて、考えて、考えて。
考えて、考えて、考えて。
考えて、考えて、考えた。
「…………」
僕がひとつの結論に行き着いたのは翌朝のことだった。
眠りさえせずに考えていたこともあって早朝になっていた。
朝食を摂って、シャワーを浴びて眠った。
僕が目を覚ましたのはその日のお昼過ぎだった。
再度熟慮していると時刻は四時になっていた。僕は自転車に乗って、およそ一週間ぶりに学校へと登校する。
制服は着ていない。私服姿のまま、自転車に乗って学校に向かう。未だなお出席停止状態なので、日数に関しては気にする必要はない。
自転車置き場に自転車を停めて久しぶりに階段を登る。僕が学校に行っていない一週間の間に手摺りが設置されたようだった。階段の中央と左右に手摺りが設けられている。鈍りに鈍った身体で階段を登る者には助かる。
それでも階段をすべて登り切る頃には息を切らせていた。
階段を登り終えて、職員室に向かって体育館の鍵を借りた。
流石に一人で体育館に向かわせるわけにはいかないとのことだったので、体育担当の三ツ木先生が付き添いでやってきて、体育館の扉を開けてくれた。
「…………」
体育館内を歩く。時間が経ち、記憶も曖昧になって、どの辺りに死体があったのかもう曖昧だ。
別にあれは重要ではない。
僕が確認したいのは体育館だ。
……別に体育館を改めて確認する意味もないが、現場に来て考えるのと椅子に座って考えるのでは、違うものだ。僕には安楽椅子探偵みたいな真似は到底できない。いや、それどころか探偵の真似なんて、僕のような人間にはできないことだ。
それでも、うってつけの人物が意識不明なのだから、僕がやるしかない。
僕の仇を討つのは、僕にしかできないのだから。
体育館内を歩いて、非常用の扉が開かないことを確認して、舞台裏に移動して、舞台の下を覗き込んでから、梯子を使って高所の窓がある場所に登る。
そのまま人ひとりが歩けるだけのスペースがあるところを歩いて窓の鍵が閉まっていることを確認して行く。
時間をかけて一周して体育館の窓はすべて閉まっていることを確認して、再び梯子を使って降りる。
続いてトイレに這入って、窓を開けて外を伺う。
あの日、確認した通りの高さだ。そして女子トイレのほうも確認しようとしたが、三ツ木先生に止められた。
次に体育倉庫に這入って窓を開く。
この部屋の窓と外の差もトイレと同じくらいだ。
それから体育館を出て、体育館の周りを歩く。
池には、未だなお氷が張ってあった。その辺りは当日と変わっていない。
違うと言えば、雪がないことくらいだ。
「…………」
なんというか。
実に未熟で、児戯にも等しい。
りりすちゃんは、ひょっとしたら犯人が誰なのかわかっていたのかもしれない。ほとんどの予想がついていたから、あの日、僕を含めた五人を呼び出した。犯人はわかっていても、それが犯人である裏づけがなかった。
その裏づけを作ろうとしていて――不意打ちを受けた。
そんなところだろう。
だとすれば。
第一の事件、第二の事件、第三の事件。
首吊り、転落死、溺死。
あのときに比べて、異様にやる気が感じられない投げやりな体育館案内の理由も頷けるものだ。
だから。
現にこうして僕も答えに辿り着けた。
児戯にも等しく、遊戯同然の殺人。
この犯人は間違いなく。
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